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54話 謎の少年


それはイノチたちが『トウト』の街から『イセ』へと帰る途中のことであった。



「あ〜楽しかったねぇ♪トウトの街♪」


「刺激的ではあったよな。」


「…ったく、あたしは捕まり損よね。せっかく予約した宿の温泉にも入れなかったし…」


「まぁまぁ、そう言うなよ。今度また来たらいいだろ?」


「ふん…」



馬車の荷台で、不満気に顔を背けるエレナ。

なだめるように声をかけるイノチに、トヌスが話しかける。



「しかし、今回もお前には助けられちまった。前回のことといい、本当に礼をいうぜ。」


「気にすんなよ。俺だってあんたに死なれたら後味悪いし、ロドやボウが必死に助けを求めてきたのに断れないだろ。」



トヌスは小さく「あぁ…」とうなずく。



「頭!なに恥ずかしがってるんすか?」


「うっ…うるせぇ!恥ずかしがってなんかいねぇよ!」



馬にまたがり、馬車の周りを並走していたロドとボウが、近づいてきてトヌスをからかう。


トヌスは舌打ちをして顔を背けた。


イノチがそれを見て笑っていると、御者台にいたアレックスが突然声を上げる。



「BOSS!道の真ん中に誰か立ってるんだけど…!」


「なんだって!?」



皆がその声に顔を前に向けると、道のど真ん中に男が一人立っているのが見えた。



「なんだ、あいつ…傭兵か?」



少し離れていてよくわからないが、トヌスの言うとおりで確かに傭兵のように見える。


皆が首を傾げている中で、イノチとエレナだけは、それが誰だかすでにわかっているようだ。



「BOSS…」


「あぁ…。あいつ、国外に出たんじゃなかったのかよ。」



場所はゆっくりと男に近づいていき、一定の距離で止まった。

イノチは馬車から降りて、ゲンサイの前に立つ。



「よう…お前ら『イセ』に帰るんだってな。」


「あぁ、そうだけど…そこをどいてくれないか?」


「…」



ゲンサイはそれ以上話さない。

アレックスはロドと馬車の運転を変わり、エレナと一緒にイノチの前に出た。



「どいてくれないなら、俺らがよけて通るからいいけど…」



イノチの指示で、馬に乗るトヌスの仲間たち、そして馬車がゲンサイを横切っていく。


その後に続いてイノチ、エレナ、アレックスが通り過ぎた時、ゲンサイが口を開いた。



「そいつはプレイヤーだったぜ…」



ゲンサイは振り向きもせず、近くの草はらを指差している。

イノチたちがそこに目を向けると、エレナがハッとする。



「あ…あれは…広場にいた…」


「その通り…こいつはオオクラに協力していた奴だ。お前が広場で逃したな。」



そこには血塗れになり、横たわるキンシャの姿があった。

遠目にはなるが、ピクリとも動く様子はない。



「しっ…死んでるのか…?」


「あぁ、俺が殺したからな。」



ゆっくり振り向くゲンサイ。

イノチは動揺しつつも、鋭い目を彼に向けた。



「こっ…殺す必要があったのかよ!」


「…ふん。あいかわらず甘ちゃんだな。知ってるだろ?俺がプレイヤーを狩ってることは。」


「…それは…そうだが?お前、なんでプレイヤーだって、すぐにわかるんだ?」



その問いに対して、ゲンサイは鼻で笑う。



「お前、マジで言ってんのか?プレイヤーの頭の上には、ネームタグがついてることくらい知ってんだろ?」


「ネーム…タグ…?」



イノチはゲンサイが言っていることが、すぐには理解できなかった。


なぜなら、ゲンサイの頭の上にはそんな表示など、いっさい見当たらないからだ。今まで会ったことのあるタケルやミコトにも、そんなものはついてなかったはず…


そんなイノチの態度を見て、ゲンサイは訝しげな表情を浮かべている。



「…どうしたんだ?そんな驚いて…まさかお前!見えねぇのか!?」


「…」


「マジかよ…じゃあ、そこの馬車に乗ってる野盗も…プレイヤーだと知ってるわけじゃないんだな?」


「野盗…?」



イノチが驚いて振り返ると、トヌスの顔が見えた。

トヌスも驚いた表情を浮かべている。



「イノチ…お前、ネームタグが見えてねぇのか。俺はてっきり…俺のことプレイヤーだとわかってたから逃してくれたんだと思ってたんだが…」



イノチは小さく首を横に振る。



「お前…ほんとに何者なんだ?俺もこの世界には長くいるほうだが、お前みたいな奴はマジで初めてだぜ…」



ゲンサイはそうブツブツと言いながら、腰から剣を抜いた。

その行動にエレナとアレックスが身構える。


そして…



「しかしまぁ…それだじゃ、お前を殺らない理由にはならねぇよっっっ!!」



そう吐き捨てて、イノチに向かって斬りかかってきた。



「うっ…うわ!」



ガキンッという金属音がする。

イノチの前で、アレックスがゲンサイの剣を大きな漆黒の盾で防いだのだ。



「くうぅ…この人の攻撃、重〜い!!」


「ほう…」



ゲンサイは少し楽しそうに笑みをこぼす。

そんなゲンサイに対して、今度はエレナがスキルを発動。



「影縫い!!」



しかし、やはりと言ったところか。

ゲンサイはエレナの影縫いの一撃目、二撃目までを剣で防ぎ、三撃目を軽々と飛び跳ねてかわしてしまったのだ。


そして、ニンマリと笑みを浮かべて口を開いた。



「言いつけは守って、ランクをちゃんと上げているようだな!これなら少しは楽しめそうだ!!」



そう言って数歩ほど距離を取り、剣を一度鞘へと戻すと、柄に手を添えて構える。



「ゲンサイ!なんでこんな…今戦う必要はないはずだろ!」


「いや…ある。」


「なぜ!?理由はなんだ!」


「…オオクラが追放をくらったせいで、その穴埋めをシャシイの野郎がすることになっちまった。それだけ言えば、お前にはわかるだろ?」


「…シャシイさん?まっ…まさか!!」


「そう…国外への遠征は延期になったんだよ。指揮を取る部隊長さまが、いけなっなったからなぁ!!!」



ゲンサイはそう叫ぶと、ダッと駆け出してスキルを発動する。



「スキル『翔薙』!!」



エレナとアレックスはとっさに構える。

疾風のごとく切り込んできたゲンサイは、初めにエレナへ横薙ぎの一閃を繰り出した。



「くっ…!!」



二つのダガーをクロスさせ、それを受け止めたエレナだったが、あまりの衝撃に体ごと吹き飛ばされていく。



「エレナ!!」



心配するイノチをよそに、それを見送ることなく、今度はアレックスに斬り込むゲンサイ。


大きな黒い盾を構えるアレックスに対して、下から上に向けて一閃を放った。


乾いた金属音の後に、火花が散ったかと思えば、アレックスは盾ごと浮き上がる。



「う…うわぁ!!」


「小さい体の割に、なかなかの防御力だなぁ!!」



ゲンサイが笑いながら剣を振り抜けば、アレックスは大きく吹き飛ばされて、馬車の横に落下して砂ほこりを巻き上げた。



「さて…あとはてめぇだ。ランクも上がったんだから、少しは俺を楽しませろよ。」


「くっ…!」


(まずいまずいまずい!ゲンサイの奴、アレックスの防御力すらものともしてないじゃん!エレナも強くなってるはずなのに…)



自分に剣を向けて笑っているゲンサイに対して、『解析』を試みたイノチは彼のランクを見て、驚愕する。



ランク『145』



(ランクが前より上がってやがる!くそっ!このままじゃ、本当にまずい…)



すると、今まで唖然として戦いを見ていたトヌスたちが、それぞれの得物を手に、イノチの前に出る。



「イノチ!俺らも加勢するぜ!!」

「頭のイノチの恩人は死なせねぇ!」


「「「そうだ!!イノチさんを守れ!!」」」


「ほう!野盗風情が俺に勝てるとでも…思ってんのかぁぁぁ!!?」



その瞬間、ゲンサイが斬り込んでくる。

応戦しようと深く構えるトヌスたち。



「みんな!ダメだぁ!!」



焦り、そう大きく叫ぶイノチの目には、全てがスローモーションで映し出された。


そして、いつの間にかゲンサイの目の前に少年が立っていることに気づく。


その少年は、こうゲンサイに言い放った。



「ダメだよ、ゲンサイ。彼とは仲良くしなきゃ!」

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