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ある夜の夢

作者: 冲田

 ──ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン


 わたしは、(けむり)を上げてレールの上を走る蒸気機関車に乗っていた。

 年季の入った座席には、向かい合わせで私を(ふく)めて四人が座っている。客車内はほとんど満席で、同じ年頃(としごろ)の人が多い。


 窓の外を見ると、目に(うつ)るすべてがきらめく星空だった。きらきらしてカラフルで金平糖(こんぺいとう)のような星粒(ほしつぶ)が夜空いっぱい、窓をあければ手の届く空間にも(ただよ)い、そして遠くには大きく(まばゆ)(かがや)く星々も見える。

 まるで銀河鉄道にでも乗っているようだ。──きっとこれは、夢なんだろう。


「あの……この列車はどこに向かっているの?」


 わたしは向かいに座るおさげの女の子に聞いてみた。


「未来よ。私たちはいつだって、未来に向かっているの」


 答えになってないように思いながら、いつのまにか(にぎ)りしめていた切符(きっぷ)を見た。何も書いていなかった。


「どこで降りたらいいんだろう?」


「私はずっと、終着まで乗り続けるわ。お母さんが言った通りにこのままこの列車に乗っていれば、間違(まちが)わずに人並みの幸せな人生が約束されているもの」


「僕は次の駅で乗り換えるよ」


 (となり)の男の子が話に入ってきた。


「スポーツ選手になりたいんだ。この列車の旅は楽ではなくても快適らしいけど、このまま乗ってたらダメなんだ」


「私も次で降りるわ。私は歌手になりたいの。あの一等星のように(かがや)きたい!」


 歌手になりたい女の子は空に一際(ひときわ)輝く星を指した。


「あの星にたどり着く、最後の乗り換え列車に乗れる人はほんの一握(ひとにぎ)りよ。私はオススメしないわね」


 おさげの子が、(たしな)めるように言ったけれど、次の駅で二人は降りて、他の列車に乗り換えて行った。

 乗り換え列車の向かう先はここからでは途方(とほう)もなく遠く、暗闇(くらやみ)の中に入っていくようにすら見えた。わたしには、この真っ暗な中に入っていく勇気はない。


 ──ガ タン、ゴト ン、 ガタ ン、ゴ トン……


「僕もあの駅で降りればよかったかな……。でも後悔(こうかい)しても遅いか。通過してしまった駅にはもう戻れないんだから」


 通路を(はさ)んで隣に座っていた男の子がポツリと言った。


「あなたは正しい選択をしたわ。だって、あそこで乗り換えたって、結局ここらにふよふよきらきら()いている“散ってしまった夢の欠片(かけら)”を増やすだけだもの」


 おさげの子は物知り顔で言う。


「次はぁー、前人未到(ぜんじんみとう)の地ぃー」


 車掌(しゃしょう)さんが通路を歩きながら次の駅をアナウンスすると、客車の中から一人の男の子だけがすっくと立ち上がって、高らかに言った。


「俺は見たこともないほど大きな星を目指して、次の駅で降ります。この駅からは徒歩で向かうしかない。それどころかレールも道もない。だから、あの星までの道は、俺が切り(ひら)いていく」


 男の子は颯爽(さっそう)と列車を降り、そしてこの駅では意気消沈(いきしょうちん)とした何人かが列車に乗ってきた。


「前人未到の地は僕には無理だった。夢の星は(くだ)けてしまったけれど、這々(ほうほう)(てい)でこの列車に戻ることができて、よかったよ」


 彼らは椅子(いす)に座るとほうと息をつく。


 ──ガタ ン、ゴ トン、 ガ タン、ゴト ン……


「それで、あなたはどうするの? 特に夢がないなら、私と一緒(いっしょ)にこの列車に乗っていましょうよ」


 おさげの子がわたしに言った。


 わたしの夢。なりたい自分を、未来を思い描いてみると、ふっと自分の前にきらきらと輝く小さな星が現れた。その光に()せられて指で(つま)んでみようとすると、星はすいっとその手を(のが)れて、車窓の隙間(すきま)から外に出て行ってしまう。


「夢が、あるのね。

 どうするの? あの星を追いかける? 駅は次々と通り過ぎていくわよ」


 わたしの夢の星はどこに飛んでいったんだろう。どの駅で降りればたどり着くのだろう。もう、過ぎてしまってはいないだろうか。駅からの道は険しいだろうか。


「わたしは……」



end

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― 新着の感想 ―
[一言] レールを引かれたような人生である、といいつつそこに差異があるのが現実の面白い所だよなって思いました 歌手やスポーツ選手のような線路に乗り換えた人は一目で違う電車だと分かりますが、同じ電車に乗…
[一言]  夜を駆ける機関車いいですね。  「銀河鉄道の夜」に「999」を思いだします。    素敵に描かれて情景が思い浮かびます。  人生は選択の繰り返し。  いずれの道を選んでも、結果的に良かった…
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