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59話 大胆な作戦


お風呂を食事を済ませたイノチたち一同は、そのまま食堂に集まっていた。

『トウト』での一幕とその帰りに起きた出来事の一部始終を、フレデリカたちへと説明するためである。



「なるほど。『トウト』でそんなことがあったのですわね。しかし、その"神の使い"とやらは気になりますわ。いったい何者…」


「…確かにな。しかし、なかなか楽しい旅であったようだな。我も行きたかったが残念だ。思わぬ来客には驚いたが…な。」



ウォタの言葉に、ゲンサイは鼻を鳴らして顔を背ける。



「あたしは納得いってないけどね!」


「ゲンサイのお兄ちゃん、強いもんねぇ♪あんなに重い攻撃を受けたのは、僕も初めてだもん♪」



顔を背けているゲンサイの顔が、少し赤くなった気がした。

何者もアレックスには敵わないということかと、イノチは少し顔がほころぶ。


「わかるぞ」っとうなずいているイノチに、今度はトヌスが口を開いた。



「しかしよぉ…イノチの旦那、これからどうすんだ?あの二人の話によれば、ランク戦の開始と同時に、プレイヤーたちがこの国に一気に流れ込んでくるんだろ?開催時期は未定と言っても、それまでに何か対策しないといけねぇぜ。」


「確かに…この国のプレイヤーというやつは100人程度しかいないのだろう?それをみな仲間に加えたとしても、周辺諸国には到底及ばない…しかも、三方向から攻められれば、ひとたまりもないのではないか?」


「まぁ、俺が他国に行って、プレイヤー全員を皆殺しにするのは可能だが、短期間で3つの国、全部は無理だしな。」



ゼンもゲンサイも、冷静な分析をイノチへ投げかける。

それらの意見に対して、イノチは目をつむり、うなずきながら口を開いた。



「…確かにみんなの言うとおりだ。今の状況じゃ、他国のプレイヤーたちに一方的にやられて終わりだと思う。だけど、そんなことになれば、この国は戦争の第一線になってしまう。アキンドさんやお世話になってきた人たちが、殺されてしまう可能性だってあるんだ。そんなこと、俺は絶対に許さない。」



イノチの真剣な言葉に、皆がうなずいている中、ゲンサイが反論する。



「理想を掲げるのは簡単だぜ。だが、具体的にどうするか…それを考えなきゃ、結果は同じだ。」


「わかってる。その具体的にどうするかって話なんだけど、俺にひとつ考えがあるんだ。」


「考えだと…なんだ、言ってみろ。」



少し感心したように聞き返すゲンサイに、イノチは大きくうなずいた。


メイが紅茶のおかわりを注いでくれている。

彼女にお礼をすると、再び口を開くイノチ。



「まずは、みんなにやってもらいたいことがある。」



そう言ってミコトやトヌス、エレナたちをぐるりと見渡すと、イノチの視線は最初にゲンサイで止まった。



「ゲンサイ。あんたにはジプトに行ってもらいたい。行きたがってたろ?」


「ジプトだと?…行って、何すんだ。」


「やりたがっていたプレイヤーの相手だよ。」


「なんだ、殺してこいってことかよ。いいのか?」



再びイスに腰掛けながら、本当にいいのかと問いかけてくるゲンサイに、イノチは真剣な眼差しを向ける。



「今まではモンスターにやられないようにって、それだけを考えてた。だけど、あんたから前回のランク戦の話を聞いて思ったんだ。やられなきゃやられる…俺たちは今いる世界は、本当にそういう世界なんだと…そう改めて感じたんだ。」


「その通りだな…お前らは考えが甘い。これはただのゲームじゃねぇんだ。特にランク戦は、死んだら終わりのデスゲームって奴なんだよ。そこにいる竜種たちの方がよっぽどわかってるぜ。」



ウォタもゼンも、ヒヨッコが何を言いよるといった視線をゲンサイは向ける。



「うん…だから俺は考えた。相手がその気なら、こっちも手段は選ばなくていいってね。ジプトのプレイヤー数は約300だ。こいつらがジパンに来なくなれば、残りはリシアとノルデンだけになる。」


「でっ…でも、イノチくん!相手のプレイヤーを倒すってことは、その人の命を奪うってことなんだよ!私は…それは反対だよ。」



イノチの想いを察したミコトが声を上げた。

その眼には少しの涙が浮かんでいる。



「わかってる。だからゲンサイには、ジプトのプレイヤーを極力殺さずに無力化して欲しいんだ。手段は問わない。最強を名乗ってるんだ…それくらいできるだろ?」


「簡単に言いやがる。そういう中途半端なのが一番難しいんだぜ…が、まぁいい。やってやるけど、殺しちまっても文句は言うなよ。」


「その時は、その分の罪を俺も一緒に背負うよ。それと、ゲンサイにはウォタ!お前がついていってくれ。」



ミコトをなだめながら、イノチはウォタに視線を向けた。

クッキーを食べていた手が止まり、ウォタがイノチとゲンサイを交互に見る。



「なんで我なのだ?」


「最強プレイヤーが暴れた時に止められるのは、最強の中の最強である竜種だけだと、俺は思うからさ。」


「ほう…わかっておるではないか。」



まんざらでもない様子のウォタを見て、エレナもアレックスも「単純なさんだ」と頭の中で思っていた。

しかし、これは妥当な組み合わせだろう。



「ちっ…仕方ねぇか。」



不満げに悪態をつくゲンサイの横で、フレデリカが口を開く。



「それでBOSS…彼にジプトを抑えてもらっても、リシアとノルデンからプレイヤーは来るのでしょう?それはどうするのです?」


「もちろん、そうだね。だから、他のみんなにもしてもらいたいことを今から伝えるよ。」



イノチはそう言うと、自称"神の使い"である老人からもらっていた世界地図をテーブルに開き、皆に説明を始めた。


ジパン国は島国である。

そのため、プレイヤーたちが他国からジパンに来るには、どうしても船を使って港から入ることになる。


その港がある街は『トウト』と『タカハ』だ。


地理的に考えれば、リシアは『タカハ』、ノルデンは『トウト』の港から入り込んでくることが予想される。


イノチの作戦ではその二つの街を拠点に、各都市にいるプレイヤーをできる限り仲間に加え、他国のプレイヤーたちを迎え撃つと言うわけだ。



「ミコトとゼンさんは『イズモ』にいるタケルと合流したら、そのまま『タカハ』の街に向かってほしい。タケルにはメッセージを送ってて、すでに了承を得てるから。次に、トヌスたちは『トウト』担当ね。プレイヤーを仲間にするのに加えて、王さまやシャシイさんに事情を説明して、国の守りを固めるように伝えてもらいたいんだ。」


「うん、わかった。」


「いいぜ。」



二人ともそれを承諾する。

しかし、フレデリカは自分の役割が未だにわからず、不満そうにしている。



「あたしたちはどうするの?」


「そうですわ。ついでにBOSSも何をするのです?」


「ついでにって…はぁ…エレナ、フレデリカ、アレックスは俺と一緒に行動ね。一番重要で危険な任務…っていうと、聞こえはかっこいいな。」


「何よ!もったいぶらないで早く言いなさい。」


「ほうばよ(そうだよ)、ぼふ(BOSS)♪まにふるのは(何するのさ)♪」



ほっぺを膨らませ、まるでリスのように口をもぐもぐさせているアレックスを見て、イノチはキュンとしてしまう。


ハッとして頭を横に振り、仕切り直すイノチ。

皆が注目する中で、咳払いをひとつすると、イノチはこう告げたのだった。



「俺たちはリシア帝国に潜り込む!そして、奴らを内側からぶっ壊すんだ!」

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