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22話 ガチャの裏技


「BOSS…彼がきました。」


「やっときたかぁ。はぁ〜」



黒いロングコートの女性に声をかけられ、タケルは大きく息を吐くとイスから立ち上がる。

そのまま部屋を出ると、ドアの横で待機していたガージュが後に続いた。



「ガハハハハ!!やっと退屈な時間からおさらばだな!」


「あなたは少し品位を高めたほうがよろしいのでは…?」



隣で歩くサリーに冷ややかな目を向かられるが、ガージュは気にすることなく笑っている。



「サリー、来たのはオサノだけ?」


「はい。他の御方は『イズモ』で仲間を集めてから、来られるそうです。」


「それは助かるな!さすが『孤高の旅団』のメンバーたちだ。頼りになるよ!」



その言葉に嬉しそうにうなずくサリーの横で、ガージュはまだ笑っている。



「じゃ、サリーはミコトを呼んできてくれる?ガージュは一緒に来て。」



その言葉にサリーは軽くうなずいて姿を消した。





「よう、タケル!久しぶりだな!」



部屋に入ると、ソファーに座っていた男が声をかけてきた。


体格はガージュ並みにいかつく、袴のような着物を身につけ、口には長ぁーい爪楊枝をくわえている。

片目に傷があるその男は、お茶をゆっくりとすするとその湯呑みを置く。



「やぁ、オサノ!久しぶりだね!元気してた?」


「あぁ、もちろんだ!日々の鍛錬は忘れていないぞ!」


「カカカカカ!さすがはオサノだぜ!相変わらず真面目だなぁ!」


「ガージュも相変わらず豪快だな!!グハハハハ!!」



大きく笑い合っているオサノとガージュをよそに、タケルはオサノの前に座る。

そのタイミングで、サリーに連れられたミコトが部屋に到着した。



「おぉ、ミコト殿!!元気そうで何よりだ!!」


「オサノさん!お久しぶりですね!!イズモの街ではお世話になりました。」



立ち上がってミコトの方を向くオサノ。

丁寧に頭を下げるミコトに対して、その目はどことなく輝いているようだ。


それもそのはず。

『イズモ』で顔を合わせた際に、オサノはミコトの愛らしさに惚れ、恋に落ちたのである。


まぁ、一方的に自分の純愛を向けているだけで、ミコトには一切届いていないが…



「オサノ!本題に入るよ。」



顔を赤くするオサノに、ニヤッとしながら声をかけるタケル。


オサノは名残惜しそうに咳払いをすると、イスへ腰を下ろす。ミコトもタケルの横に座るが、それを見たオサノが悔しそうな顔を浮かべる。



「オサノってさ、見かけによらず小心者なんだよな!知ってた?ミコト!」


「え…?そうなんですか?とても強いのに…?」


「なっ…!タケル、何を突然に!!」



突然のタケルの言葉に、オサノは再び顔を赤くして声を荒げた。


それに大笑いしながら、タケルが話を始める。



「ハハハ…ごめんごめん。冗談だって!さぁ、さっさと本題を済まそう。」


「むう…」



恥ずかしそうに声を小さくするオサノ。

ニヤニヤしながら、タケルは話を進めていく。



「まずはこれからのこと。メッセージにも書いたけど、昨日この街で一番でかいクランのリーダーに会ってきたんだ。」



オサノは無言でうなずいた。



「ランク戦の話を踏まえて、一時的に手を組まないかと提案したんだけどね…結果は惨敗さ。」



タケルは肩をすくめた。



「理由はなんだって?」


「単純明快…組む理由がないんだと。他のクランの奴らなんか自分たちで迎え撃てるから、僕らと組む必要はない。余計なお世話だと言われたよ。」


「しかしまぁ、そいつの言うことも確かではあるな。知らなければ、別に他国のプレイヤーが脅威とは思わん…」


「そっ!オサノの言うとおりなんだよね。みんな、他国のプレイヤーの怖さを知らないんだ。」


「どうするかだな…」



腕を組んで悩んだ様子のオサノ。

二人の様子を見て、ミコトが疑問を投げかける。



「二人は他国のプレイヤーの強さを知ってるんだね。」


「…ん?そっかそっか!ミコトにはまだ話してなかったっけ。僕らのクランはさ、一時期いろんな国を歩き渡っていたんだ!」


「国を出て…旅をしていたの?」


「…まぁ、理由はいろいろあるんだけどね。」



目を泳がせて困ったように笑うタケル。

イノチはこの世界の真実をミコトに伝えた時、タケルが最愛の人を失った話は伝えていない。


それは、イノチなりの配慮だった。


言いにくそうに頬を掻くタケルの代わりに、オサノが口を開く。



「ミコト殿はこの世界から逃れる術を知っているな?」


「はっ…はい。『キーモンスター』と呼ばれるユニークモンスターを倒して女神の像を手に入れること。そうすれば、元の世界に帰れる…」


「そうだ。しかし、ユニークモンスターは世界中に点在していてな。この国にいるだけでは倒すことはできない。だから、そいつらを探す旅をしていたと言うわけだ。」



タケルはオサノへ感謝の視線を向けた。

オサノも目で応えながら、話を続ける。



「その時に何度か他国のプレイヤーと戦うことがあった。突然襲われたこともあったし、決闘を申し込まれたこともあったな。」


「でも、皆さんは勝てたんですよね。」


「もちろん。負けていたらここにはいないからな。」



オサノは湯呑みを手に取り、口へと運んだ。

そして、「このお茶、うまいな。」と呟きながら、湯呑みを置くと続きを話し始める。



「しかしな…奴らははっきり言って強かった。ほとんどのやつが『SR』以上の装備を持っていたからな。ギリギリの戦いも何度もあった…」


「ほっ…ほとんどが『SR』装備って…あれって、そんなに簡単に集められるものなんですか?!」


「ミコトの疑問の通りさ!普通はなかなか集めきれないよ。」



驚くミコトに、タケルが少し真面目な顔で応える。



「彼らは『黄金石』にゴールドを注ぎ込みまくっている、言わば"廃課金者"って奴らだ。それに加えてある裏技も使っている…」


「裏技…?」



タケルは一呼吸おく。

小さく息を吐き、ミコトに視線を向ける。

対するミコトは、タケルの真面目な顔を見て息を飲んだ。



「それはね、『キャラクター』の還元さ。」


「キャッ…キャラクターの還元?それって一体どういうことですか?」


「簡単なことさ。そこにいるサリーやガージュたちを強制的に死に追いやるんだ。携帯端末にそのボタンがあるよ。」



タケルの言葉に、ミコトは驚いた様子で携帯端末を取り出す。そして、タケルに言われた通りにアイコンをタップしていった。



「これ…ですか。」


「それそれ!『キャラ一覧』の右下にある『還元』ってボタン。それを押すと、キャラクターは全て"あるアイテム"に還元されるんだ。」


「あるアイテム…?それって…」


「『希少石』って言って、SR以上が確定するアイテムだよ。」


「SR以上が確定……でもですよ!還元された皆さんはいったいどうなるんですか!?」



うつむくタケルに変わり、オサノがそれに応える。



「どうなるかはわからん。だが、消えてしまうことは間違いない。だから、俺たちはそれを『キャラクターの死』と呼んでいる。」


「死…ぬ…」


「あぁ、そうだ。ここはゲームとは違うからな。ガチャ魔法で手に入れたキャラクターにも命はある。それはミコト殿も知っているだろう。」


「そんな…そんなこと…そんなことって!!」



ミコトは怒りと悲しみに声を荒げた。

しかし、オサノは冷静にそれに応える。



「ミコト殿の気持ちもわかる。だが、他国ではそれが現実であり、それゆえにジパン国のプレイヤーよりも確実に強いんだ。」


「そんなの…ひどいです。うぅ…」


「そう思うよ…だからこそ、そんな奴らをこの国にのさばらせるわけにはいかないんだ。」



タケルの言葉に、ミコトは涙を拭う。



「…そうだね!絶対に防がなきゃ!!でも、どうやって…みんなを一致団結させるの?」


「それについては、考えがあるんだ。」


「ほう。さすがタケルだな。では、うちのクランリーダーの策とやらを聞こうではないか。」



オサノの言葉にタケルは大きくうなずくと、ニヤリと笑って立ち上がった。



「タカハのユニークモンスターの討伐だ!!」

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