第六話 白金の反骨にバッティング
興味を持っていただきありがとうございます。
この学校は、文武両道をモットーとし、異能の研鑽のために、『決闘』というシステムがある。校内ランキングのようなものもあり、高いと、成績に加点される。
全ては、人類の発展と、魔境への対抗のため。
勝利条件は相手を戦闘不能に追い込むか、相手の左胸のバッヂを破壊するか、相手が降参するかである。
今回のフィールドは石段スタイル。天下一武道会を思い浮かべて貰えばいい。
フィールドの形状の関係で、ガチンコ勝負になりがちなステージである。
試合前の握手の段階で一言言っておく。
「すまん、追求の線を切ってくれて助かる」
「まあ、僕としても面倒事はさっさと片付けたいから……。それに、君にも少し興味があった」
「なんで俺みたいな木端に?」
「無能力なのに此処にいる事。それで十二分だろう?」
「……………」
「まあ、全力で戦ってくれよ。ある程度みんなを満足させられないと不満がたまる。それは避けたい」
邪気のなさそうな雰囲気で、名取は言った。
お互いにある程度の距離をとって。
「それでは行こうか」
「OK、程々によろしく」
戦闘を開始した。
♢♢♢♢♢♢♢
「瞬速潜世!!」
先手必勝とばかりに名取が叫ぶ。
対する俺は拳を構え……
「なっ!?」
動きの過程を見失った。
次の瞬間、奴は目の前に現れ、右ストレートが飛んできた。
「くっ!?」
「ぐっ!?」
顔の中心を狙うそれを、回避は間に合わないと判断し、額で受け止める。
相手が拳の痛みで硬直した瞬間を狙って左脚で右脇腹への蹴りを放つも。相手が消えると同時、いたはずの場所に手応えがない。
しばらくして、遠くに彼の姿が現れる。
内心舌打ち。どうにも彼の能力の詳細が思い出せない。
彼が此方に走って来る。ポケットに入っていた消しゴムを投げつけると、彼は一瞬消えて回避。現れると同時急加速し、寸前1メートルで消えた。
「なっ!?」
呆気に取られると同時背後から衝撃。呻き声を漏らしつつ蹴りを放つ。
空振り
脇腹への拳。苦痛を堪えて掴み、背負って叩きつける。
マウントポジションを取ろうとするも、奴は消え、一応踏みつけたが、感触もない。
「(移動時に足音はしない。消えてる間は触れないことから透明化でもない。そして、明らかに不自然な加速度)」
加速は奴の能力の一つとして、何処かで似たような技を見た気がする。
だがどこだ?
嫌な予感がしたので、半ば当てずっぽうで振り向くと同時、世界に穴が空いたような画で、出現する名取を見て思い出した。
驚いた様子の名取にハイキック。明らかに不自然な速度でスウェー。顎には入らなかったが、続くカカト落としで、腹を抉る。
咳き込みながら消える奴を見て、既視感の状態に思い至る。
「そうだ。シャドーダイブみたいだなって思ったんだった」
世界のテクスチャの裏側に潜り、敵の攻撃を回避。突然現れて奇襲。そういうタイプの能力。正直言って空間移動系と同じくらい相手にしづらいイメージの能力である。挙句加速能力も持ち合わせている。そういうキャラであった。
その手の能力への対応策は基本的に。
「先読みの待ち伏せ。あるいはカウンター」
先程までは背後に回り込むばかりだったが、流石に今回は警戒されていると判断。
右を軸足として、左脚を下げてかかとを浮かし、拳を握って目を瞑る。
一撃もらう覚悟でのカウンター狙い。
視覚を閉ざし、聴覚と触覚に全ての意識を集中する。どうにもこの肉体になってから、この手の勘は研ぎ澄まされている。
「…………………………来た!」
空気の流れ、或いは音や匂い。それらを感じ取ると同時、カッと目を見開く。
相手の位置は左前方。
抜き手で此方のバッヂを狙っている。
対する俺は、左脚を振り上げ———
「はっ!!」
「ふっ!!」
拳と足が交差する、着弾はほぼ同時。奴の抜き手は俺のバッヂを突き砕き、俺の爪先はやつのバッヂを蹴り砕いたのだった。
結果は引き分け。
そう宣言されると同時、二人揃って座り込んだ。緊張が切れたのだろう。
顔を見合わせ、ふふっと笑いあう。変なシンパシーが生まれた瞬間であった。
「で、これはどういうことかしら?満月」
「げっ!?」
振り向くと、噂の渦中の一人、柳葉燕が仁王立ちしていた。なんか、怒気みたいなものが可視化できる上、普段外では苗字で呼んでくるのが崩れている。
「げっ!?とは何かしら?私に対してやましいことでもあるの?」
後ずさろうとすると同時、黒龍が出現。足下が氷漬けになり、退路が塞がれる。
「さて、なんでこんなトラブル起こしたのか話すか、全身濡れ鼠になったあと、ちょっと感電してから氷漬けになるか、二つに一つだよ?」
「いや、どちらかと言えば被害者側なんだが?俺。いや、止めろ。黒雲を展開するな、どう見てもバチバチいってんじゃねぇか!?」
授業が始まるまでに少しかかった。
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