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48話 魔獣使い


「てめぇが"霧雨の悪魔"かと聞いている。」



男は鋭い視線でゲンサイを睨んだ。

その視線を見れば、誰しもが彼の怒りに気づくだろう。


しかし、ゲンサイはそれを気にすることもなくその問いかけに答えた。



「いきなり攻撃してきて意味のわかんねぇ野郎だな。それに答える義理はこっちにはねぇだろ!」



その言葉を聞いた瞬間、男のこめかみに青筋が立つ。


そして、ゆっくりと懐から赤いアクセサリーが一つぶら下がった円月輪チャクラムを取り出した。



「それがてめぇの答えだな…」


「わけわかんなぁ奴だな。答える義理はねぇっつってんだろ!しつこいんだよ!」


「死ね!」



ゲンサイが肩をすくめてそう答えるや否や、男は一気に距離を詰めてきた。


しかし、ゲンサイもそれには反応していて、かわしながら抜いた剣で相手の攻撃をさらりといなす。



「おいおい、いきなり攻撃してくるとは礼儀がねぇな!」


「ちぃ…」



いとも簡単に攻撃をいなされた男はすれ違いざまに気に食わなさそうな表情を浮かべたが、振り返りながらニヤリと笑みをこぼした。


その瞬間に、今度はサンドワームがゲンサイ目掛けて襲いかかってくる。



「シギャァァァァァ!!」


「あまいのぉ。それはさせんよ!」



ゲンサイ目掛けて襲いかかってくる鋭い牙だらけの大きな口を、体を少し大きくさせたウォタが蹴り飛ばした。


真横から思い切り蹴り飛ばされたサンドワームはその巨体を砂原に叩きつけ、苦しそうに小さくうめき声をあげる。



「なんだ…ありゃ?ドラゴンか?」



巨大なサンドワームの一撃を簡単に弾き返すウォタの姿を男は訝しげに見つめていたが、再びニヤリと笑みをこぼした。



「あいつも俺のもんにしてやる!!」



そう言うと男は右手をウォタへと向ける。


そこには魔法陣のような紋様が描かれており、それが紫色に光り輝くと、ウォタ目掛けて魔法が放たれる。


雷の如く駆け抜ける紫の電光。


しかし…



「俺を前にしてよそ見とはいい度胸だぜ!!」



突然、声が聞こえた方を振り返れば、自分の間合いに詰め寄ったゲンサイの姿があった。


男は攻撃をなんとかかわしたが、放たれた魔法はキャンセルされてしまう。



「ほれほれ!俺を殺すんだろ!?死んで欲しいんじゃねぇのかぁ!?」


「くっ…!」



ゲンサイはそう笑いながら片手剣で連撃を繰り出していく。


男はギリギリのところでそれらをかわしていたが、その速度についていくのがやっとのようで、最後にはゲンサイの横薙ぎを円月輪で受け止める形となってしまった。



「おらぁぁぁぁ!!」


「ぐぅっ!!」



力任せに振り抜いたゲンサイの横薙ぎは、男を体ごと吹き飛ばす。


そして、彼は少し離れた砂の山にぶつかると大きく砂ほこりを巻き上げた。



「少し休んだら元気が出たようだな。」



月明かりに照らされる闇の中、ウォタがゲンサイの横に来てつぶやく。



「…。奴のスキルには気をつけろ。」


「…?先ほどの魔法のことを言っておるのか?」


「そうだ。あれは隷属魔法だ。奴の職業はおそらく『魔獣使い』だろう。」


「ほう…そんな高度な魔法を扱える者に会えるとは。興味が湧くな。」



楽しげに笑うウォタを見て、ゲンサイは小さくため息をつく。



「あのデカブツも奴が操っていたんだろう。一度あの魔法に捕まれば、術者が死ぬまで奴の奴隷だ。あんたでも抗えるかはわかんねぇぞ。」


「ふふん、我は最強の竜種だぞ。そんな魔法など…」


「超級ダンジョンでは苦戦したんだろ?」


「なっ…!なぜそれを!?イノチの奴め、話しおったのか!」



ウォタの焦りようにクスリと笑うゲンサイ。

二人がそんな話をしていると、砂山の中から先ほどの男が姿を現した。


服についた埃をはたきつつ、ゆっくりと近づいてきて口を開く。



「"霧雨の悪魔"…やはり強いな。俺のランクは高い方だが、まったく通用する気がしない。」


「お前如きにゃやられねぇよ。」


「ふん…敢えて聞くがランクはいくつだ?」


「そんなの、教えるバカがどこにいる。」


「確かにそうだ…だから"敢えて"と言ったんだ。だがな、この世界はランクの高さだけで勝敗は決まらねぇ。携帯のソシャゲとは訳が違うってことを教えてやるよ。」


「吹っ飛ばされておいて強気なこった…」


「ふっ…」



バカにするように笑うゲンサイを見て、男は小さく鼻を鳴らした。



「もうわかっているだろうが俺の職業は『魔獣使い』だ。モンスターを隷属できるスキルを持っている。そのスキルで隷属可能なモンスターの数は10体まで。このサンドワームはそのうちの一体だ。」


「ペラペラとおしゃべりな奴だな。自分のスキルについて説明するなんてやはりバカだろ、お前は。」


「ククク…普通の魔獣使いなら10体までなのさ。だが俺は違う。普通じゃないんだよ!!」



その瞬間、男の右目に先ほど手のひらに現れたものと同じ紋様が発現する。


それは瞳とともに紫色に輝き始める。


そして、それを合図とするかのように、砂の中から大小様々な大量のモンスターたちが姿を現したのだ。



「まっ…マジかよ!!なんだこの量は!?」


「質より量というやつか…理にかなっておるな。」


「冷静に言ってる場合か!逃げ場がねぇぞ!!」



さすがのゲンサイもこれには焦りの声を上げた。

見渡す限りモンスターだらけの光景は、悍ましさを覚えるほどだ。


100体…いや1,000体はいるのではないだろうか。


そう思わせるほどの質量が砂の原を埋め尽くしている。



「ハハハハハハハハッ!!こいつらの餌になりやがれ!!」



白い歯を見せ、大きく笑い声を上げている男の指示に合わせ、モンスターたちもジリジリとゲンサイたちに近づいてくる。



「くそっ!」



拳を握り、悔しそうに歯を食いしばるゲンサイ。

そんな中、ウォタだけは余裕の表情を浮かべている。



「さてさて…ゲンサイ。これをどう切り抜ける?」


「…てめぇ、なんでそんなに余裕なんだ?」


「なぜって…たかが格下のモンスターが集まっただけのことではないか。こんなのいくら集まろうがアリみたいなもんだろ。」



ウォタの言葉に、ゲンサイは更に苦虫を噛み潰したような顔をした。


彼はそう言うが、ゲンサイにとってこの状況は非常にまずい。スキルのせいで体は本調子ではないため、本来使える他のスキルにも制限がかかっているようだ。


多勢に無勢な状況下など、いくらでも切り抜けてきた。

数十人のプレイヤーたちに取り囲まれたことだってある。


そんな時、いつも使っていたスキルが今は使えない。

そのことが彼に焦りを感じさせていたのだ。



(どうする!?考えろ…考えろ!俺はまだ、こんなところで死なわけにはいかねぇんだ…どうすれば…どうすればこの状況を切り抜けられる!)



親指の爪を噛み、必死に考えるゲンサイ。

いつものクールさはなく、瞳も泳いでいる。


その様子を見たウォタは、大きくため息をつくとゲンサイに声をかけた。



「お主は強さというものをまだ理解できておらんな。力だけが全てではないのだぞ。」


「うるせぇ!!そんなことはわかってる!!」


「わかっとらんよ…とまぁ、その話は後でだな。今回は仕方がない。我が力を貸してやろう。」


「余計なことはするな!!自分の力で切り抜けられる!!」



振り向きもせず声を荒げるゲンサイの言葉など構うことなく、ウォタは体を再び大きくさせるとスッとゲンサイの前に立った。



「どけっ!余計なこ…」


「黙っとれ、小童。我が一つ指南してやる。」



言葉を遮られ、睨みつけてくるゲンサイを尻目にウォタはそう告げると、深い笑みをモンスターたちへと向けたのだった。

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