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ダブルビジョン  作者: 深瀬優賀
臨海合宿
29/32

第二十七話 初手、情報ビンタ

時間通り。

「うん、ちょっとおかしい気がする」

「何がだい?」


薄野の独り言に名取が反応する。


「いや、結界に穴が空いたからといってこうまで延々と出てくるもんか?」

「そんだけ鬱憤が溜まってたとか?」

「でも普通は自分の縄張りから積極的に出ようとはしないだろう。そこに生活基盤があるんだから」


蛙からの指示がないのをいいことに、薄野は考え込む。


「だとすればここから出なければならない理由があった?だとすればそれは何だ。あと、量もおかしい。こんなに連続して一定量が出てくるか?普通」

「まあ、この状況が普通じゃないというツッコミは置いておくにしても、ちょっと異常ではあるよね。あんな一目散に出てくるなんて」

「……一目散?そうか、逃げてきたわけだ!」

「何から?」

「それは知らん!」

「そらそうだ」

「でもそれを取り除かないとこの状況は落ち着かないだろうし、結界が割れた件とも関係ある可能性が高い気がする」

「まあ、タイミングがタイミングだからね」

「というわけで森に突入する必要があるかもしれないって白梅に伝えてくれ。アイツにも苦労かけるようで悪いが……」

「僕に労りの言葉は?」

「適材適所だ。能力で壁抜けできるんだからとっとと行ってくれ」

「了解。今度ジュースくらい奢れよ?」

「了解。ワンコインで勘弁してくれ」


名取が姿を消したのを見送って、薄野は


「はいそこぉー!!」


壁を張って敵の角のミサイルをガード。


「さて、このまま持ち堪えるだけならどうにかなるだろうが……」


まあ、どちらにしろ本日中には終わるだろうさと気合を入れて、薄野は戦闘に意識をもどした。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「よし、では行ってもらいましょーう」

「軽いね?」

「実際そろそろ必要なんだよね」


そう言って白梅は、ボードゲームの駒がばらまかれた地図に視線を向ける。


「ほら、ここの森の奥。急にチェスのクイーンが出現したんだよね」

「能力から察するに。だいぶヤバくない?」

「おそらくかなりヤバイ。今偵察中だけどこの前のヒュドラ級かもね」

「うわぁ……」

「こんなのが急に発生するわけないから、その原因になってるやつを倒さなきゃならなくなりました」

「柳葉さんに薙ぎ払ってもらうってわけにはいかないの?」

「あれは相性が良かったっていうのが強いらしいから、取り敢えず敵を見てからかな」

「了解。んで?メンバーはどうする」

「取り敢えず名取くんと薄野くんには行ってもらうとして……」

「おっと薮蛇だったか。あとは探知系能力持ちが欲しいな」

「最悪駒の位置をリアルタイムで伝えればどうにかなると思う。あと一人は欲しいけど」

「じゃあ、俺が行こう」


名乗り出たのは噛木さんであった。


「わかりました、お願いします。ヤバイと思ったら速攻退いてください。その間は柳葉さんと加藤さんで代わりを担ってもらいます」

「了解だ」


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「ターゲットクリア」

「流石ですね」


森に突入したはいいが、コマンダーからの指示をもとにピンポイントで噛木さんが狙撃を行い、的確に眼球を撃ち抜いて敵魔獣を殺害していた。


「大抵の生物は眼球に弾丸くれてやれば死ぬ」


とは彼の言葉である。それをできる狙撃力あってこそではあるが。

そして彼の弾丸は水を食う。眼球から侵入した弾丸が敵の脳を乾いたスポンジに変えるが故に、当たれば死ぬという理不尽さを搭載している。


「敵クイーンはどのあたりだ?」

「もうすぐ見え……って嘘でしょ!?左右に散開!!」


無線からの声に従うと同時、暴走トラックのようなものが後ろの方に走り抜けていった。


「あれはウルフラムウルフか?」

「何ですかそのコバルトコボルトみたいなネーミング!?」


噛木に思わず叫び返す。


「体の表面がウルフラム。要はタングステンで覆われてる巨大狼だよ。機敏な上にパワーもある。場合によっては都市壊滅級になりうるポテンシャルの魔獣さ」


返事はあった。しかし、それは聞き覚えのない声だった。


声の方に顔を向ける。そこにいたのは一人の人間。男にも女にも少年にも老人にも見えるその人間は、ただ一つ強烈な悪性を感じさせるという形で異質な存在感を発していた。


「はじめまして、人類。私は………そういや名前無かったな、私。君ら知ってる?」

「知らねぇよ。誰なんだアンタ……」


人好きのするボケた雰囲気に脱力しつつ、どうにも警戒を解き切れない。


「まあいいか、私は私だ。それでは失礼してtake2」


姿勢を正し、胸に手を当て、彼(便宜上)は微笑と共にこう言った。


「はじめまして人類。では死ね」


お読み頂きありがとうございました。

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