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29話 ラビリスの神獣


「飽きたわ…!」



エレナが唐突につぶやいた。



「確かに…ですわ。」


「本当だよぉ♪ずぅっと歩いてるだけだと嫌になるねぇ♪」



フレデリカとアレックスも我慢の限界のようで、エレナの言葉に賛同する。


イノチたちが『ラビリスの大空洞』に潜って数時間が経ったが、今のところユニークモンスターに出会う気配はまったくない。


それどころか、ネズミ1匹たりとて出会う気配はなかった。


イノチもハンドコントローラーでマップに索敵機能を加え、警戒しながら進んでいたのだが、生き物の影すら映ることはなく、最初の1時間でやめてしまっていた。


今は反応があればアラートがなるようにして、自動で索敵を行わせている。



「確かに生き物がまったくいないんだよな。こんなことってあるのか?今までのダンジョンでも、虫くらいはいたけど…」



ものを聞くならフレデリカと言うように、イノチはフレデリカに視線を向けたが、彼女も首を横に振る。



「この大空洞は一応自然にできたものらしいので、虫1匹いないなんて考えにくいのですわ。何が特別な理由があるのかもしれませんわね。」


「なんでもいいんだけどさ…せめてザコキャラくらい出てきて欲しいわよ、ねっ!!」



エレナはそう言うと、足元にあった石ころを思いっきり蹴飛ばした。


大きく弧を描いて飛んでいく石ころ。

それが最後にたどり着いたのは、広い通路に転がる大きな岩の影だった。



「イテッ!!誰だミノ!?石なんか蹴って危ないミノ!」



鈍い音の後に、聞き慣れないおかしな声が聞こえてくる。

明らかに語尾がおかしいその声は、石をぶつけられて怒っているようだ。



「なっ…なんかいるわよ…」


「だっ…だな。」



イノチたちが戸惑いながら様子を伺っていると、岩の影から声の主が姿を現した。



「お前たちかミノ!」



その姿を見て、イノチはさらに驚いた。


頭に大きな角が二つに二本足で立ち、鼻には金色の輪っかを携えていて、筋肉質な体とそれを覆う頑強な鎧。


蹄のように見える手には巨大な斧を持っているが、その太い腕なら簡単に振り回せそうだった。


しかし、一番驚いたのはその顔だ。



「うっ…牛男!?」


「誰が牛男だミノ!!石をぶつけたり、悪口言ったりと失礼なやつだミノ!!!」



イノチの言葉に鼻息を荒くする牛男。

頭から湯気を立て、プンスカと手足をジタバタさせている。



「あれって…亜人か?」


「アジン…?なにそれ?」



イノチの言葉に首を傾げるエレナの横で、フレデリカが口を開く。



「BOSSが言っているのは亜人族のことです?それならば違いますわ。亜人族は確かに人間とは種族が違いますが、見た目はほとんど一緒ですわ。この私が良い例です。」


「そう言えばフレデリカはドラゴニュートだったね。なるほど…ならあれはモンスターということか…」


「おそらくは…しかし、あまり脅威を感じないのは気のせいですの?」



離れた場所で地団駄を踏んでいる牛男を見ながら、フレデリカは肩をすくめる。



「お前ら!さっきから何ごちゃごちゃ言ってるミノ!?俺さまが神獣のミノタさまだとわかってるミノか!?!」



憤慨している牛男の言葉に、イノチは少し驚いた。



「おっ…おいおい…あいつ、自分のこと神獣って言ってるぞ。てことは、あいつが『ユニークモンスター』ってことか?!」


「真偽はわかりませんが…そっ…そうなのでしょう。」


「あれが…?拍子抜けだわ…」


「でもさでもさ♪ちょっと可愛いよね♪ミノミノ言ってるし♪」



少し驚いたイノチとフレデリカ。

横ではエレナが肩を落とし、アレックスが嬉しいそうに頬を赤らめている。



「お前らぁー!馬鹿にしているのがなんとなくわかるミノ!!許さないミノ!!!おりゃぁぁぁぁぁ!!」



そんなイノチたちに怒り浸透のミノタは、斧を片手で振り上げると思い切り投げつけてきた。



「おわっ!あいつ、斧投げてきたぞ!!」


「はぁ…とりあえずよけましょう。」



そう言うと、エレナはイノチをつかんで斧の軌道から飛び退ける。フレデリカとアレックスもとりあえずはそれに合わせて飛んでくる斧を回避した。


グルグルと弧を描いて勢いよく飛んでくる斧は、イノチたちがいた場所を通り過ぎると、まるでフライングディスクのようにミノタの元へと戻っていく。



「すばしっこい奴らだミノ!!」



そう言ってミノタが手を上げると、そこに引き寄せられるように斧が飛んでくる。


彼はそのまま、いとも簡単に回転していた大きな斧をキャッチすると、今度は突進してきたのである。



「それなら直接ぶっ潰すまでミノ!!」



体格はそこまで大きくないが、質量を感じさせる地響きを立てて、斧を振り上げて突進してくるミノタ。



「アレックス、よろしく。」


「はいよぉ♪BOSSぅ♪」



冷静に指示するイノチ。

ミノタに対して、漆黒の盾を構えたアレックスが前に出た。



「チビがぁぁぁ!!叩き潰すミノォォォォ!!!」


「あは♪きてきてぇ♪」



ミノタは目の前に現れた小さな少女に、彼女が構えている盾に向けて腕に力を込めて振り下ろす。


金属と金属がぶつかり合い、火花が散って大きな音がこだました。


衝撃波で砂ほこりが舞い上がり、アレックスの足が地面にめり込んで亀裂が走る。



「あはは♪中の上ってとこかなぁ♪」



しかし、アレックスの様子に驚いたのはミノタである。

普通の人間ならこの一撃で跡形もなくなるほどの力を込めたはずなのに、目の前の少女はそれを簡単に受け止め、笑いながら平然としているのだ。



「おっ…お前なんなんだミノ!!??」


「ねぇ♪♪♪これで終わり?♪♪♪もっとないのぉ♪♪♪」


「…ぐっ!?」



ミノタはその少女の表情を見て、一瞬背筋に冷たいものを感じた。


アレックスの顔に浮かぶ愉悦の表情は、ミノタに恐怖を感じさせたのだ。



「あれさ…始まってるよな?」


「えぇ…始まってますわ。」



イノチは大きくため息をついた。

アレックスはああなってしまうと手がつけられないからだ。


一度ウォタと手合わせした時もそうだった。

ウォタの攻撃を受けることに愉悦を感じ、歯止めが効かなくなったのだ。


受けることに楽しさを感じた瞬間、彼女の中で何かのリミッターが外れる。


それが『戦闘狂バトルジャンキー三姉妹』の三女、アレックスの本来の姿であった。



「もっともっとぉ♪♪♪キャハハハハ♪♪♪」


「こいつ、なんなんだミノ!?キモいミノ!!」


「気持ち悪いとかひどいなぁ♪♪♪君の攻撃はいい感じに気持ちがいいよぉ♪♪♪」



何度も斧を叩きつけるミノタに対して、アレックスは楽しげな声を上げる。



「…あれはどうしたらいい?俺はどうするべきだろうか。」



あきれたようにこぼすイノチの肩を、エレナとフレデリカがポンっと叩いてこう告げた。



「「放っておきましょう。」」





「ハァハァ…いったいなんなんだミノ。こいつ…いくら叩いてもびくとも…」



さすがに疲れたのか、呼吸を荒くするミノタに向かって、アレックスが盾の端から顔を出す。



「ねぇ…もう終わりなのかなぁ…」


「…くっ!!」



目をうるうるとさせて覗き込むアレックスを見て、ミノタの中に再び怒りの炎が燃え上がった。



「もう怒ったミノ!!うがぁぁぁぁぁぁぁ!!」



そう叫んだミノタの体に変化が現れる。



「もしかして…♪これって…♪ワクワクドキドキ♪」



アレックスが期待を胸に見守る最中、ミノタの体は巨大化していく。



「こっ…これは予想外じゃね!?」


「でも、リュカオーンだって体は大きかったですわ。」


「そうよ、BOSS。驚くことではないわ。」


「そっ…そういうもんなのか…?」



なぜか一人認識違いを気づかされて途方に暮れているイノチをよそに、ミノタの体は元の何十倍にも大きくなっていった。


そして、高く広い通路いっぱいに体を膨らませ、大きく叫び声を上げた。



「これならどうだぁぁぁぁぁ!!うがぁぁぁぁ!!!」

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