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16話 レベルをあげよう


昼食を終えたその日の午後。


アキンドに良い狩り場を教えてもらい、イノチとエレナは最初に足を下ろした森に来ていた。


仕事で街道を通るため、途中まで送ってくれた上に、帰りも送迎有りという優しさ付きで。



「アキンドさんには本当に感謝しないとな。」



イノチは街道から逸れ、森の中を歩きながらつぶやいた。



「そうね…今回の狩りで得た素材とか分けてあげたらいいんじゃない?」


「おぉ…!たまには良いこと言うね、エレナって!」


「たまにはって…どういう意味よ!!」



そんなやりとりをしつつ、森の中を進んでいく。



「ここに出没するモンスターが狩りやすいらしいけど、まさか最初の森だとは…」


「ほんとね…そろそろこの辺でいいかしら。」


「あぁ…」



二人は頃合いの良さげな場所を見つけると、持っていた荷物を下ろして準備を始める。



「とりあえず、俺はこの剣と盾だ。」



イノチはロングソードと木の盾をアイテムボックスから取り出して、自分で装備する。


そもそも、イノチは剣を振るった経験など皆無である。なので、ここに来る前にエレナに少しばかり指導してもらって、今日に臨んでいるのだ。



「教えたとおり、盾はしっかり前に構えること。それに、そのロングソードは打撃性能が高く造られているから、切るというより叩くことを意識して。このことを忘れないでね、BOSS。」


「イエス!マム!」



敬礼するイノチの横で、エレナは自分の装備を整えている。


それも、SRのグレンダガーでなく、エレナの初期装備であるレアリティRのクロスダガーを装備しているのだが、それには理由があった。



「はぁ…グレンダガー、使いたかったなぁ…」


「仕方ないだろ?これ使ったら、エレナが全部一撃で倒しちゃうってアキンドさんに言われたんだから。それじゃあ、俺のレベル上げになんないじゃん。」



アキンドは『鑑定』というスキルを持っており、もともとエレナの持つ『グレンダガー(SR)』が非常に気になっていたらしい。


ぜひ見てみたいと言ってきたので、見せてみたのだが、その時の彼の驚きようはなかった。


まず、ひっくり返った。

そして、手を震わせ目を見開き、ハァハァと息を切らしてこう結果を述べたのだ。



『こっ…これは神器クラスの武器ですぞ!?伝承などにしか出てこないような代物…どっ…どこでこれを…?』



そんなのガチャで手に入れましたなんて言えるはずもなく、適当に誤魔化したイノチだったが…



「やっぱりSRってのはすごいんだな…」



しみじみと思いながら、アイテムボックス内のグレンダガーに目を向ける。



「でも、もうそれはあたしのでしょ?」


「そうだけど…そうだけどさぁ…」



エレナには悪いが、"神器"とか聞いてしまうと、イノチの童心に火がついてしまう。

しかし、約束は約束である。



「だけど、エレナにあげたからな…それより、今はレベルを上げて、いろいろできることを増やしていかないとな。」



イノチはそうつぶやいて、名残惜しそうにアイテムボックスを閉じると、気合を入れ直すように、両頬をパンっと手で挟むように叩いたのだった。





それから数時間。


イノチはプレイヤーレベルを7まで上げていた。



「けっこうレベルアップしたな。あとちょっとでレベル10になるけど…」



剣と盾を構えたまま、イノチが空を見上げると、陽はすでに落ち始め、辺りも少しずつ暗くなってきている。



「BOSS?さっさとトドメを刺してちょうだい。」



先ほどまで戦っていたエレナが近づいてきて、弱らせたモンスターを指差してそう告げる。



「お…おう。」



イノチは盾を前に構えながら、身動きが取れずにいるモンスターに近づいていく。


狼のようなモンスター。

名前は『ウルブズ』といい、毛は銀色で、双眸は赤い、こういったRPGでは定番のモンスターだ。



イノチがロングソードを振り下ろすと、ギャンッという断末魔を最後に、モンスターは光の粒となって消えていく。


そして、一部の粒子がイノチの体に吸い込まれ、モンスターがいた場所にはツメよようなものが落ちている。



「この感触…やっぱり慣れないな…」



落ちているドロップ素材を拾い上げながら、イノチはそうこぼす。


ビッグベアの時もそうだが、モンスターは倒すと光の粒となって消えていく。死体も血痕なども残らない。


だが、今回戦ってみてわかったことがある。モンスターに剣が当たった時の感触は本物のように感じられるのだ。


肉にめり込む剣の感触と、骨を断つ重く鈍い音は、イノチに不快感を与えた。



「何もこんなところまでリアルにしなくてもいいのに…体感型といってもここまでとは…運営こだわりすぎだろ。」


「なに甘えたこと言ってんのよ。弱肉強食…やらないとあたしたちがやられるのよ。」


「そうだけどさぁ…」


ゲームだと少し甘く考えていたイノチは、エレナに正論を突きつけられて、少ししょんぼりとした。


そんなイノチに切り替えるようにエレナが声をかける。



「ところでBOSS…どうするの?このまま続けても良いけど、そろそろ陽が落ちるわよ。」


「確かに…俺もそれを考えてたんだ。今日中にレベル10にしたかったけど、無理そうだよなぁ…」


「アキンドも言ってたけど、この森、夜はモンスターが活発になるらしいから、続けるなら気を引き締めないとね。」


「う〜ん…やめとこう。迎えも来るし…」



そういえばアキンドがそんなこと言っていた。


夜は強いモンスターが出没するって。

過去に何人かの冒険者が帰ってこなかったって。


イノチはそれを思い出し、ゲームとはいえど、背筋に冷たいものを感じ、身震いしながら帰ることに決めた。



迎えの馬車が来るところまでは、20分ほどかかる。


帰り支度を済ませると、イノチたちは馬車のところまで移動を始めた。



「明日でレベル10になるだろうから、そしたら今後の大きな方針を決めようとおもうんだ。」


「大きなホウシン…?」



歩きながら話すイノチに、エレナが首を傾げる。



「そう、方針。他の街にも行きたいし、『フレンド』とかの機能も気になる。ギルドにも興味あるしね。それに、この冒険の目的…アリエルに聞くの忘れてたけど最終目標が何かわからないからな。」


「なるほどね…まぁその辺のことはぜんぶBOSSにまかせる。あたしにはわからないもの。」


「あのなぁ…まぁいいけど。」



適当な感じで答えるエレナにため息を吐きつつ、イノチは話を続ける。



「あとは『希少石』な!レベル10のお祝いに引こうと思ってるから、よろしく。」


「どうぞ…お好きに。…っ!?」



またかガチャか、というようにエレナはそれに応えたが、急に何かに気づいたように立ち止まると、イノチの前に手を出した。



「どっ…どうしたんだよ、急に!」


「静かに…なにか変な気配を感じるのよ。」


「マジかよ…またモンスターか?」



エレナの真剣な表情を見て、イノチは押し黙った。ビッグベアの時もそうだが、こういう時のエレナはかなり嗅覚が鋭いのだ。



「…いえ違う…おぞましい気配なのは違いないんだけど…近いわ、こっちね。」


「おっ…おいって!」



急に歩き出したエレナの後を、イノチも焦って追いかける。


草をかき分けて進んでいくと、エレナがあるところで止まった。



「エッ…エレナ?どうしたんだよ…急に進んだり止まったり…」


「……」



エレナはそれには応えず、何かを見上げるように目の前を見据えている。


イノチはどうしたのかと疑問に思い、エレナが見ている方向に目を向けた。



そこには、まるで二人を誘なうかのように口を大きく開いている入口のようなものが、静かに腰を据えていたのだった。

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