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2話 ノープランからの思わぬ出会い


大海原を走る一隻の船。


大きな帆が張られた3本のマストには、いくつもの帆が張られている。


ガフ、メイン、ミズンと呼ばれるそれぞれのセイルは、その体を大きく広げて、風を受けながら大きな船体を引っ張っている。


甲板では数人の男たちが、慌ただしく動き回っているのが伺えた。


天気も良く、穏やかな海を走るその船は、リシア帝国を目指す輸送船である。


その甲板の一番後ろに、イノチたちは腰を据え、リシア帝国への到着を待っていた。



「BOSSゥゥゥ…うっぷ…まだ…かしら…」



顔を青くしたエレナは、今にも倒れそうなほどふらふらと揺れ、時折嗚咽している。



「船長の話だと、もうそろそろみたいだ。大丈夫?エレナ…」


「大丈夫大丈夫…うっぷ…」



イノチの言葉に少しホッとして気を抜いてしまい、エレナは突然の嗚咽に口を両手でふさぐ。



「まったく、ひ弱ですわ!」


「まぁ、そう言うなよ。誰にでも苦手なことはあるんだからさ。4日も船に乗ってるんだし、精神的にもきついからな。」



その横で、腕を組んで不満げに鼻を鳴らすフレデリカを、イノチがなだめていると、遠くでアレックスの声が聞こえてきた。



「BOSSぅぅぅ♪みんなぁ♪こんなのもらったよぉ♪」



見れば、アレックスが大きなかごを抱えて、こちらに走って来る姿がうかがえた。



「アレックス、なんだよそれ。」


「ウフフフ♪船長さんに操舵を習ってたんだけどね。これも何かの縁だからって、果物たくさんくれたんだぁ♪」


「そりゃよかったな!」


「相変わらず、アレックスに魅了される者が絶えませんですわ。」



アレックスがプレゼントをもらったのは、この航海でもう10回目だ。いろんな人と仲良くなって、いろんな物をもらってくるアレックスを見て、彼女の凄さを改めて実感していたイノチ。


フレデリカの言葉にうなずいていると、アレックスが果物を一つ差し出してきた。



「はい♪BOSS♪これが一番美味しいらしいよ♪」


「おぉ、サンキュー!」



嬉しそうに受け取ったイノチを見て、満足そうにしたアレックスは、フレデリカとエレナにも配り始めた。


その様子を見ながら、ふと船の外へ目をやると、遠くの方に大陸のようなものが見える。



「おっ!陸が見えたぞ!」


「本当だぁ♪ついに到着だね♪」


「長かっだぁ"ぁ"ぁ"ぁ"…うっぷ…おっ…おぇぇぇぇ…!!」



その瞬間、エレナは見事に吐いた。

無論、顔はちゃんと海側に突き出してだが。


フレデリカは肩をすくめ、アレックスが心配する中、エレナの背中をさすりながら、イノチは船の到着を待っていた。





リシア帝国は、広大な大陸とその周辺にあるいくつかの島から構成されている。


一般的な産業に加えて、芸術や文化も大きく発展した国で、それらのら影響は他国にも及ぶほどだ。


国を統治するのは皇帝であり、政治、軍事にはかなり力を入れている国だと聞いている。


現に、港付近には軍艦のような大きな船を多く見かけた。



イノチたちが乗った船が、ゆっくりと港へと入っていく。

指定された停泊場所へゆっくりと進んでいき、錨が降ろされて、下船の準備が進められていく。


港内を見渡せば、他にも多くの船が停泊しているのがわかる。積荷を下ろす船、漁から帰ってきた船もあるし、人の乗降を行うものもある。


船以外にも賑わいを見せているものがある。


港湾都市『サザミナ』。

港の先には多くの建物が軒を連ねていて、人々の往来も多い。まだ離れているはず場所からは、街の喧騒が聞こえてくるようだ。



「イノチのだんな、お疲れでした。」



黒い立派なひげを携えた男が、イノチたちのもとにやって来て口を開く。彼は、シャシイさんの指示でここまでイノチたちを運んでくれた、この船の船長である。



「船長さん、ありがとうございました。アレックスなんか、皆さんからいろんな物をもらっちゃって…」


「いいんですって!船乗りは皆、家族と離れて生活することが多い。寂しい思いもよくする職業だ。みんな、アレックスちゃんのことを、実の娘や孫のように感じたんだと思います。私らとしても船員のモチベーションを上げれて、逆に感謝してますよ!」



頭を下げるイノチに対して、船長も笑みを浮かべた。






「それよりだんな。エレナさんは大丈夫ですか?」


「あぁ…大丈夫大丈夫!すみません、みんなに気を遣わせてしまって。」



グロッキー状態のエレナを、船長も心配そうに見ている。

エレナはまだ三半規管が回復してないのか、ふらふらと歩いて時折、口を押さえて座り込んでいる。


エレナを見て、苦笑いを浮かべながら、再び口を開く船長。



「シャシイさんから話はある程度聞いてますが、これからどうするので?」


「とりあえず、拠点となる宿を押さえたいんだけど、初めてくる国だから地理が全然で…どこかいい場所知りませんか?」


「それなら、オススメの宿屋がありますよ!」



問いかけられた船長は、ひげをさすりながら、嬉しそうにそう告げた。


それから、イノチたちは他の船員に挨拶をし、荷造りを終えると街へと繰り出したのである。



「BOSS。この後はどう動くのです?何か計画はあるのです?」



宿屋に向かう道中で、フレデリカがイノチに問いかける。



「計画…?あぁ、計画ね…簡単さ、臨機応変に、だ。」


「なっ…!」



アレックスと、彼女に手を引かれて前を歩くエレナたちを見て、ほっこりとした表情でそうつぶやくイノチに、フレデリカは驚いた。



「りっ…臨機応変って…無計画でここまできたのです?これから国を相手にしようとしていると言うのに?!」



鳩が豆鉄砲を食ったような顔のフレデリカ。



「仕方ないだろ。この国に知り合いはいないんだし、シャシイさんたちにも危険な橋は渡らせられないし。自分たちでなんとかするしかないんだよ。」


「はぁ…その計画のサブタイトルには、"遠慮近慮"と書き足しておいてくれですわ。」



フレデリカは頭を抱えて、ため息をついた。



「BOSS!BOSS!船長さんが言ってた宿屋って、あれじゃないかな!」


「おっ!ついたのか?」



前でアレックスが嬉しそうに手招いている。

イノチは足を早めて、二人に追いつくと、ふとエレナを見た。エレナはその建物を見て苦笑いしているようだ。


どうしたのかと思いつつ、アレックスが指差す方へと視線を向けて、イノチはエレナの苦笑いの意味を理解した。



「この建物ってさ…まさか…」


「えぇ…そのまさかでしょうね。」



目の前に優雅に腰を据える建物。

その名は『美風呂亭びぶろてい』。


正門の黒い屋根、赤く染まった壁は漆を塗り上げたように光沢を輝かせ、その先に見える建物も壁は赤く光り、黒い屋根の上には金色のシャチホコが、建物を自慢するように見下ろしている。



「この周りとの調和を一切考えないデザインは…」


「そして、聞き覚えのある店の名前…」



イノチとエレナがそこまでつぶやいたその時、後ろから大きな声が一同に向けてかけられた。



「ややや!!もしや、あなた様方は!!」



その声に驚いて振り返る一同。

そこには、忘れるはずもないあの顔があったのだ。



「ようこそ!サザミナへ!!わたくしはアキナイ=カルモウ!いつも、兄達がお世話になっております!!」

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