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55話 手を組もう


全てがスローモーションに動いている。


ゲンサイの動きも、今は録画した動画をスロー再生しているようにゆっくりとしている。


自分の動きも遅い。

しかし、イノチの目には"普通に動いている"少年の姿が映し出されていた。


彼はゲンサイの襟に指をかけると、こう言い放つ。



「ダメだよぉ、ゲンサイ!彼とは仲良くしてくれなきゃぁ。」


「ぐえっ!!」



その瞬間、全ての動きが元の速度に戻り、襟に指をかけられていたゲンサイは、首だけ引っ張られる形で引き止められた。


そのままゲンサイを地面に転がして、笑っている少年。

ゲンサイはすぐに受け身を取ると、咳をしながら少年へ鋭い視線を受ける。



「…ゴホッゴホッ。てめぇ、ロキ!いきなり何しやがる!」


「ごめんねぇ。」



ロキと呼ばれた少年は、そんなゲンサイにも怯むことなく笑顔で謝罪すると、イノチたちの方はと向き直る。



「うちのゲンサイが迷惑かけてごめんよ。でも、安心して!今日この時をもって、君たちとこのゲンサイは仲間になるよ!」


「なっ!?」


「えっ!?」



少年の言葉に意味がわからず、首を傾げるイノチ。

ゲンサイも後ろで、驚いた顔を浮かべている。



「ロキ!!なに勝手に決めたんだ!!俺の好きなようにしていいって、そう約束したはずだぞ!!」


「うん!それは約束したね!でも、こうも言ったよ。僕のお願いも一つは聞くこと…ってね。君はそれを了承しただろぉ?」


「…ちっ。それがこれってことか…。」



不服そうなゲンサイを見て、少年は笑いながら「その通り!」と付け加える。


剣を鞘にしまい、腕を組んで立つゲンサイから、イノチへと視線を戻して、少年は再び口を開いた。



「はじめまして、僕の名前はロキ。よろしくね!」


「あ…あぁ、イノチです。よっ…よろしく。」



無邪気な笑顔で笑いかけるロキに、イノチはなんだかよくわからないまま、そう返事をした。



「まずは、仲間の回復をしてあげてよ!話はそれからにしよう。」



ニコリと笑うロキは、エレナとアレックスを指差してそう告げた。





再び『イセ』へ向かう馬車の中では、イノチとエレナ、ロキとゲンサイの四人が座っている。


ロキと向き合っているイノチの後ろでは、エレナが腕を組んでゲンサイを睨んでいるが、そのゲンサイは知らん顔で過ぎゆく景色を眺めていた。



「さてさて、落ち着いたところで、さっそく大事な話をしようじゃないか!」



笑いながら手をパンと叩き、そう告げるロキ。

大事な話と言いながら、ロキの態度がまったくそんな感じには見えないと感じつつ、イノチは口を開いた。



「その前に聞きたいことがあるんだけど…」


「ん?質問かい?いいよぉ、答えれることならなんでも答えちゃうよ、僕は!!」



笑顔のロキに、真面目な顔を向けるイノチ。



「あなたは何者?」


「それは内緒!」


「…じゃあ、ゲンサイとの関係は?」


「それも僕の正体につながるので内緒!腐れ縁ってだけ言っとこうかな。ねぇ、ゲンサイ!!」



その問いかけに対して、舌打ちするゲンサイ。

しかし、ロキは気にすることなく、「質問をどうぞ続けて」と言うようにイノチを見る。



「はぁ…なら、"ウンエイ"って人のことは知ってる?前に俺たちの拠点に来たことがある人なんだけど、君と同じで正体は教えてくれなかったんだ。」


「ウン…エイ…?あぁ!知ってるよ。彼女とは仕事仲間だからね。」



ポンと手を叩いて見せるロキに対して、胡散臭さを感じつつイノチは話を続ける。



「彼女ときみは知り合いなんだね。てことは、君もこの世界を管理している側の人間ってことか?」


「彼女、そこまで話してるんだね!じゃあ、その通りとだけ言っておこう。」


「君たちは…いったい何が目的なの?」



その問いに、ロキは笑ったままで何も答えることはない。

イノチは大きなため息をつくと、ロキに話を促した。



「まぁいいよ…とりあえずそのことは置いておくとして…俺らに接触した理由とさっきの話について、詳しく教えてもらえる?」


「ゲンサイと手を組めって話だね!それなら、of courseさ!それを話にきたんだしね!」



ロキはサムズアップして、にっこりと笑い、ウインクする。

そして、ゆっくりと話しはじめた。



「まずはランク戦について話そう。君たちはランク戦って何か知ってるよね?」


「プレイヤー同士が戦い合うイベントのことでしょ?」


「その通り!じゃあ、細かいルールはどこまで知ってる?開催通知は読んだかな?」


「通知はまだ来てないよ。だから、ルールなんてほとんど知らない。」


「…あれ?来てないの?」



ロキは驚いてゲンサイを見るが、ゲンサイも肩をすくめるだけ。



「もう…シスのやつ、何やってんだよ。仕方ない!ここは僕が説明するしかないか…」


「まずは、基本的なことを教えてくれると助かるよ…」



一人でブツブツと言っているロキに、イノチは皮肉っぽく言葉を投げる。しかし、ロキは気にすることなく、再び笑顔をイノチに向けた。



「今回のランク戦はね、各国内だけじゃなく、世界中にその範囲を広げて行われる個人戦だ。期間は1ヶ月間。プレイヤーを倒したり、一定時間捕らえたりすると貰える『ポイント』を集めて、その合計を競い合うんだ。最終的に、一番多くポイントを集めたプレイヤーが優勝で、順位に応じた豪華なプレゼントもあるよ!」



ロキは楽しげに話を続ける。



「しかし、個人戦とは言ったけど、仲間にしたキャラと協力して戦うから、ある意味で団体戦だね。特に開戦の合図もないし、ばったり出くわした場合は襲いかかるもよし、こっそり後を尾けて寝首をかくのもよし。なんでもありのサバイバルランク戦さ!!」



ロキは胸を張って嬉しそうな態度を取る。

鼻が伸びそうなくらい偉そうな態度だ。



「なんでもあり…。なら、たくさん仲間をつくって臨んだりするのもありか…。そうだ、クランに所属している場合はどうなるんだ?」


「おっ!いいとこに気づくね!実はね、今回のランク戦では、クランメンバーとの協力プレイが可能なんだ!こうなってくると、もはや本当の意味で個人戦でなく団体戦だね!ハハハハ!」


「ほんと、ルールが曖昧だな…」


「まぁまぁ、そう言わずに。一応、戦いの際、プレイヤー同士は一対一でしか戦えないとか、細かいルールは他にもあるんだけど、それはこれから届く通知を読んでね!」



それを聞いてため息をつくイノチを見ながら、ロキはニコニコと笑って話を進めていく。



「では、今日の本題!今回、君たちと彼、ゲンサイは、なぜ手を組まなくてはならないのか。」


「そいつは俺も知りてぇな!」



気に食わなさそうに口を挟むゲンサイ。



「俺たちだって、こいつには借りがあるからな。エレナはこいつのせいで右目を失ったんだ。いきなり仲間になれって言われても…」



イノチもゲンサイに同意するようにうなずき、エレナを示してロキに反論するが、そのロキは腕を組んで、何かを考えるようにそれに返す。



「まぁ、そうだよね。でもね、今はそうも言ってられないんだよ。今現在、ランク戦を前にして、このジパン国内にいるプレイヤーの数はどれくらいだと思う?」


「プレイヤーの…数…?」


「アハハハ!知るわけないよね!今、この国にいるプレイヤーは、ざっと100人ほどだよ!」


「それがなんだって言うんだ。」



イノチは、ロキが何を伝えたいのか分からず、訝しげにしながら、彼を見つめる。

しかし、彼の口から出た次の言葉に、イノチもエレナも言葉を失った。



「今回のランク戦の本質は、国盗りさ!プレイヤーの数が少ないこの国を…他国のプレイヤーたちはこのジパン国を乗っ取ろうとしてるのさ!」

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