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45話 潜入捜査


夜も更けた『トウト』の街。

屋根の上を人影が一つ、王城へ向かって駆け抜けていく。



「あっ…そうか、別に屋根の上を走る必要もないんだっけ。癖でついつい…」



エレナは走りながら、そうつぶやく。

それからニヤリと悪戯な笑を浮かべると、屋根の上から飛び降りた。


そして、音もなく着地したのは、繁華街のど真ん中であった。


酒場や出店、料理屋が軒を連ね、店の明かりが煌々と輝くその通りでは、酒を酌み交わしたり、笑い合っている人々の姿が見受けられる。


しかし、違和感が一点だけ…

通りのど真ん中に、空から美少女が飛び降りてきても、誰も気づかないのだ。



「ほんとにBOSSのスキルってすごいわね。」



自分にまったく気づかない人々を見回しながら、エレナはしみじみとつぶやいた。




ロドたちと『ガムルの沈黙亭』で話した際、まず初めに立てた作戦は王城への潜入だ。

だから今、エレナは闇に紛れて王城へと向かっている。


"オオクラ"という男を見つけ出し、奴の尻尾をつかんで、その情報を明日、シャシイに伝えるためである。


シャシイがどこまで信用してくれるかはわからないが、イノチには秘策があるようだったので、その作戦を皆、受け入れた。


しかし、厳重に警備された王城への潜入は容易なものではない。


皆でどうしようかと悩んでいると、再びイノチがあることを思いつく。



「エレナ!忍者にならない?」


「…は?忍者?」



エレナは意味がわからずに、頭にハテナを浮かべたが、イノチは笑いながらエレナの肩に触れ、ウィンドウを発現させると、何やらカタカタとキーボードを打ち始めたのである。


そして、最後にタッーンとキーを打った瞬間、皆の前からエレナの姿が消え、後には画面とキーボードだけになったのだ。



「なっ…!」


「…すごい…」


「さっすが、BOSSだね♪」



驚くロドとボウ、嬉しそうに笑うアレックス。

そして、カウンターの方でカチャンと音が鳴る。


どうやら、ガムルも驚いてくれたようだ。

イノチは小さく笑うと、再びキーボードを打ってエレナを元に戻した。



「こんな感じかな!」


「…こんな感じって…何が?」



エレナには、何が起きたのかわからなかった。

普通に座っていただけなのに、突然みんなが自分を見て驚いた表情を浮かべたからだ。


なぜか、カウンターの方でガムルも動揺しているようだ。

いつも無表情の顔に、珍しく焦りの色が見えたから。


エレナが訝しんでいると、イノチが笑顔で口を開く。



「さっき、一時的にエレナの姿を透明にしたんだ。みんなからは突然、エレナが消えたように見えたってわけさ!」


「え…そうなの?」



少し驚くエレナに向かって、ロドが興奮したようなに立ち上がった。



「すっ…すごいです!これなら、王城へも簡単に忍び込めますね!!」


「…ん…ん!」



無口なボウも、珍しく少し興奮しているようである。

エレナは小さくため息をつくと、肩をすくめた。



「忍者ってそういうことね。あたしが透明化して、王城へ忍び込めということか。」


「ご名答!身軽に動けて戦いにも対処可能、そんな適任者はエレナしかいないだろ?」


「はぁ…いいわよ。だけど、この透明化って効力はどれくらい?時間制限とかないの?」


「ない!」



イノチはキッパリと言いきった。



「…え、ないの?何かに触れちゃいけないとかは?」


「ない!」


「服を脱がないといけないとか…」


「大丈夫!服も一緒に消せるから!」



イノチは自慢げに、腕を組んで笑っている。

それを見たエレナは、再びため息をつく。



「相変わらず規格外よね…」


「自分でも驚きだ!」


「了解、BOSS。その作戦でいきましょう。あとはいくつか決め事が必要ね。」


「決め事?」



突然、ポカンとするイノチの横では、アレックスがガムルからもらったクッキーを美味しそうにもぐもぐしている。


エレナは肩をすくめて首を振る。



「見えないんだから、あたしが帰ってきた時の合図とか、あたしが捕まった時どうするかとか、未知の場所への潜入なんだから、いろいろと決めておかないといけないでしょ?」


「たっ…確かに。」



大きくため息をついたエレナは、周りのみんなを呼び寄せ、一同はテーブル越しに顔を近づけ合う。


カウンターでは、ガムルが洗い物をしながら、それを見守っていた。





「あの城壁…どう越えようかしら。」



高い時計台の上に立ち、エレナは王城を眺める。

あの高い城壁は、トロールでも苦戦するだろう。

そして、等間隔に設置された見張り台には、兵士が定期的に見回りをしていて、ネズミ一匹通さないほどの厳重さだ。


さすが王の拠点、厳重な警備体制が敷かれているなと、エレナは思った。


姿は透明だが、その形跡は残るとイノチは言っていた。

要は、自分が干渉したものへの影響は消えないのだ。

歩けば足跡は残るし、ドアノブを回せば音はする。


いくら透明といえども、最新の注意は必要なのである。


エレナはふと、正面の城門に目を落とす。

夜も更け、落とし格子も固く閉ざされていて、そこから忍び込むことは無理そうだ。


再び城壁に目を向けるが、屋根から飛び移ろうにもかなり距離があり、さすがのエレナの跳躍力でも届かないだろう。



「こういうのは下調べが肝心だけど…今日の今日決めたことだし仕方ないか…」



エレナはそうつぶやいて、時計台から飛び降りると、静かに城壁の前に移動する。


近づけばその高さがよくわかる。

見上げても、上の方は小さくてまったく見えない。



「あれは…よし、あそこにしましょう…」



エレナは城壁の中間あたりのあるものを見て、小さくつぶやくと、助走をとるために一度大きく距離を取った。


離れたところに守衛室がある。

ちょうど交代の時間なのだろうか、二人の兵士が敬礼し、挨拶をしているのが目に入る。


ふぅっと小さく息を吐き、腰をかがめて両手を前に出す。

クラウチングスタートの体制で、お尻を突き上げ、ゆっくり目を閉じて、神経を研ぎ澄ませる。


そして、兵士たちが交代の終わりに踵をカツンと鳴らした瞬間、エレナは目を開いて駆け出した。


疾風のごとく駆け抜け、一歩目を城壁にかけると、そのまま壁を駆け上がる。


重力など一切感じさせないその動きで、城壁の半分近くまで一気に駆け上がると、城壁のくぼみに足をかけて、高く跳躍した。


手を伸ばす先には、城壁の狭間さまが見える。


ガシッ!


エレナは狭間の縁に手をかけた。



「なんとか届いたわね…あっ!しまっ…」



ほっとしたのも束の間、城壁の欠片が一つ、手に当たって落下する。


カツンカツンと音を立てて落ちていく欠片。

当然、その音に兵士の一人が気づいた。


エレナの真下まで走り寄る兵士を見て、エレナは生唾を飲む。


しかし、落ちてきた欠片と上を交互に見た兵士は、訝しげな表情を浮かべたまま、首を傾げて元に位置へと戻っていった。


片手でぶら下がるエレナは、小さくため息をついた。



「ふぅ…透明で助かったわね…」



そう言うと、両手で狭間の縁を掴み直し、体を持ち上げる。

そして、覗き込み、誰もいないことを確認すると、するりと中へ入り込んだ。



「さてと…ここからが本番ね!」



エレナはそう言うと、音を立てず警戒しながら、暗い通路へと消えていった。

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