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26話 潜む決意


「やっぱりお前はバカだと思う。」



オサノはタケルを見てそうつぶやいた。

それに対してタケルは笑うだけ。



「タカハのユニークモンスターが何なのか、お前忘れてないよな?」


「当たり前だろ?あんなの恐ろしい記憶を忘れるわけない!」


「だったらなぜだ!!」



オサノはタケルの作戦には反対していた。


彼らの話すタカハのユニークモンスターは日本神話でよく知られている怪物である。


その名を『八岐大蛇』と言う。

この『八岐大蛇』には特殊な要素があり、普段会うことはできない。


その要素とは『条件付きのレイドイベント』。


『八岐大蛇』はある場所であるタイミングである事を行うとその姿を現し、人々に襲いかかってくるのである。


世界を周り、多くのユニークモンスターを目にしてきたタケルとオサノだが、最後に出会ったのが奇しくもこの『八岐大蛇』だったのだ。



「あれはヤバいぞ!リュカオーンとは訳が違う。いくら俺たちが以前より強くなっていたとしても、勝てるか分からん…それはお前にだってわかっているはずだ!」


「確かにそうかもしれないね…」



タケルは小さくため息をつく。


タケルがイノチと出会う前…

今から約半年ほど前に、タケルはタカハから着たプレイヤーに『八岐大蛇』の噂を聞いていた。


そして、その姿を一目見ようと、何も考えぬままタカハの街へ向かったのである。



「あれは僕の贖罪だ…」



目をつむり、そうこぼしたタケルにオサノは何も言えなかった。


当時、タケルのランクは『38』。

その程度では、ユニークモンスターに挑むことすら難しい。


しかし、各地のユニークモンスターたちは迷宮やダンジョンの奥に生息していることが多く、こちらが何もしなければ襲ってこないことを知っていた彼は、今回も同じように考えて『八岐大蛇』に挑んだのだ。


誤算があるとすれば、八岐大蛇が『条件付きのレイドイベント』であったことだ。


一目見るつもりだったタケルに対して、八岐大蛇は姿を現した瞬間、襲いかかってきたのだ。


タケルを含め、孤高の旅団は立ち向かった。

力の差は歴然だったが、タケルたちはそうせざるを得なかった。


なぜならば、そこには村があったから。


新月のイベント『朔夜の八頭龍』。

10人以上のプレイヤーがタカハの街にいる状態で、タカハから北に進んだ小さな村にある祠に、指定のアイテムを供えることで発生するレイドイベント。


イベント発生の瞬間から、タカハの街にいるプレイヤーは全員強制参加となる強襲イベント。


村は一瞬で灰と化し、村人たちは全て八つの頭を持つモンスターに食べられてしまった。


命辛々逃げ帰ったタケルたち『孤高の旅団』だったが、彼らの心には恐怖と後悔が刻まれたのである。



(願ってもいないタイミングなんだよ…イノチくんには悪いけど、この機を利用させてもらうよ。)



タケルは目をゆっくり開けて、前を見据え直した。

その目には何かを決した想いの炎が燃えていた。





イセの街と同様に、タカハの街にもギルドがある。

もちろん冒険者ギルドと商人ギルドだ。


タカハの街で活動するプレイヤーはだいたい50名ほどだが、彼らの多くは両ギルドへ登録を行っていて、ギルドに属している。


しかし、他の街とは違う点がタカハのギルドにはあった。


それは冒険者ギルドのマスターが、プレイヤーであるという点だ。


本来、ギルドマスターという地位にはこの世界の住人が就いていることが多いが、タカハでは前任の冒険者ギルマスを倒し、その地位についたプレイヤーがいるのである。


彼の名は『フクオウ』。

タカハの冒険者ギルドマスターであり、タカハ最大のクラン『Spicy cod roe』、通常SCRのリーダー。


職業は『侍』、ランクは『85』。

性格は一言で言えば、"武士"である。


正義感が強く、義に厚い。

礼儀正しく、自信に満ち溢れていて仲間からの人望も厚い。


直感力が強く、物事はあまり考えないが、頭は悪くない。


そんな性格だからこそ、彼はタケルの提案をきっぱりと断ったのだが…



「なに?また、彼が来たのか?」



クランメンバーの言葉に驚くフクオウ。

畳が一面に敷かれた部屋に正座し、テーブルに向かってギルマスの仕事をこなしていた彼は、持っていた筆を止めて振り返った。



「昨日話は終えたはずだが…」


「そうですが、本日は別の件だとおっしゃられております。」


「別の件…むぅ、我らも忙しいと言うのに。内容は何なのだ?」



待っていた筆を硯に置くと、報告してくれている仲間に体ごと向き直る。



「それが…あるイベントのことで話があると…」


「…イベントだと。」



フクオウは眉をひそめ、背筋を伸ばして顎に手を置く。



(もしや、我々が調べている“例"のレイドのことであるか?そうであるならば…しかし、なぜ…)



少し考えて、フクオウは口を開いた。



「わかった。会おう。客間へ案内しておいてくれ。」



報告者はうなずくと部屋を出て行く。

フクオウはその背中を静かに見つめながら見送った。





「昨日に引き続きごめんね!」



目の前では『孤高の旅団』リーダーのタケルが、両手を合わせてすまなさそうな顔をこちらに向けている。



「全くである…で、今日は何用か?」



低いテーブルの前であぐらをかくタケルに対して、フクオウは対面にあぐらをかいて座り込んだ。



「あるイベントの件で話があってね。あぁ、ありがとう。」



フウオウはタケルの前にある湯飲みにお茶を注ぐ。

自分の前の湯呑みにも同様に注ぐと、口を開いた。



「イベントとな…して、そのイベントとはどのようなものなのだ?」


「タカハの強襲イベントって言ったらわかるかな?」


(やはりか…)



ニヤリと笑うタケルの言葉を聞いて、フクオウはあごをさする。



「もちろんだ。なにせ冒険者ギルドと我らクラン『SCR』が血眼になって探しているイベントの一つだからな。しかし、なぜお主がそれを知っておるのだ。」


「それは言えない。」



不敵な笑みを浮かべるタケルに対して、フクオウは訝しげな表情を浮かべた。



「だけど、発生条件なら教えられるよ。」


「これまた面妖なことだ。なぜお主がそれも知っているのか。まぁ…どうせ答えは"言えない"のであろう?」


「ご名答。」



平然とお茶をすするタケルを見て、フクオウはため息をついた。



「で、お主の要望は何だ?昨日の話の続きか?いや、それは違うか…そうならば昨日それを提示していたはず…」


「へぇ…君でもいろいろと考えを巡らすことがあるんだね。」


「私だって考えることはある。人を軽挙妄動のように言うのはやめてもらおうか。」



タケルの言葉に、持っていた湯呑みをテーブルに強く叩きつけるフクオウ。


しかし、それでもなおタケルは飄々とした態度で話を続ける。



「相変わらず短気だなぁ。別に要求なんてないさ。単に奴を倒したいだけだからね、僕は。」



フクオウは信用できなさそうにタケルを見ている。

それに気づいて、タケルは小さく息を吐く。



「まぁ、そりゃそうか。疑いもするよね。ならさ、お願いを一つ聞いて欲しいんだけど…」


「願い…とな?」



タケルはうなずいた。



「あぁ…トドメだけは僕に…この手で刺させてくれ。」


「わっ…わかった。」



絞り出すようにそう告げたタケル。

フクオウは彼の目を見て自然とうなずいてしまった。


その瞳に気圧された…

いや、彼の中にある底知れぬ決意を感じ取り、うなずくことしかできなかったのであった。

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