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10話 イノチは恩人?


イノチとエレナは休憩するために留まっていた洞窟を出発し、地図を頼りに街を目指していた。


先ほど確認したところによると、右上に表示された街は『イセ』、左下は『イヅモ』というらしい。


地図で詳細を確認すると、右上の『イセ』という街の方が大きそうだったため、二人はその『イセ』を目指すことにしたのである。


二人が歩き始めて、かれこれ1時間が経過しただろうか。



「…だいぶ進んだと思うけど。」


「進んでも進んでも…森なのね…まじで飽きてきたわ。」



地図を確認しながら進むイノチの後ろでは、エレナが疲弊した顔で歩いている。


確かにずっと木しかないのだから、飽きてくる気持ちもイノチには理解できた。イノチ自身も少し飽きてきていたのだから。


イノチは地図を少し拡大して、自分たちの位置と街との距離を測り直す。



「…う〜ん、この縮尺からするとあと10キロくらいかな。俺らの歩幅が70センチくらいだとして…あと2時間くらいはかかりそうだな。」


「げぇ〜!マジでそんなにかかるわけ!?」



エレナはそれを聞いてやってられないと言ったように、近くにあった石へと座り込んだ。



「仕方ないだろ。俺たちは初心者中の初心者で移動する手段は自分の足しかないんだから…でも、エレナがさっきみたいに俺を担いで走ってくれたら、もっと早く着けるんじゃないか?」


「バカなこと言わないでよ!あれだって疲れるんだから!」


「ハハハ!冗談だよ、冗談。」



イノチの冗談に、エレナはため息をついてそっぽを向いた。



「…だけど、この地図によるとそろそろ道が見えてくるはずなんだけど…」



地図には街道らしき道が記されていて、その近くまで矢印がきているのだ。


地図と景色を見比べながら、イノチがキョロキョロと辺りを伺っていると、突然、どこかで馬の鳴き声が聞こえてきた。



「なっ…なんだ?馬…な声?けっこう近かったな…」


「…っ!?BOSS、血の臭い…それとモンスターの気配を感じるわ!!」



疑問に思っていたイノチのそばには、いつの間にかエレナが来ており、鼻をクンクンさせて何かを感じ取っている。



「…もしかして、誰か襲われてる?!」


「おそらくね…こっちの方角よ!」


「まずいな!助けられるかな!?」


「OK、BOSS!」



そう言って駆け出すエレナに、「…てか嗅覚ハンパなくない?」と驚きを投げかけながら、イノチはその後を追った。





「グオォォォォォォォォ!!!」



目の前で熊のようなモンスターが咆哮をあげている。ビリビリと身体中が痺れるほどの咆哮に、馬は逃げるどころか、怯えてその場にしゃがみ込んでしまった。


乗ってきた二台の馬車も、一台はひっくり返され、車輪は破壊されている。それを引いていた馬は無惨にも殺され、辺りは血の臭いが漂っていた。



(まさか…こんなところにビッグベアがおるとは…なんたる不運…)



モンスターの目の前に腰をつく男は、悔しそうに目を閉じる。


モンスターは再び咆哮をあげると、男に向かって右手を振り下ろした。



(くっ…ここまでか…)



そう思った瞬間である。

振り下ろされたモンスターの右手が、男の前で空を切ったのだ。


自分の顔に温かい感触と風圧を感じ、男がゆっくり目を開けると、目の前のモンスターは右手を押さえて、苦しそうにしながら自分ではない別の方向を見ている。



(なっ…なんだ?何が起こったんだ…)



そう思い、モンスターが向く方へ視線をずらすと、黒シャツと白のビスチェに肩から羽織る紺色のマント、そして茶髪のツインテールが特徴的な可愛らしい少女が立っていた。


その手には、モンスターの手も確認できる。



(…女神さま…!?)



少女の後ろからさす後光と、自分が助けられたという状況が相まって、男は錯覚に陥った。


そんなことは梅雨知らず、その少女はモンスターに向かって声をかけて構える。



「残念だけど…あんたには負ける気しないわ。ごめんね…せめて苦しまずに終わらせてあげる!」



少女がそこまで告げると、次の瞬間、モンスターは首から上を失って、血飛沫を上げながらその場に倒れ込んだのであった。





「ハァハァハァハァ…」



イノチはエレナが向かった先へと、必死に足を動かしていた。



「あいつ…早いって…ハァハァ…」



視界には森の切れ目が見えてきた。そのまま走り抜けると、エレナがクマのモンスターと対峙しているのが見える。


その横には男性が尻餅をついて座っている。



「ハァハァ…どうやら…間に合った…ハァハァ…」



苦しい胸を押さえながら、イノチは助けが間に合ったことに安堵する。



「運動…不足だな…ハァハァ…体感型ってのは…こんなとこまでリアルだとは…」



そうぼやきつつ、呼吸を整えて様子を伺っていると、エレナとモンスターの勝負は一瞬でついてしまった。


「ふぅっ」と汗を拭い、持っていたダガーを振り下げて、ついていた血を飛ばすエレナのそばにイノチがやってくる。



「あら、BOSS…意外に早かったわね。」



エレナはイノチに気づいて、手元でクルクルと回転させたダガーを、鞘に収めながら顔を向ける。



「…お前早すぎ!置いて行くなよな…」


「そっちが遅いのよ!BOSSに合わせてたら間に合ってないわ!!」


「うっ…そう言われると、ぐうの音も出ないな…まぁ、助けれられたから良しとしておこう。」



二人がそんな他愛もない会話をしていると、後ろから声をかけられる。



「あっ…ありがとうございます!!大変助かりました。」



見れば助けた男が、顔についた血を拭いながら立っている。



「おじさん、大丈夫でした?」


「…はい、おかげさまで。まさかビッグベアがこんなところに現れるとは思ってもいませんでしたので…この街道はモンスターは出没しないので、本来つける護衛もつけていなかったのです。」


「それならよかった…でも、おかしな話ですね。いつも現れないモンスターが現れるなんて…」


(これってもしかするとイベント発生とかかな?見た感じ商人っぽい人だし、商業クエストとかなら、資金調達には持ってこいじゃん!)



心の中でそう呟きながら、イノチが今後の展開を予想していると、男は考えながら話を続ける。



「ビッグベアは"つがい"のモンスターなんです。この森の奥深くに生息していて、今の時期だと親が子育てのために街道の近くまで狩りにやってきます。そうは言っても自分たちに危険が及ばない限り、人には手を出さないことで有名なモンスターなんですが…先ほどの様子だと何かしらの危害を加えられて興奮状態だったのかもしれませんね…それで暴走して街道まで出てきてしまったのかもしれません。」


「えっ…!?」



男はそう言いながら、やれやれといったように首を振っているが、イノチはその話を聞いてドキッとした。


そして、エレナに小声で話しかける。



「エレナさん…あのモンスターって"つがい"らしいデスヨ…」


「…らしいデスネ」


「もしかして…これってさ…」


「そっ…そんなの推測でしか…」


「…でもさ…」


「お二人とも、どうかされましたか?」



冷や汗をかきながらボソボソと話している二人に気づいて、男が声をかける。



「いっ…いや!なんでも…なんでもないです!…ねぇ、BOSS…」


「そうです!なんでもないですよ!…ハハハ」



苦笑いする二人に、少し疑問を持ちつつも男は話を続ける。



「そういえば、自己紹介がまだでした。申し遅れましたが、私はアキンド…アキンド=カルモウと言います。この先にある街『イセ』を拠点に商人をしております。」


「…どうも、イノチと申します。」


「わっ…私はエレナ=ランドールです。」


「イノチさまにエレナさまですね。改めて、この度は命を助けていただき、本当にありがとうございます。」



自己紹介を終え、アキンドと名乗る男は深々と頭を下げる。そんなアキンドを前にして、イノチとエレナは気まずそうに小声で話をする。



「…どうすんのよ。もしかしたら原因が私たちにあるなんて…口が裂けても言えないわよ…」


「わかってるよ…黙っておくしかないだろ…幸い、モンスターの死体は消えてなくなるみたいだから、バレることはないと思うけどさ…」


「…?何か言われましたか?」


「いっ…いえ!アッ…アキンドさんは『イセ』の街で商人をされてるんですね!僕らもちょうど『イセ』を目指していたんですよ!」


「そうですか!ならば、私の馬車に乗って行かれると良いでしょう。なにせ、ここからだと人の足ではかなり時間がかかりますからな!」


「いっ…いやでも…悪いですよ…」


「いえいえ、あなた方は命の恩人!これで返せるとは思っておりませんが、恩返しをさせてください。」



そうにっこりと笑うアキンドに、イノチは断れるはずもなく、気まずいながらもそれを了承するのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] アキンド!ネーミングが!ww しかも倒したビッグベアがこんなところで影響があるとはww
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