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41話 トウトの街

今回から少し舞台が変わります!


夜の訪れとともに、街にはポツポツと明かりがつき始める。

昼とは違う独特の喧騒が、街を支配し始めていく。


とある酒場では、仲間とともに酒を酌み交わす人々が、楽しげな声を上げている。


そんな喧騒に紛れ、隅のテーブルでひそひそと話す二人組がいた。両者とも深々とフードを被っていて、顔をうかがうことはできない。


そのうちの一人が、口を開く。



「…で、どうだった?」


「だめだな…厳重に警備されてて、俺らじゃ忍び込むのは不可能だ。」



そう言いながら、もう片方の男は首を横に振った。



「そうか…どうする?」



問いかけられた男は、無言でグラスに手をかけ、入っていたエールを一気に飲み干す。

そして、グラスを置くと静かに口を開く。



「…あまり頼りたくはなかったが、もう彼に助けを頼むしか方法はないと思う。いろいろ考えてみたけど、俺らが頼れるのは彼しかいない…」


「確かにな…でも、こんなこと受けてくれるかな?」


「それは…わからん。」



問われた男は、悩ましげな表情を口元に浮かべたが、何かを決心し、再び口を開いた。



「だが、考えても仕方がない…行動しよう。でないと、このままじゃ、頭が死んじまう。」


「そうだな…なら、さっそく行動開始だ!いったん仲間のところに戻ろう。」



二人はうなずき合うと、店主に声をかける。



「ガムルの親父!お代はここに置いておくぜ!」



声の先にいた熊のような大男が、無言で手をあげて返事をしたのを確認すると、二人は店を後にする。



「お頭、ぜったい助けますからね!」



二人の男は、街の暗闇に消えていった。





「すっげぇ!これがこの国の中心都市か!!」



肩から腰ほどまでのローブを羽織り、フードをおろしたイノチは歓喜の声を上げる。



「すごぉぉぉい♪僕らの拠点とは違って、大きな建物がたくさんあるね♪」


「アレックスもこの街は初めてか?」


「うん♪僕、今まで村から出たことなかったから、こんな大きな街に来たのは初めてだよ♪うわぁ、あれはなんだろう♪♪♪」



目を輝かせながら、キョロキョロとしているアレックスを見て、イノチはほんわかと心穏やかな気持ちになった。


現在、イノチはジパン国の首都『トウト』に来ている。


イノチたちが拠点とする『イセ』や、タケルたちがいる『イズモ』から東に10日ほど進んだ場所に位置し、ジパン国における政治、経済、文化などの中枢を担う中心都市。


国王であるホニン=パンジャが直接治めている、いわば国王のお膝元である都市だ。



「二人とも、はしゃぐのはいいけど目立ちすぎないでよ。ここに来た目的を忘れないで。」


「あっ!エレナさん♪おかえりなさい♪良い宿見つかりましたか?」


「そうね!アレックスも喜ぶ、とぉぉぉっても良い宿が見つかったわよ!」


「ほんと?!やったぁぁぁ♪」



いつもの気の強さはどこへやら…

アレックスの喜びように、エレナは腕を組んで偉そうな態度を取りつつも、頬を赤らめて嬉しそうにしている。



「エレナ、良い宿はいいんだけどさ…そこって、一泊いくらするんだ?」


「…え?そんなの知らないわよ。とりあえず気に入った宿に入って、"ぷれみあむ"だったかしら…その部屋を2部屋、押さえてきたわ!」


「はぁっ!?ちょっと待て!もしかしてもう予約したのか?金額も確認せずに!?しかもお前…"プレミアム"って!下から…いや!上から何番目のランクなんだよ!」


「上から何番目…?なに言ってんのよ、もちろん1番上のやつにしたわよ!」


「……っ!??」



驚き、エレナに反論しようとしたイノチだったが、アレックスの喜ぶ顔を見て、その口を閉じた。


アレックスのいる前でエレナと言い合うのはよそう…


そう思ったのだ。

大きなため息をつくと、イノチは喜び合う二人に声をかける。



「もういいや…たまの旅行ってことで大目に見る!幸い、アキルドさんから『ダリア』の報酬は、たんまりもらってるからな…」


「そうよ、BOSS!固いことは言わずに楽しみましょう!」


「そうだよ♪BOSS♪楽しもうよぉ♪」


「エレナ…1番最初の言葉、ブーメランな。」



アレックスの可愛らしさにほっこりしつつ、イノチは再び、大きくため息をついた。



「で、この後はどうする訳?」


「いったん、トヌスの部下に会って状況を説明してもらうよ。今日の予定はそれだけだ。明日、シャシイさんに面会を申し込んであるから、そこで交渉する手はずだな。」


「じゃあ、早く待ち合わせ場所にいきましょう!」


「そうだな!えっと、確かこの辺りの酒場って言ってたけど…」


「酒場の名前は?」


「ガムルの沈黙亭」


「なにその趣味悪い名前!ったく、そんなとこを選ぶなんて…まっ、しかたないか。野盗のセンスなんてそんなもんね。」



エレナがブツブツと文句を垂れていると、アレックスが声を上げる。



「あっ♪BOSS、あれじゃない?あの銀色の看板♪」



アレックスの示す方に目を向けると、確かに『ガムルの沈黙亭』と書かれた銀の看板が古びた建物からぶら下がっている。


建物はレンガ造り。

ところどころひび割れており、年季を感じさせるその装いに、イノチは胸を躍らせた。


異世界料理…

思い返せば、この世界に来てから、あまり異世界らしい料理は食べていない。

食事は基本、メイが作ってくれたし、『イセ』の街で振る舞われる料理は、どちらかといえば日本食に近い料理が多かったからだ。


街に出れば、いくつかそれらしい酒場はあったのだが、今まで入る機会もなく、異世界ならではの料理というものは口にしてこなかった。


この機会にぜひ、異世界を感じられる料理を食べたい。

イノチはそう考えていたのである。



「約束の時間までもう少しあるし…とりあえず腹も減ったから、酒場に入って飯でも食って待っとこうぜ!」


「確かにお腹は減ったわね…今日は朝ご飯も満足に食べれてないし。」


「僕もお腹ペコペコだよぉ♪」


「よし!なら、さっそく向かおう!」


「「おぉ〜!」」



一同は目的の酒場へと足を運んだ。



西部劇に出てくるようなスイングドアを開き、三人は酒場の中へと足を踏み入れる。


昼時も過ぎたためか、店の中には数人の客がいるだけで、閑散としているようだ。

トヌスの部下も、やはりまだ来ていないようである。



「たしか…店主に話しかけて、『ランチを人数分』って注文すればいいんだったよな。」



そう言って店内を見回し、店主の姿を探すイノチ。

すると、どこからか視線を感じることに気がついたのだ。


その視線の方へと顔を向ければ、奥のカウンターで腕を組み、大きめのナイフを持って、こちらをじっと睨みつけている男がいる。



(こっ…怖っ!!めっちゃ睨まれてる!!)



ビビるイノチをよそに、その男はあごで合図を送ってきたのであった。

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