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20話 スーパーなスキル


「お前…勝屋か?」



ーーーまずい…バレたか!?



イノチはその問いかけを聞いて、鼓動が大きくなるのを感じた。


この世界での容姿は、元の世界とほぼ一緒だ。

タケルの言うとおり、ここは現実と変わらないのだから、元の容姿でいることには、なんの疑問もない。


まぁ、チュートリアルでアバター設定がない時点で、これがゲームか否かについて、疑問を持つべきだったと反省したことは伏せておく。


話が少しそれたが、結局は言いたかったことは、元の世界と顔が一緒なので、知り合いがいれば自然とわかるということである。


イノチはアカニシのことを声で思い出していたが、本当に確信したのはその顔を見てからだった。


アカニシにとってもそれは同じこと。

イノチの顔を見た時、彼の瞳に疑いの色が灯ったのはそれが理由である。


しかし、彼はまだ、目の前に立つ男が『勝屋イノチ』であるかどうか、確信はしていない。



「…勝屋?誰だ、それは?」



イノチはとぼけた口調でアカニシを見る。



「てめぇの事だ…お前は『勝屋イノチ』じゃないのかって聞いてんだよぉ!!…ハァハァ。」



イノチの態度にイラ立ちを隠さないアカニシ。

イノチはそんな彼に対して、飄々と答える。



「俺を誰かと勘違いしていないか?俺の名は『カチヤイノチ』とかいうダサい名前じゃない。親からもらったちゃんとした名前がある。だが、ここでそれを言うほど、俺もバカではないよ。お前たちは国側の人間なのだろう?」



イノチの言葉に、アカニシは混乱していた。


目の前にいるのは確かに『勝屋イノチ』であるはずだ。

他人の空似の可能性もあるが、ここまで同じ顔の人間は絶対にいない。


だが、そうであるならば、本来あるべきものがないのはおかしいのだ。


アカニシの視線が、自分の頭の上を一瞥したことにイノチは気づく。

そして、自分の正体が彼にバレていないことを悟った。



「…お前…プレイヤーじゃないのか?」


「…プレイヤー?なんだ、それ?」


「何者なんだよ…てめぇは…!!」



イラ立ちを隠せないアカニシを見て、イノチは小さく笑みをこぼすと、質問を始めた。



「雑談はここまでだな。お前たちのことを聞かせてもらうぞ。わかっていると思うが、彼女は俺ほど寛大じゃない。」



イノチに指差され、そう言われたエレナは少し不満げだ。



「聞いたことには正直に答えろよ。誤魔化したり、こちらが疑問に思えば…わかるな。」


「…くっ…」



アカニシは、バツが悪そうだったが、答える気はなさそうに無言を貫いていた。


その様子を見て、イノチは最悪の場合も想定する。


そう、最悪の場合、彼のことを…


そこまで考えて、イノチは心の中で頭を振った。


それはダメだ。

いくら彼に恨みがあっても、それは絶対にダメなのだ。


イノチは切り替えて、口を開く。



「…まずは、お前たちの組織について、詳しく教えてもらおう。」



しかし、そう告げたその時だった。



「BOSSっ!!!」


「…ん…ぐわぁ!!」



フレデリカが突然、ものすごい勢いでイノチの腕を引っ張った。


スローモーションで映し出される視界。


後ろに向かってよろけるイノチの代わりに、盾を構えたアレックスが前に出た。

エレナもその横で、刃がボロボロになったダガーを構えて、臨戦態勢に入っているのが見えた。


次の瞬間、アカニシとアレックスの間に、巨大な水柱が勢いよく立ち上がる。



「なっ…なんだ!?」


「敵襲よ!!」



アレックスの盾越しに叫ぶエレナ。

彼女が見据える先に、イノチも視線を向ける。


音を立てて立ち上がる水柱を挟み、アカニシの前に立つ鎧の男。


数種類の青を基調とした鎧を、頭から全身に身にまとい、黄金に光る三叉の矛を手に持つ姿は、"海の戦士"という言葉がよく似合っている。



「うちの副団長たちがお世話になったようで。」



鎧の中からは爽やかな声が聞こえてきたが、鎧と水柱の音のせいで、少しこもっている。



「あんた…何者よ!?」



エレナがキッと睨みつける。

しかし、男は気にする様子もなく、飄々と答えた。



「俺?俺は『創血の牙』サザナミの支部長セイドだ!よろしく!」



日本の指を、自分の額からこちらに向かってピッと動かして挨拶するセイド。



エレナはその態度にイラッとした。

しかし、セイドは構わず、あたりを見回しながら話し続ける。



「あらら…壊滅だな、こりゃ!ハーデもメテルもやられちゃって。副団長、ここは一旦引く方向でいいっすか?」



こくりとうなずいたアカニシ。

それを確認したセイドは、待ってましたとばかりに両手を広げた。


すると、広間の様々な場所から水が勢いよく湧き出して、倒れているハーデやメテル、他の仲間たちの体を持ち上げ始めたのだ。



「なっ…!?」


「うわぁ〜♪すごいねぇ♪」



エレナは驚き、アレックスは喜び、フレデリカはその魔法をジッと見据えている。


その水は、セイドの命令に従って、倒れた仲間たちを広間のさまざまな隙間から運び出していく。


ほとんどの者を運び出すまでに、そう時間はかからなかった。


唖然とするエレナとイノチ。

セイドは二人に向かって、兜の下で笑いながら声をかける。



「ほんじゃ、まぁ、さいならと言うことで!!」


「…ちっ!逃すわけないでしょ!!」



その言葉にハッとしたエレナは、逃すまいとダガーを構えて飛びかかるが…



「無理無理!」



目の前の水柱は厚く、エレナの攻撃は全く通らなかった。

ただ遊ぶようにバシャバシャと水を切るエレナをよそに、セイドはイノチに視線を向ける。



「君…レジスタンスの一員?」


「だったら、なんだ?」


「ふ〜ん…なら、また会うだろうなぁ!その時は、よろしく頼むぜ!」



再び、二本指で挨拶するセイド。


足元からフワッと現れた水に乗り、セイドとアカニシは壊れた壁の向こうへと向かい出す。


その時、アカニシが大きく叫び声を上げた。



「お前が何者にせよ、この俺をコケにしたことは絶対に許さねぇぞ!!そこの女も含めて…この借りは絶対に返すから、その時まで首を洗って待っとけ!!!」



そのまま二人の姿は見えなくなったが、アカニシの声は壊れた壁の先の暗闇の中で、最後までこだましていた。


全ての水は消えたが、イノチは立ちすくんだまま、その暗闇を見つめている。



「くそぉっ!!」



その目の前では、エレナが悔しそうに地面を踏みつけた。



「エレナ、仕方ないよ。みんなが無事なだけ良しとしよう。」


「わかってる!わかってるけど…あの野郎ぉぉぉ、もっと殴っときゃよかったわ!!」


「…何をそんなに怒ってんだよ。あいつになんかされたのか?」



少しあきれたように言うイノチに対して、エレナは自分の体を指差して、怒った顔を向ける。



「これよ、これ!あたしの服!!この旅行のためにせっかく新調したのに…こんなボロボロに…」


(えぇ〜!怒ってるのは服のこと?!ってか、新調したって言っても、俺の金じゃん…)


「エレナ、そう気を落とさなくても大丈夫ですわ!」



内心であきれるイノチの横から、フレデリカがエレナに声をかける。



「大丈夫って…何がよ。あたし、これしか持ってないのに…」


「まず、その問題を抱えるのは、あなただけではありませんわ。わたくしの服を見なさい。」



確かにフレデリカの服もボロボロだった。

どんな戦い方をしたらこうなるのか、イノチは二人の服を見て疑問に思う。


しかし、そんなイノチをよそに、フレデリカは話を続ける。



「そして、それを解決できる人物をわたくしは知っています。」


「…服を直せる奴がいるってこと?無理よ、そんなの。あたしはこれが気に入ってたの!これを元通りに戻せる奴なんかいるわけないじゃない。」


「フフフ…甘いですわ!」



人差し指を横に振りながら、舌を鳴らすフレデリカ。

その視線は自然とイノチへと向く。



「そんなスーパーなスキルを持つ人物!それはこの人ですわ!!」


「おっ…おい、フレデリカ。なんで俺なんだ?いったいどういう…」


「そうか!!」



イノチの言葉を遮って、エレナが何かに気づく。



「「ハンドコントローラー!!」」


「お前ら…俺は便利屋じゃねぇんだぞ…」



声を合わせて喜び合っている二人を見て、イノチは心底あきれ返っていた。

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