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17話 決着①


「やっべぇ!やりすぎちまったか?これじゃバラバラどころじゃねぇなぁ!」



砂けむりが徐々に晴れていく中、ハーデは少し焦ったようにつぶやいた。


あんな小さな幼女相手に、思いっきり斧を振り抜いてしまったのだ…跡形もなく消し飛んでいてもおかしくない。


ハーデはそう思い、斧を担ぎ上げた。

まだ舞う砂けむりを片手で払いながら、ハーデは斧を撃ち込んだ場所を…幼女の安否を確認しようとする。



「もったいねぇことしたなぁ…あんな可愛い娘、なかなか手に入らねぇのによぉ。まぁ、やっちまったもんは仕方ねぇか。ガハッ、ガハハハハハ!」



しかし、大きく笑っていたハーデの視界にあるものが映ると、彼の笑みこそ跡形もなく消え去ったのだ。


漆黒の大きな盾。

上からの衝撃に耐えるべく、上向きに構えられたその巨大な盾が、傷ひとつ負わずにそこに佇んでいたのである。



「…あれ?一回だけ?もう終わったのかな♪」



その下から、何事もなかったかのように可愛らしい声が聞こえてくる。


そして、盾をゆっくりと下ろし、笑顔を見せるアレックスが姿を現したのだ。



「おっ…おま…お前…なんで…?」


「おじさん♪おじさんの攻撃って、アレでおしまい?」



ハーデは驚きを隠せなかった。


放ったのは、巨大なトロールでさえ一撃で屠るハーデの一番の大技だ。

ランクが同等のプレイヤーですら、まともに喰らえば致命傷を負うというのに…


この娘は、いなす訳でもなく、単に受け止めたというのだ。

しかも、無傷で。



「お前…今のを喰らって…無事なのか…?」


「…今のを喰らって?あれれ、今のって砂けむりを巻き上げて、視界を悪くするための陽動じゃなかったの?僕はてっきり、次の攻撃が来ると思って待ってたんだけど…めちゃくちゃ軽い攻撃だったから、勘違いしちゃった♪ごめんねぇ♪」


「かっ…軽い…!?」



ハーデはその言葉に驚いたが、すぐに怒りが込み上げてきた。



「てっ…てめぇ…俺様の…!!俺の攻撃が軽いだと!?舐めるんじゃねぇぞぉぉぉ!!」


「うわぁ♪怒ったぁ♪」



持っていた斧を、再び大きく振り上げるハーデ。

そして、そのままそれを、アレックス目掛けて振り下ろした。


ニッコリと笑いながら、アレックスは盾を構える。


アレックスの構える漆黒の盾に斧が当たり、ギィィィィンッと高い金属音が鳴り響いた。


そんなことを気にもぜず、ハーデは太い腕に力を込めて、何度も何度も、漆黒の盾に巨大な斧を叩きつける。



「オラオラオラオラオラァァァァ!!これでもかぁぁぁ!!これでもぉぉぉ軽いかよぉぉぉぉぉ!!」



傷つけられたプライドを隠すように、何度も何度も斧を振るうハーデ。そのうち、額や体のあちこちから汗が噴き出してきた。


それだけ必死に斧を振るハーデだが、漆黒の盾を挟んだ反対側には、涼しい顔をしたアレックスの姿があることを彼は知らない。



「う〜ん…こんなもんかぁ。ゲンサイさんの方が重くて強かったなぁ。はぁ〜このおじさんも飽きちゃった。気持ち悪いし…もう終わらせよっ♪」



そうつぶやいた彼女は、ハーデが振り上げた斧を振り下ろすタイミングに合わせ、自分の盾を押し上げてぶつけたのである。。



「それぇ♪」


ガキンッ!!!!


「ぐあぁぁぁ!!」



突然の衝撃に、思わず斧から手を離してしまったハーデ。

吹き飛ばされた斧が、遠くに落ちて大きな音を立てる。



(なっ…なんちゅう馬鹿力だ…)



痺れる手を押さえながら、ニコニコと笑う目の前の幼女に驚愕の視線を送っていると、その幼女が口を開いた。



「ねぇ、おじさん♪あっちの剣のお兄さんは、おじさんより強いの?」


「…ん?剣の…?あぁ、副団長のことか…俺よりは確かに強えぇな。」


「そっか♪」



アレックスは、エレナと戦っている赤と黒髪の男を楽しげに見つめている。


彼女は相手の強さについて、見定める癖があった。

その理由はシンプルで、強者と戦いたいと思っているからだ。


可愛いなりをした彼女もまた、『戦闘狂バトルジャンキー』だったのである。


ちなみにアレックスは、今まで出会った人物の強さランキングがをつけている。


一位は、ウォタだ。

稽古をつけてもらった時、ウォタの通常状態でのブレスを防ぐことはできたものの、一回受けただけで体力のほとんどを持っていかれてしまったのだ。その上、ウォタの覚醒の話も聞かされてしまい、彼女の中でウォタは晴れて一位を獲得したのだ。


二位は、ゲンサイである。

トウトからの帰りに、一度戦っただけだが、あの一撃の重さは忘れられないものとなった。ウォタのブレスですら、踏ん張り切れたのに、彼は盾ごと自分の体を吹き飛ばしたのだ。


三位以下は、ゼン、フレデリカ、エレナ、タケルと続き、最下位はトヌスである。


ちなみに、イノチが入っていないのには理由が二つ。

一つはBOSSなので。

もう一つは…いろんな意味で『論外』なのである。


アレックスは、ハーデに視線を戻す。

その目は、すでに自分には興味を失っているのだと、ハーデ自身がわかるほど、瞳に冷たいものを宿していた。



「はぁ〜あ…ハズレだね♪おじさん、そろそろ終わらせてもいいよね♪」


「…おっ…終わらせる?斧がなくなっても、俺はまだ戦えるぜ!、人を舐めるのも大概に…っ!?」



そこまで口にした瞬間、ハーデはアレックスの盾が黒いオーラをまとい始めたことに気づいた。



「僕は自分から攻撃はしないんだ♪だから、おじさんがここで負けを認めるならそれでお終い♪どうしてもそれが嫌なら、コレ、受けてみてよ♪」



静かに、パチパチと音を立て、盾の周りを黒い電撃が走っている。アレックスはすでに盾の後ろに姿を隠し、来るならどうぞというように待ち構えている。


一瞬、ハーデの頭を敗北の文字が駆け抜ける。

一番の大技を軽々と防がれ、斧すらも簡単に弾かれてしまったのだから、それも無理はないだろう。


しかし、『創血の牙』で支部長を任されている彼にとって、ここでの敗北は降格を意味する。



「…負けを…認める?」



ハーデは小さく笑うと、腰を落として拳をぎゅっと握りしめた。



「確かにお前は強えぇ…だがな、俺にもプライドはあるぜ。」


「あは♪おじさん、急に男前だ♪さっきはロリコンマックスだったのに♪」



アレックスの挑発は、もはや彼の耳には届かなかった。


職業『戦斧』であるハーデは、基本的に斧がないと戦うことはできない。

しかし、彼は斧を拾いには行かず、己の体で戦うことを選択したのである。


彼のプライドがそうさせたのであろう。



「お嬢ちゃん、行くぜ!!」


「どぉ〜んと、来い♪」



大きく息を吐き、再び肺いっぱいに空気を吸い込むと、拳を大きく振り上げて、ハーデはアレックスに飛びかかった。


アレックスは、そんなハーデに対し、ニコニコと笑みを浮かべながら盾を構える。



「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



叫び、大きな拳を盾めがけて振り抜くハーデ。

その拳が盾に触れた瞬間、バチバチッと音を立て、黒い電撃が辺りに大きく舞い散った。

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