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36話 嘘は門口まで


「そろそろ終わりにするかの。」



ウォタは仲間が皆、無事であることを確認するとそうつぶやいた。目の前ではすでに指すら動かせなくなった異形が横たわっている。



「キョエキォォ…」



何を言っているかわからないが、悔しさが伝わってくる小さなその言葉に、ウォタはため息をついた。



「つくづく…我ら竜種は因果な生き物であるな。お主も成体になることを夢見ていたのだろうが…」



ウォタの瞳はまっすぐと異形を見据えている。


竜種の成れの果てである『ドラゴンヘッド』。

彼らもまた自分と同じ竜種であったのだ。


目の前の異形が、誰の糧となったのかはわからない。

しかし、それは竜種の定め…避けられない犠牲なのだ。


そして、自分もその犠牲の上に成り立っていることを忘れてはいない。



「お主の命も、我が背負ってやるから安心せい。」



ゴウッと音を立て、ウォタの周りに蒼いオーラが発現する。

その中でウォタは目をつむると、仁王立ちのまま両手を拝むように合わせた。


まるで、異形に成り果てた『ウィングヘッド』へ慈愛を示すように。


そして、目を見開くと、そのまま異形へと飛びかかり、拳に乗せた蒼いオーラをその胸へと撃ち込んだ。


衝撃は異形の体を通り抜け、下の地面にヒビが走る。



「ギガッ…!!キリョカムエ…………」



ウォタの腕をつかんだその手が、ビクッと震え、そのまま力なく倒れていく。



「ともに行こう…」



そうつぶやくウォタの目の前で、異形は静かにチリになって消えていった。




それと同時に、イノチとミコトの携帯端末が振動する。


二人が各々の端末に目を向けると、『超上級ダンジョンクリア!Congratulation!!』という表示と、『帰還』のアイコンが表示されている。



「終わったぁ〜」


「だね!はぐれた時はほんとに焦ったけど、みんな無事でよかったよ!」


「あんなに苦労したのに、最後は呆気なかったな。まぁ、ウォタが強すぎたんだけど…」


「まぁ、それほどでもないがな。」


「ウォタ!」


「ウォタさん!!ありがとう!!」



皆の元へ戻ってきた人型のウォタに、ミコトは嬉しそうに飛びついた。


その様子を見ながら、エレナもフレデリカも今回はホッとしたようにため息を吐き出す。


しかし。ミコトの様子を見たゼンは複雑な表情を浮かべていた。



「…まさか覚醒までしていようとは…な。」


「カカカ、まぁこれくらい我には朝飯前よ!」


「ちっ…」



ミコトの頭をポンポンしながら自慢げに笑うウォタに、ゼンは不満気に顔を背けた。


その様子を楽しげに見つめていたイノチ。



「さぁて、とりあえず拠点に帰るか!…しかし、ランクアップのために来たってのに、全然成果なしかよ。」



その言葉を聞いたミコトは、エレナとフレデリカとともにニヤニヤし始める。


それに気づいたイノチは、訝しげに三人へと問いかけた。



「なっ…なんだよ…」


「BOSS…?まさか、ランクが一つも上がってないとか言わないわよね?」


「そうですわ。これだけ長い間、ダンジョンに潜っていたんですもの…せめてランクの一つや二つは上がっててもおかしくわありませんわ!」


「うっ…うるせぇなぁ!なんだよ、急にニヤニヤと!」



いやらしい笑みをこぼして問いかけてくる二人の態度を、煩わしそうにするイノチ。


そんなイノチに、今度はミコトが笑いを堪えながら話しかけてくる。



「イノチくん…フフフ…ランク…いくつだっけ…フフ。」


「ミッ…ミコト…?どうしたんだよ…なんで笑って…」


「いいからいいから…ランク…たしか『85』だったよね?」


「そっ…そうだけど…」



少し引き気味のイノチに対して、ミコトは携帯端末を見せながら自慢げに口を開いた。



「ジャーン!私、ランク『85』になりました!イノチくんに追いついたよ!!」


「まっ…マジかよ!!うそだろ!?…うわぁ、本当だ…マジで追いつかれてる。」


「はぐれてる間にミコトも頑張ったのよ!新しいスキルもかなり有用だしね!」


「そうですわ!BOSSがダラダラしてる間にミコトは努力してたのですわ!まったく…ランクを上げにきたのに、その目的すら遂行できないとは…」


「仕方ないだろ?はぐれてすぐ『ウィングヘッド』には出くわすし、ウォタは呪われて戦えなくなるし…俺だって大変だったんだよ!」



その言葉を聞いた瞬間、エレナの顔色が変わった。

笑顔ではいるが、その裏に明らかに怒りが見えている。



「BO〜SS…?今回はぐれた原因は何か覚えてるわよねぇ〜。まさか忘れたとは言わせないわよぉ〜?」


「うっ…それは…その…はい…」


「わたくしはちゃんと覚えてますわ!たしか原因は落ちていた『黄金石』…」


「そうそう。その『黄金石』に目がくらんで、後先考えず取りに行ったんだよねぇ。」



その場に正座させられたイノチは、見えなくなりそうなほどにどんどん小さくなっていく。



「やっぱりBOSSからは、ガチャに関連するものすべて取り上げないとダメね。」


「なっ…それは勘弁してくれ!…いや、勘弁してください!!エレナさん!」


「今回はみんなを危険にさらしたのですわ…弁護の余地は皆無ですわね。」


「わたしも、イノチくんにはガチャ中毒から立ち直ってもらいたいなぁ。」



三人の女性の冷たい視線に、イノチは動くことができない。

背中に冷たい汗が、大量に流れていくのがわかる。


ウォタとゼンは危険を察知し、すでに我関せずの状態だ。



「たしか携帯端末って、クランメンバーなら扱えるのよね。」


「うん、イノチくんの端末は私も使えるよ。」


「なら、やることは一つですわ…」



イノチを見る三人の目が光る。



「ちょっ…ちょっと…エレナ?なんでダガーを構えてんだ!!フレデリカ!ヤンキーみたく指を鳴らすな!ミコトまで…!!杖は人に向けないで!!」



焦り後ずさるイノチに対して、三人は横に並んで笑顔でイノチを追い詰めていく。



「うっ…うわぁ!!」



そう叫んでイノチが駆け出した瞬間だった。



「ウォタ!」

「ゼンちゃん!!」


「「はっ…はい!!」」



エレナとミコトの声に、ビクッと背筋を伸ばしたウォタとゼンは、一瞬で移動するとイノチを取り押さえる。



「くそぉ!ウォタの裏切り者!!ゼンさんまで…!二人とも、強いのになんでエレナたちに従ってんだよ!!」


「そりゃ…のぉ…」


「あぁ…。イノチ、"太きには呑まれよ"という言葉を知っとるか?」


「そんな言葉は知らん!なんだそりゃ…もう、いいから離してくれ!!このままだと、俺の…俺の命に関わるんだ!!」



必死に抵抗するイノチのことを、見て見ぬふりをするウォタとゼン。

そこにエレナがやってきて、イノチの懐から携帯端末を取り出すと、ミコトにそれを渡す。



「やめてくれ…ミコト!たのむ!ガチャを引けなくなったら…俺は…!」


「えっと…『黄金石』は全て募集でいいよね。」


「それでOKなのですわ。」


「ミコトォォォォ…」



取り押さえられたまま涙ぐむイノチをよそに、慣れた手つきでイノチの端末を操作していくミコトが、突然驚きの声を上げた。



「うわ!なにこれ…!?イノチくん、なんで『黄金石』100個も残ってるの?68個って言ってたじゃん!」


「えっ…それは…あれれれ?なんでかなぁ〜」


「…なに?どういうことなの、ミコト?」


「イノチくん、自分が持ってる『黄金石』の所持数、誤魔化してたんだよ!」


「なんですってぇ!!」



三人の冷たい視線がイノチを襲う。

なにも言えなくなるイノチに向かって、ウォタとゼンがつぶやいた。



「イノチよ…嘘はいかんぞ…」


「そうだ。"嘘は門口まで"だな…」

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