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9話 レンジとスタン


「驚かせて申し訳なかったね。」



男はそう言って、人数分の紅茶を差し出した。


少しほこりにまみれているが、部屋の中は整えられていて、隠れ家といった様相である。


男はイノチたちの前に座ると、紅茶を一口すすった。



「アキナイさんから話は聞いてます。僕の名前はレンジ。彼女はスタンです。よろしく。」



レンジと名乗る男は、自分の後ろに立つ女性を紹介する。

彼女は深々と丁寧に頭を下げた。



「俺はイノチ、こっちはエレナ、フレデリカ、アレックスです。」


「イノチ…さん、エレナさん、フレデリカさん、アレックスさんですね。どうぞ、よろしく。まずは紅茶を飲まれてはいかがですか?」



イノチを見てニコリと笑い、レンジは紅茶を飲むよう促してくる。



「あっ…ありがとうございます。ですが、あの…レンジさん、念のため確認なんですけど…」


「大丈夫…君の聞きたいことは分かっています。」



聞きにくそうにするイノチに微笑むレンジ。

彼はそのまま話を続けていく。



「我々の組織の名は『回天の器』。この国を倒す…いや、この国の愚王である"レオパル5世"を倒し、リシア帝国を民が豊かに暮らしていく事ができる国にするために、結成された組織です。」



それを聞いて納得したようにうなずいたイノチに、今度はレンジが問いかける。



「僕からも一つ、いいでかな?」


「…何でしょう?」



レンジは、紅茶をひと口すする。



「君は、なぜ僕らに会いに?」



カチャッと音がして、ソーサーにカップが置かれる。

自分の目をジッと見つめる目の前の男に対して、イノチも自分の紅茶に手を伸ばした。


鼻腔をくすぐる甘い香り。

小さくため息をつくと、イノチは口を開く。



「…この国がジパンを襲うという情報を、ある筋から入手したんです。どうやらこの国の王さまが、戦争のためにジパンを欲しがっていると…しかし、あなた方も知ってのとおり、ジパンにはそれを迎え撃つ力が足りていない。ジパンは戦乱を平定して間もないですからね…」



イノチの話を、時折カップを口に運びながら、レンジは静かに見守るように聞いている。



「このままだと、ジパンがリシア帝国に敗れることは目に見えている。リシア帝国がジパンを手に入れれば、それを足掛かりに他の国へとその手を伸ばすでしょう。そうなれば、大国同士の戦争が始まってしまう。そんなのは絶対に許せない!だから、俺たちはここに来たんです。」


「なるほどね…」



レンジは、カップを置くと小さくうなずいた。



「僕らのことも、その"ある筋"から聞いたのかい?」


「そうです。だから、あなた方に協力すれば、内側からリシア帝国を止める事ができる。そう思ったんです。」


「そうかい…わかった。」



レンジは、後ろに立つスタンと呼ぶ女性に合図する。

彼女はそれを確認し、頭を下げて部屋から出ていった。



「アキナイさんからの紹介だったから、心配はしていなかった。だけど、理由をちゃんと聞いておきたくてね。」


「…そう言えば、アキナイさんとはどんな関係なんですか?」



その言葉を聞いて、レンジは悪戯な笑みを浮かべる。



「彼は出資者さ。僕らの活動を資金面で支えてくれているんだ。」


「え?じゃあ、彼も組織の一員…?」


「まぁ、見方によってはそうなるね。」


「…見方によっては?」


「彼はただ、この国の商業を守りたいのさ。国は高額な税を民へ要求している。その割には、社会保障制度は皆無と言っていい。物もサービスも医療も教育も、ものすごく高いお金がかかるのさ。高額な税金は購買意欲を減少させる…だろ?」


「それは売り手にとっては大きなダメージ…カルモウ一族にとっては大問題ってことですね。」



レンジは「その通りだ!」と大きく笑う。

するとそこに、先ほど出ていったスタンが戻ってきて、レンジの耳元で何かを小さくつぶやいた。



「そうかい!了解だ。イノチくん、僕は今から用があってね。今日のところはこの辺にしようと思う。スタン、あれは準備できたかい?」



スタンはうなずいて、小さな指輪を一つ、レンジへと手渡す。レンジはそれを受け取ると、イノチへと差し出してきた。



「君たちにはこれを渡しておくよ。これは連絡用の指輪だ。僕らの会合ある時は、これが光るから。」


「光るだけ?どこでやるとか、その辺はどうやって知るんだ?」



その問いにレンジはクスリと笑う。



「君たちのところには、このスタンを向かわせるから。その時は彼女に従ってついてきて。」



イノチはそれを了承して、指輪を受け取った。



「それじゃあ、この辺で。近々、幹部での会合を開く予定だ。その時にまた会おう。」



レンジはそう言うと、イノチたちを残し、スタンとともに建物から出ていった。





「BOSS…あいつ、あんまり信用ならないわ。」



アキナイの宿への帰り道、突然のエレナの言葉に、イノチは驚いた。



「え?急にそんなこと言われてもなぁ。いい人そうだったけど…」


「でも、どことなく胡散臭いというか…」


「エレナの言うとおりですわ。あの男、なんとなく嫌な感じがしますわ。」


「何となくって…お前らなぁ、失礼なこと言うなよ!今から一緒に、ここで戦う人なんだぞ。」



確かに、あのレンジという男がどんな人物なのか、まだわからないのが、イノチの本音でもある。

しかし、彼らと協力しなければ、目的の成就はなされないのも事実なのだ。


あきれたように話すイノチに、アレックスが何気なく笑いかけてくる。



「でもさでもさ、BOSS♪あの人隠し事してるよねぇ、絶対♪」


「かっ…隠し事?アッ…アレックスまでそんなこと言うのかよ。…はぁ、でも、なんでわかるんだ?隠し事してるって。」


「え?う〜ん、理由は特にないんだよねぇ♪直感的にそう感じたんだ♪」


「そっ…そっか。」



アレックスの可愛らしさに心を奪われそうになりつつ、イノチは気を取り直す。



「確かに、俺も100%信用したわけじゃないけど、目的達成のためには、あの人との協力は避けては通れないからな。この先何があろうが、俺たちは必ずリシア帝国をぶっ潰さなきゃならないんだよ。でもさ…俺は安心してるんだよね。」


「安心?何によ。」



エレナが首を傾げる。

フレデリカとアレックスも、イノチのことをジッと見つめている。


イノチはそんな三人を見て、ニカッと笑みを浮かべた。



「俺はみんなのBOSSだから、大事なことは俺が決めなきゃならないことはわかってる。けど、間違ってそうなことや疑わしいことなんかに対して、三人がそうやって止めてくれるだろ?だから、俺は安心してる。安心して、前を進んでいけるんだよ。」


「突然何言いだすかと思えば。ふん…まぁ、BOSSにしては良いこと言うじゃない…」


「そうですわ。無知なBOSSには、あれやこれや悩むのは似合わない、ですわ。」


「僕もガンガン止めちゃうよぉ♪まかせてねぇ♪」



突然褒められて、恥ずかしそうに顔を背けるエレナ。

腕を組んで偉そうにうなずいているフレデリカ。

腕を上げて、楽しげに笑っているアレックス。


イノチはそんな三人を見て、胸に自信が込み上げてくるのを感じた。


自分には心強い仲間がいる。

この三人がいるんだ。


必ず成功させて、ジパン国を守る。


イノチは改めてそう誓い、拳をギュッと握りしめるのであった。

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