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ダブルビジョン  作者: 深瀬優賀
Double World(ダブる世界)
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第八話 みんな一度は考える状況だけど、実際に出会したくは無い

興味を持っていただきありがとうございます

「とんだキラーパスだな」


マイク部分を押さえつつ、トイレの個室で、薄野は苦笑いする。


「とは言え、そのうち見つかっただろうし、事前通知があるのは悪く無いのか」


原作にはなかったイベントだ。というか、この手のイレギュラーは主人公が来てからやって欲しい。


取り敢えず鍵をかけて、扉の上のスペースを通って個室から出て、隣の掃除用具入れに隠れる。


呼吸を長く、ゆっくり行い、動きを止め、自身の存在を空気に溶かすくらいの気分で待機。


足音。少し金属音がすることから、銃を持っているのは確定。


「おい、出ろ」


男が鍵を閉めて置いた個室に語りかける。


「出られないなら鍵だけでも開けろ。5秒以内に従わなければ、射殺する」


気配を消しつつ武器を探し、拳が速いと思い至る。


「5、4、3、————


飛び出した。銃口がこちらを向く前に、引き金の間に指を通す。そのままタックルでもするかのように押し倒す。


「ふっ!!」


顎を蹴る。怯んだところをアイアンクロー。そのまま地面に頭蓋を叩きつけた。


「ふうーー」


どうやら気絶してくれたらしい。

そして、ホッとすると同時、胃の中から込み上げてくるものに気づき、便器まで走った。


「おぇっ!!げぇっ、ゔがっ!!」


朝飯がリバースした。


しばらく吐いた後、笑みが浮かんだ。


「ハハハッ、クフフッ、ったく、何が気持ち悪いって、こんな事に喜悦を覚えている自分だよなぁ?」


平和ボケと揶揄されるような国で、ぬくぬくと何のトラブルもなく育ち、人殺しに喜びを覚えるようになりましたってか?


「笑えねぇくらい笑えるなぁ?ってどっちだよ?クハハッ」


支離滅裂な言葉が漏れる。そして思い至る。


ああ、俺はきっと、


「昔から人を殴りたかったんだろうな」


世界にピントが合った気がした。人の体を使っている以上、俺は自身を体を借りてるだけの異邦人と認識していた。傍観者として立ち回ろうとしていた。にしては過干渉だった気もするが。


ともかく、この前の名取との戦い、そして今回で、紛れもなく『薄野満月』は「薄野満月」であると俺は認識した。


口を濯ぎ、胃液を流す。鏡をのぞいて小さく呟く。


「さて、こうなればもう、言い訳不可だ。付き合ってもらうぞ?『薄野満月』」


人の平穏を奪うなら殺す。邪魔をするなら相対する。


全ては自分の大切なもの(テリトリー)を守るため。


掃除用具入れからダクトテープを取り出しつつ、「薄野満月」は裂けるような笑みを浮かべた。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「おい、入れ」


柳葉燕。彼女は、テロリストの一人に、保健室へと引き込まれていた。


「……私を連れて歩くことで、彼の攻撃を防ぎつつ、場合によっては炙り出すんじゃなかったっけ?」

「そんなの建前に決まっているだろー?」


薄野を仕留めるべく、回された人員が、帰って来なかった。


そのため、教室に陣取るリーダーと思しき男は、この男に彼の捜索を指示した。


彼は先述の理由を口にして柳葉を連れて行き、結果がこの状況。


こと此処に到れば嫌でもわかる。


「良いとこの家の御令嬢を摘み食いできるなんてそうあることじゃ無いからな。特にお前みたいな見た目の女は好みなんだよ」

「そう」

「なんだよ反応薄いな」


男はつまらなそうに言う。


心を殺す。こんな形で純血を散らす羽目になるとは思わなかった。と柳葉は思いつつ運命とやらに殺意を覚える。それに抗えない自分にも。


「(こんな男にくれてやるくらいなら……)」


脳裏に浮かんだのはこの前袖にしたばかりの幼馴染の顔。


事故以来、こちらを振り回すようになった、何処か危なっかしい、本当は優しい男の子のこと。


「(ああ、これなら断らなければ良かったかもしれない)」


そう思った時だった。


ガラリ、扉が開く。


「えっと………」


すごく気まずそうな顔をして、先程まで思っていた相手。薄野満月が銃を手に、突っ立っていた。


「テメェっ!!」


男が銃口を薄野の方に向ける。その隙があれば十分ではあった。


柳葉燕は、これでも武道で有名な家系の出。

割り開かれた足で相手の胴体をロック、相手が銃口を向け直す間も無く体をベッドの外に出しつつ、高低差を利用して投げた。


食らった男は、ぐえっ!?、という声だけ残して、犬神家の池の死体みたいになった。




お読みいただきありがとうございました

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