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1話 ジプト潜入


夜の砂漠を歩く者が一人。

フードを深々と被り、首には青い石がはめ込まれたアクセサリーをつけている。


彼が目指しているのは、この先にある『エル』の街だろう。


彼は砂でできた小高い丘へと登っていく。

そして、登りきると先に見える街の明かりを見て、口元に笑みを浮かべた。



『エル』の街。

ジプト法国の中で南に位置するこの街は、国内最大の紡績組織が拠点を置く織物の街でもある。


男は大通りを歩く。

夜とはいってもまだ街には活気があり、多くの人々が行き交っている。


この時間、開いているのは飲食店などの店がほとんどだが、まだ人が多く出入りしていて、店先でも賑わいを見せている。



「あそこにするか…」



男はそうつぶやくと、目についた酒場へと歩を進め、そのドアを開いた。


中に入ると、店はけっこうな賑わいを見せた。

多くの人々が酒を酌み交わし、多くの席からは楽しげな声があがってくる。



「いらっしゃいませ。お一人様ですか?奥へどうぞ!」



目の前にいた女性の店員が、忙しそうにしながらも空いている席を指し示す。男はフードも外さずに、指定された先へと進んでいく。


その姿を追う視線が4つ。


酒の入ったジョッキグラスを持ち、いやらしい目つきでフードの男を目で追っていく。



「ご注文は!?」



席に着くや否や、女性の店員が注文を取りにきた。



「ビール…それと簡単なものを一品。」



フードの男はそう言って、ゴールドを数枚テーブルに置く。

それを見た店員は「あいよ」と返し、テーブルからゴールドを拾い上げて去っていった。



「おい。お前、余所者だろ?」



腕を組み、注文した品を待っていると、突然声がかけられた。


チラリと顔を向ければ、先ほどからチラチラとこちらを伺っていた四人組が、テーブルを囲むように立っている。



「…だったらなんだ?」


「ちょっと俺らに付き合ってもらうぜ!」


「なんだ?おごってくれるのか?」


「余計なことは言わず、さっさとついてきな!!この街での生き方を教えてやる!!」



声をかけてきた奴とは別の男が声を荒げて、言葉を吐き捨てた。

その声に周りにいた客たちも、何事かといったように距離をとり、様子を伺っている。



「おっ…お客さん、揉め事はそっ…外でやっとくれよ…」



注文をとりに来た店員が、恐る恐る声をかけてきた。

当たり前だが困っているようだ。

顔には勘弁してくれと書いてある。


フードの男はため息をつくと、その店員に声をかけた。



「おい、悪いがさっきの注文は取り消してくれ。こいつらが別の場所でおごってくれるらしいんでな。」



そのまま席を立ち、四人組の後に続いていく最中、去り際に店員につぶやく。



「代金はやるよ。もっと良いもんが貰えそうなんでな。」



その言葉に、店員の顔には困惑の色が浮かんでいた。





「こっちだ!」



暗闇の中、四人組に連れてこられたのは、人気のない路地裏だった。


逃げられないように、壁際で四方を囲まれる。



「おいおい、なにかおごってくれると思ってたんだが…」


「生意気な奴だな…お前におごるもんなんか、あるわけねぇだろ!まずはしつもんにこたえてもらうぜ。てめぇ、どこからきた!」


「どこからって…なぜお前らにそれを答えなくちゃなんねぇんだ?」


「いいから答えろ!」



別の男が声を荒げる。

こいつはさっきも店でいきがっていた奴。


そういう立ち位置の奴なのだろう。


フードの男は大きなため息をつくと、口元でニヤリと笑みをこぼす。



「嫌だね…」


「ちっ…状況がわかってねぇみたいだな。」



リーダー格の男が近づいてきて、胸ぐらを掴んできた。

そのまま力任せに壁に押し付けられるが、意に介すことなく、フードの男は口を開く。



「お前ら…毎日こんなことして生活してんのか?」


「…何がおかしい。俺らが何しようが勝手だろうが…」


「…情けない奴らだ。同じプレイヤーと恥ずかしいぜ。」


「なっ!!」



その言葉を聞いた瞬間に、三人の顔がひきつった。

リーダー格の男は、とっさに後ろに飛び、距離を取る。

約1名、理解できていない奴もいるが、皆フードの男を警戒し始めた。


リーダー格の男が得物を抜くと、周りの男たちも続けて武器を抜いていく。



「いきなりかよ…まぁ、俺も人のこと言えたもんじゃねぇか。」


「てめぇ、プレイヤーか?なっ…なんでネームタグがねぇ!」


「それをお前らに答える義理はねぇなぁ。」



フードの男はそう言うと、パチンと指を鳴らす。

すると頭の上にネームタグが現れ、それを見た四人はさらに驚愕した。



「ネッ…ネームタグって、隠せるのか?」


「そんなの聞いたことねぇよ!」


「じゃあなんであいつは!?」


「知るかそんなこと!!」



突然現れたネームタグ。

不可思議な光景に警戒を強める四人。


『ゲンサイ』と書かれたネームタグの男は、ニヤリと笑う。



「お前らにちょっと聞きたいことがあんだよ。」


「聞きたいことだと…!?」



リーダー格の男が声をあげた瞬間、目の前からゲンサイの姿が音もなく消えた。



「なっ!?」



驚くまもなく、右にいた仲間の腕が突然吹き飛ぶ。

断末魔と共に膝をつき、ない腕を押さえる仲間に目を向けた瞬間、今度は左にいた仲間の脚が飛んだ。


ドサッという音の後に、先ほどまでいきがっていた男がキィキィと悲鳴をあげている。


再び目の前に現れたゲンサイの手には、その男の脚があった。


仲間の一人が、笑っているゲンサイに怯みつつも、声を上げて飛びかかる。


しかし、向かってきた男が振り下ろした剣を、ゲンサイは難なくかわすと、足をかけて地面に転がした。


そして、うつ伏せで倒れた男の目の前に座り込む。



サクッ



「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!目がぁぁぁぁ!!」



倒れた男は、自分の目に刺さったナイフを押さえながら悶え苦しんだ。

ゴロゴロと転がりながら、苦しむ様子を一瞥すると、ゲンサイは呆然と立ちすくむリーダー格の男に向き直る。



「おっ…お前…なんでこんな…」


「おっと!お前がその言葉を口にしちゃいけねぇな。こんな"ひどいこと"を、お前もずっとしてきたんだろ?」


「…くっ」



ゲンサイは持っていた脚を男の前に放り投げる。



「まぁ、殺しちゃいねぇから安心しな。ただし、無くなった部分は元には戻らねぇだろうがな!ククク」


「てっ…てめぇ、何が目的なんだ!!」



額に大量の汗を浮かべ、男が問いかけると、ゲンサイはあきれたように小さくため息をついた。



「言っただろ?聞きたいことがあるって。てめぇの耳は節穴か?」



突然、後ろから聞こえた声。

気づけば、目の前にいたゲンサイの姿は、どこにも見当たらない。



(ずっ…ずっと見ていたはずなのに…なんなんだこいつは…!)



その瞬間、男の意識はそこで途絶えた。

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