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53話 ネタバラシ


「今回の件については、私の不徳の致すところ…本当にすまなかった。」



王の御前。

広々とした応接の間に案内された一行は、王からの謝罪に対して反応はさまざまだ。


エレナは相変わらず腕を組んで仁王立ち。

アレックスは「可愛いおじいちゃんだねぇ♪」とか言ってるし、トヌスとロド、ボウはかしこまり、小さく縮こまってしまっている。


ちなみに、トヌス他の仲間たちは数も多いので、外で待機させている。



「王様の顔に泥を塗ってしまったようで…こちらとしても申し訳なく思っています。」



イノチがそう詫びると、王は首を横に振った。



「気にするな…我らとしては無実の者を危うく処刑してしまうところだったのだ。それを止めてくれたことに、むしろ感謝しておる。この国は戦乱の時代が長かったからな…今の民はそういうことに敏感な者も多い。仮に、彼を処刑してしまっていたら、その亀裂は見えないところで拡がっていき、最後には国を傾けかねん。」



この王様は信頼できる。

それが、今の話を聞いてイノチが感じた第一印象であった。


正しいことを選択でき、人のためにに動ける人間。

過ちには頭を下げることができる、礼儀を兼ね備えた人物であると。



(広場でも思ったけど、間違ってしまってごめんなさいなんてこと、国のトップがなかなか言えることじゃないもんな。この人は信用できる人だ。)



広場での一幕。

オオクラは捕まり、キンシャは逃げおおせたが、民衆がざわつく最中で、王は民の前に立ち、頭を下げたのだ。


イノチがそう思う傍らで、シャシイが口を開いた。



「オオクラ殿については、国の執行部がしっかりと対処させていただきます。それにトヌス殿には大変なご迷惑をおかけしたお詫びとして、こちらを…」



テーブルの上に、大きめの布袋が置かれた。

音から察するに、大量のゴールドが入っているようだ。


シャシイはそれをトヌスの前へと滑らせる。


しかし…



「確かに迷惑は被ったがな…俺たちも胸張れるような生き方はしてねぇ。ああなっても文句は言えねぇんだ。だから、これは受けとらねぇ。」



王とシャシイが驚く最中、トヌスの横ではロドとボウもうなずいている。



「但し、俺から一つだけお願いがあるんだが…」



改めてトヌスが口を開くと、王は静かにうなずいた。



「この国には、身寄りがなくて辛い思いをしている子供が、まだまだたくさんいる。この金はその子たちの支援に当ててほしいんだ。俺の仲間たちも、元はそういう子供たちだからな。せめて真っ当な仕事に就けるまで支援してやってほしい。」


「そうか…やはりまだまだ及ばぬな。わかった!お主の願いを聞き入れよう。組織を編成し、そのような子供たちを保護する施策を進めることとする。」



王はそばに立つ側近に指示を出すと、彼は頭を下げ、退室していった。



「さて…これにてこの話は終わりかな…?ならば、私からも聞きたいことがいくつかあるのだが…」


「話せる範囲でならいいですよ。」


「感謝する。」



イノチの言葉に笑顔を見せた王は、再び口を開いた。



「真相はオオクラに吐かせるとして…まず、ことの顛末を説明してはくれないか?」



イノチはその言葉にうなずくと、静かに話し始める。



トヌスが捕まったことを知らせに来たロドたちの話から始まり、ガムルの店でスネク商会のヘスネビと揉めたこと。

エレナを城に忍び込ませたけど、捕まってしまったこと。

ロドたちがスネク商会に捕まったこと。


そして、広場での一幕までの自分たちの動きを細かに説明していった。



「なるほどな…して、まずは城にどうやって忍び込んだかだが…」


「詳しくは言えませんが、俺のスキルで彼女を透明化させました。」


「なんと!透明化とな…ものすごいスキルだ。私も多くの国を訪れたが、そんなスキル見たことも聞いたこともない…では、広場で轟いたオオクラの声は…あれはどんな仕組みなのだ!?」



突然、目を輝かせて身を乗り出す王に引きつつ、イノチは説明を続ける。



「あっ…あれも俺のスキルですけど…エレナ、その首飾りを貸して。」


「これ…?はいはい…」



エレナから首飾りを受け取り、イノチはその一部を操作する。すると、再びオオクラの声が流れ始める。


これには王もシャシイも驚愕した。



「こっ…これは!いったいどういう仕組みなのだ…こんな魔道具、見たことがない。」


「たしかに…!」


「ちなみにですけど、ここを触ると…」



突然、オオクラの話し声が大きくなる。



「なっ…なんと…!音の大きさまで変えられるのか…?!」



王もシャシイも言葉にならず、口を開いたままその首飾りをジッと見ている。



「これは、ある程度離れたところからも操作できるので、俺は高いところで様子をうかがい、タイミングを見計らって、さっきみたいに大音量で流したんです。内容自体は、エレナに城に忍び込んでもらった時に録音しました。」


「ロクオンとは…?


「声をコピーすることです。」


「声を模倣するのか…しかし、街中で音を聞いた者がおったが、あれは…」


「あれも俺がしました。ロドたちに手伝ってもらって、街中にこれを置いてもらったんです。」



イノチは小さな小石を取り出して、テーブルの上に置く。



「これは?」


「これは通信式の拡声器ってとこですね。」


「ツウシンシキノカクセイキ?」



頭に疑問を浮かべる王とシャシイ。

トヌスも驚きすぎて、開いた口がふさがらなくなっている。



「これらは、この首飾りと繋がっていて、首飾りから流れる音を同じように発してくれるんです。こんな風に…」



イノチが小石の一つに触れると、首飾りから流れている声と同様のものが小石から流れ始める。



「なっ…なんと…シャシイよ。お主はものすごい人物を連れてきたようだぞ…『ダリア』の件といい。イノチ殿、私はお主のことが怖くなったぞ。」



苦笑いする王に、イノチもまた苦笑いした。



「これを話したのは、王様が信用できる人と思えたからです。できれば、他言無用でお願いします。」


「もちろんだ。だがしかしなぁ…」



何か思わせるような態度をとる王に、イノチは意味を察して口を開く。



「もちろん、この力を使って悪いことをするつもりは一切ないですよ。それはあなたに誓います。」


「王よ、イノチ殿はそのような人物ではないことを私も保証します。商人ギルドのマスターであるアキルド殿からも、信頼を得ている人ですから。」


「そうか、アキルドも…ならば信じよう。」



王は大きく笑みを見せてうなずいた。



「ところで、スネク商会はどうなったんです?」


「あぁ、そうであったな。先ほど会長のところに使者を送ったのだが、たいそう驚いておったようだ。調べてみるとすべて、ヘスネビという男が独断でやっていたことでな。しかし、肝心のヘスネビがどこにもいないらしい…」


「そうですか…それでしたらここに行ってみるよう、会長に伝えてください。」


「これは…?」


「イノチ殿、ここは『ガムルの沈黙亭』ではないですか!」


「そこで悔い改めてさせてます。」



イノチはニヤリと笑う。


王はそのメモを受け取ると、シャシイにスネク商会へ伝えるように指示を出す。



「お主には、なんでもお見通しみたいだな。」


「そんなことはありません。ただ仲間を助けたかっただけです。」



シャシイが出ていくのを見送りながら、王はフッと笑う。



「お主には感謝してもしきれんな。本当に礼を言う。」



こうして、イノチたちのトヌス救出作戦は幕を閉じた。

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