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38話 10連ガチャ黙示録


盾士ガードナー

防御力が他の職業に比べて非常に高く、その硬さはドラゴンの攻撃をも防ぐと言われている。しかし、自らはいっさい攻撃ができないため、使いどころが難しい面も。



詳細を確認すると、こう記載されている『盾士ガードナー』という職業。


イノチはこれを選択すると初めから決めていたのだ。


当初はディフェンダーを選ぼうと考えていたイノチだが、防御一点型の『盾士ガードナー』を見つけてすぐに惚れ込んだ。



「俺自身も戦えるようになるには、守ってくれるやつがいないと…」



しみじみと思い返す記憶の中に、自ら挑んだものは一つしかなかった。


あの『リュカオーン』との一戦だ。


なんとか懐に忍び込み、『リュカオーン』の絶対防御を無効化することに成功したわけだが、ほとんど運任せだったのは言うまでもない。



「ゲンサイも強かった…しかも、あいつは自分自身の力で戦っていた…」



イノチは握った拳に目を落とす。

いろいろな感情を思い出して、小さく震えるその拳をギュッと握りしめる。



「俺の職業『エンジニア』は紙装甲だし、この『ハンドコントローラー』も相手に直接触れないと使えない。なら、やることは一つしかないよな。」



言い聞かせるように、イノチが『盾士』のアイコンをタップする。1連、5連、10連のアイコンが3つ表示されるが、そこも迷わず10連をタップした。


テーブルに置いてあった『黄金石』がいくつか光の粒子になり、ガチャウィンドウへと吸い込まれていく。


そして、画面が変わるとお決まりの白髪白ひげの男が姿を現した。


相変わらずムキムキな上半身を見せつけるように、担いでいた大きな砂時計を反転させ始める。



「まただ…ガチャムービーはスキップに設定したはずなのに…」



前回もムービーをスキップする設定にしたはずが、反映されていなかった。そしてそれは、今回も同様のようである。



「…またムービーを見なきゃならんのか…」



ムキムキをアピールしてくる男性を、目を細めて冷たい視線で見るイノチ。


念のためと画面をタッチする…が、やはりスキップできないようだ。



「やっぱりか…何が何でも見せつける気というわけだな…」



ため息とともに冷たい視線で見るイノチ。

それに構うことなく砂時計を反転させる男の表情は、少し赤くなっているようにも見えた。


砂時計がフォーカスされる。

そして、落ちていく砂の中から、輝いた光の球が飛び出してくる。



「さぁ!頼むぜぇ…!白球…白球…白…白…白…」



気を取り直して、イノチは飛び出してくるガチャの結果を、一つずつ確認していく。


しかし…



「ぬぬぬ…やっぱり1回目からはこないか…」



その結果は、無念にも…というところだろう。

獲得したポーションなどのアイテムやノーマル装備が、アイテムボックスへと送られていく。



「しかぁし!まだ『黄金石』は80個もある!最大であと4回は引けるからな!次行くぞ!!」



イノチははりきって、再び10連のアイコンをタップした。





10分後。


イスにもたれかかり、力なく座るイノチがいた。



「まじかよ…」



すでに4回目を引き終え、テーブルの上の『黄金石』は1回分を残すところとなった。


ここまでの結果は…

イノチの様子を見ればわかるだろう。


そう、惨敗である。


悔しげな表情どころか…上を仰ぎ、手をぶら下げて、まるでかの有名なボクサーのように真っ白になっている。



(もう少し排出率いいと思ってたけど…これまでの運が良すぎたのだろうか…まずいぞ、ここで『盾士』を引かないと、今後の戦い方をまた考え直さないといけなくなるし、それよりも…)



イノチはガバッと起き上がり、頭を抱え始めた。



(あざむいた挙句、なんの成果もないなんで…今、ミコトに『ニセ黄金石』を返されてでもしたら!)



《実はこの『黄金石』、ニセモノなんだよね〜。本物の方はもうガチャ回して全部爆死したんだぁ…アハッアハハハ!》



(……。言えるはずがない!!まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!!次だ!最後の1回!!これに俺の命をかける!!)



どこかのギャンブラーに似た顔になるイノチ。

擬音となって背後に現れているように見えるほど、イノチの心音は高まっている。



「絶対に…絶対に引かなければ…」



しかし、10連のアイコンをタップすることを拒むように、手が震えて前に出せない。



「迷うな!迷うな!迷ったら…望みの方へ進むんだ!」



イノチはそう自分に言い聞かせて、10連のアイコンをタップした。


白髪白ひげの男が、再び砂時計を回転させる。

イノチは、それを穴が開くほどの勢いで睨みつけている。


落ちていく砂の中から飛び出す輝いた光の球を、ゆっくりと数えていくイノチ。



「白球…白球…白…」



(くそっ!最初の3つは白か…まだだ、まだ大丈夫。)



「白……金……白……」



(よし!『R』は確定!残り4つ…頼む…来てくれ!)



「白……白……白……くっ!」



残り一つ。

砂時計の中心が明るい輝きを放つ。



(頼む頼む頼む頼む…)



そう祈るイノチの想いをよそに、最後の一つもまた、白球であった。


呆然と立ち尽くし、画面を見続けるイノチ。



しかしその時だ。

突然、画面が暗転し、見たことがないムービーが流れ始めたのだ。



「これは…!確定演出か!?よっしゃぁぁぁぁ!!!キタキタキタキタキタキタキタ、キタァァァァ!!!!」



喜びの声を上げ、期待を胸に画面を注視するイノチ。

しかし、その表情が少しずつ曇り始めた。



「なんだよこれ…演出ムービーなのか…?」



いつの間にかイノチは、気持ち悪そうな表情を浮かべている。


なぜなら、画面にはスポットライトに当たる白髪白ひげの男が、筋肉を強調するポージングをとっており、スポットライトが付いたり消えたりする度に、男のポーズが変わっていくのだ。


ポーズのたびに、ニカっと真っ白な歯と笑顔を見せる男。


画面では、ポージングの度にフラッシュが焚かれているようなエフェクトが点滅している。


まるでボディービルショーのように、輝く肉体美を見せつけてくる男に引きつつ、イノチは愚痴をこぼす。



「なっ…長ぇ…これはなんの拷問だよ…」



ひきつった顔のまま、ジッと男のポージングを見るイノチだったが、長かったボディービルショーが終わり、その結果に歓喜の声を上げた。



「ふぅ、やっときたぜ!!…って、黒…球?」



驚くイノチの目には金でも虹でもなく、漆黒の球体が浮かんでいたのだ。

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