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ダブルビジョン  作者: 深瀬優賀
新人戦
21/32

第二十話 ルールを守って楽しく決闘!ただしマナーは守らない

興味を持っていただきありがとうございます。

距離を詰めて拳を放つ、避けられるのを想定し、そのまま蹴りを放つが、跳び上がって回避され、そのまま前方宙返りからのカカト落としを放たれる。全身の切り傷から血しぶきが跳ぶ。とっさのことだったため、壁による防御が追いつかない。


とっさに腕を交差させて受け、その足を掴む。掴むと同時、引きずり下ろし、背中に膝を入れ、そのままぶん回して、生み出した壁に叩きつける。顔を庇ったところに蹴りを入れ、頭部をサンドイッチしようとするも、壁を破壊されて透かされ、掴みを振り解かれた挙げ句、着地そのままの足払いをされる。


こけかけたところを壁を出して、少し傾いた体勢で体を維持。反発係数高めの設定だったため、脳が揺すぶられるが、気合で耐える。


斜め立ちのまま壁を転がり距離を取る。距離を詰めてくる相手にフィギュアスケートのスピンよろしくローキック。空を蹴って回避されるが、体勢を崩すのには成功。

追撃するべく、走り、跳ぶ。ドロップキックを放とうとするが、地に伏せた体勢から放たれた逆立ちのようなハイキックが顎にかする。そのまま兎月は立ち上がる。倒れながら俺は、ポケットからスーパーボールを取り出し、腰元に生成した壁にそれを叩きつけることで不意打ち狙撃を敢行。紙一重でかわされるが、追撃への牽制はできた。

牽制を見た兎月は空中へその身を置き、俺の周囲をさながらスーパーボールのように高速で跳ね回る。


目で追うのは大変な速さに到達。このままでは、恐らく目で追うことに夢中になって攻撃に移られた時に対応が遅れる。故に、俺はカウンターにかける。


「さあ、来いよ」


ニヤリと笑い、呟く。兎月も笑ったような気がした。


風切音が変わる。


「ここ!」


ポケットから取り出したのはスモークグレネード。噴き出した白煙は、俺自身を覆い隠す。


煙が晴れる。そこには、ドーム状の壁を展開する満月と空中で立ち止まった兎月が。


兎月は冷たい目で満月を見据え言う。


「興ざめたことしてくれたね」

「まあ、悪いことをしたとは思う。でも、目的は果たせた」

「……なるほど」


兎月が周りを見ると、お互いが白い壁で囲まれているのに気付いた。


「俺の能力は自分を囲んだ壁の外に新たな壁を作れないだが……」

「内側には作れると……」

「そういうこった」


要は、スモークを二枚の壁で挟み、粒子を巻き込むことで白い壁を作ったのだ。ついでに壁を蹴った相手が足の骨を折ってくれてもそれはそれでよかった。


意図を察した兎月は楽しくてたまらないという風に笑った。


「いいねいいね!ここは君のフィールドってわけだ!」

「ああ、全力を他人に見せるなんてあまりしたくはないからな!」

「つまり君と僕の秘密ってわけだ!惚れちゃいそうだね!」

「やめとけ、火傷するぞ?」

「やれやれ系じゃないの?君」

「微妙に悪意感じるぞ!?」


会話しながら拾って置いた棒を、彼女と自分を隔てる壁に叩きつける。裏面から叩かれた壁は、砕け散り、破片となって飛び散る。二人を囲む白壁にぶつかった一部の破片が跳ね回り、二人の肌を切り裂く。


だが、互いにそんなことは気にも留めない。


相手が笑みを深めるのが見える。こちらもきっと笑っているのだろう。

口角が吊り上がっているのが自分でわかる。


言葉はもはや必要ない。二人の戦士は、今度こそ真っ向から衝突した。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


白梅と柳葉は立ち尽くしていた。


なんと手遊は、浮かせたナイフを自分の周囲に高速回転させ始めた。それはさながら竜巻。触れればシュレッダーに巻き込まれた虫のように、細切れになるまで刻まれるだろうこと請け合いだ。


挙げ句、その自己主張強い死神は、一歩一歩此方に近づいてくるのだ。


白梅はダメ元で隣の親友に問う。


「柳葉さん、竜巻出せたりは……」

「しない。残念だけれど。暴風はギリギリ出せるけど、あれを壊そうとしたら、使うと同時気絶するわ」


彼女の能力は、黒雲を起点とした暴風雨に関する事象を扱うもの。竜巻は残念ながら専門外だ。



「おいおい、ヒュドラ殺しってのはそんなもんか!?」

「あれは正直相性が良かっただけなのだけれどね」


変温動物相手に凍結技出せるならそりゃ有利でしょう?と思わず苦笑いする。


「けどまあ、そこまで言われてしまっては、黙ってられないわね」


刀を鞘に納め、柳葉は言った。


「白梅さん、これ放つと私倒れるから、あとよろしくね?」

「ちょっと!?」

「大丈夫、君なら出来る!」

「急に他人行儀!」


どこぞの白いイフリートを連想する発言だが、そこにツッコめる人間はここにはいない。


「それじゃあ、お色直し」


黒龍と黒雲が溶け、柳葉の体に纏わり付く。現れたのは、いつかの黒い甲冑。例によって、片目が赤く変色していた。


『纒装』幽象(アバター)を外装化し、能力発動のタイムラグを消し、全体的な出力を上げる代わりに、射程と継戦能力を売り飛ばす、短期決戦特化型の技術。


「それは妻神を焼きし火を殺す(つるぎ)


『村雨」は使えない。氷山を出そうが、アレは防げない。だが風を、空気を断つならこの刃だと柳葉は思うのだ。


「火を喰い、血を吸い、(いかづち)を生む十握剣」


火を切るということは、酸素を、空気を断つということ。それはつまり気流を寸断してのけたということだ。ならばこの刀剣こそ刃の嵐を止める者。


「死を踏み台に未来へ繋げ」


刃の嵐が迫るが、それは遅々としたもの。余裕を持ってこちらとしても放てる。


「喰らえ、『天之尾羽張(アメノオハバリ)』」


特に変わった動作はいらない。ただ、振り下ろす。それだけでしかなかったし、それだけで十分だった。


刃の嵐はさながら、割れる風船のように崩れ、同時に柳葉も力を使い果たし、気絶した。


同時、白梅は走り出す。相手はナイフを全て使って、刃の嵐を生み出してのけた。つまり、残弾全てを吐き出してあの技を放った。

柳葉が空を断ち、技を破った今、相手は丸腰で立ち止まっている。故に、あえてわかり易く攻撃の意思を見せることで、相手に圧をかける。その場で反撃に移らせるために。


「(追い風なのがかなり楽……)」


走りながら白梅は考える。彼女は知る由もないが、この追い風は、『天之尾羽張』の影響である。この技は、指定地点に、破壊力を伴う真空状態を作り出す。真空状態が有れば、空気が流れ込もうとするのは道理。それが追い風という形で現れているのだ。当然、手遊にも追い風は吹いている。背中を押される感覚が、撤退という単語を脳から追いやる。

足元のナイフを軽く踏みつけ、跳ね上がったところを蹴り上げ、キャッチし投擲。


「『超越配達』!!」


白梅は小人を8匹展開。ナイフの対処に当たらせつつ、舞いあげられた刃が降ってくる中を突っ切る。かする程度は無視、致命傷だけ迎撃させる。

あと5歩踏み込めば手が届く間合い。


視線が交錯する。


道化がナイフを掴む。


そして


銃声が響いた。


「なっ!?」


銃弾は二つ。背後から手遊の心臓と胃を射抜いていた。まごうことなき致命傷だ。


ガシャンという何かが落ちる音が二回。それは二丁の拳銃。柳葉と薄野なら、それが柳葉のものだと看破するだろう。


「何を……」

「引き金引いた瞬間の銃を送りつけたの。相手が動かないって確信がないと使えないけどね」


行きがけの駄賃として白梅は解説しておく。


『超越配達』は紙に書いた時間、座標に、紙を貼り付けた対象を送りつけるというもの。引き金を引き、弾が発射される寸前の銃を転送すれば、送り先で弾が発射されるというわけだ。


タイミングがシビアなため、咄嗟にできるようなことではないが、柳葉が目を引いていたため落ち着いてできた。


あえて相手に突っ込んだのも、この仕込みを成就させる一環。座標指定は後からできないので、その場から動かさない必要があったのだ。


「細工は流流。巧くハマったね」


ポケットからナイフを取り出し。微笑する。同時、手遊は崩れ落ち、ポリゴンに変わって消えた。


まあ、それはともかく。


「どうやって仕込んだんだろう、これ」


優に千は超える刃物の山を見ながら首を傾げた。ああ、世界は不思議に満ちている。


同時、白いドームが割れる。中から出てきたのは薄野と蓬田。薄野が蓬田をお姫様抱っこする形で……


「………昨晩はお楽しみでしたね?」

「止めろ人聞きの悪い」

「でも二人で個室で汗だくになって」

「やめろ。というか遠慮がなくなったな」

「まあ、友達……だからね」


白梅は朝焼けを見るような目で微笑した。


まあ、最後のやりとりで台無し感はあるが、一応一回戦突破である。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「決勝戦……酷い戦いだったね」


その日の終わり、白梅が言った。


「正直、私達は第一試合が決勝戦だったのではないかしら」

「でも大抵の人は負けるんじゃないかな?アレは」


順調に勝ち進んだ俺たち3人だが、二回戦、準決勝に置いても、一回戦程の戦いは繰り広げられず。決勝戦に置いては、最短で終わってしまったのだ。


「まあ、戦車が出てきたことには驚いたけどさ」

「あれはズルいよね……」


決勝戦の3人の能力は、「作った模型に本物と同じ機能を持たせる」、「対象のサイズを変える」、「殴ったものを素材キューブとし、一定数保持。組み合わせたりして、モノを作り出す」というモノだった。


相手三人は、この三つの能力で、戦車を作り出し、大きくして乗り込み、弾を延々と出して打ち続ける。という中々イカれた真似をしたのだ。


大抵の相手は何もできず、引かれるなり、撃ち殺されるなりしたのだが、今回は相性が悪かった。まず、薄野の防壁は、戦車砲を受けるには十分な強度があったためだ。


「というか、酷い1ターンキルをしてのけた張本人が何言ってる」

「私としてもアレは想定外だったんだってばーー」


まあ、満月の存在だけで相手の強みを半分潰したような決勝戦ではあったが、勝利の要因は間違いなく白梅がこちらにいたことだ。


彼女は相手の砲撃を見るなり、戦車内に座標指定を行い、ピンを抜いた手榴弾を送りつけ、爆殺したのだ。


結果、15秒も経たず試合が終わるという珍事となった。


「まあ、何かしらの対策をするとか、ハッチから飛び出してくるとかしてくると思っていたものね……」

「でもね、そうはならなかった。そうはならなかったんだよ。だから、この話はここでおしまいなんだ」

「急にどうしたのかしら。満月は」

「変な電波でも受信したんじゃないかなー」

「ひでぇな」


こうして、俺たちの新人戦は終わった。


月届跳躍ムーンジャンパー


所有者 蓬田 兎月


ビジョン

肉体改造型の幽象であるため、象はない。しかし、能力使用時に所有者は銀の光を纏う。


破壊力 B 速度 A 射程 E 持続力 B

精密操作性 C 成長性 B


主な能力は、脚力の強化と足場の生成。よって空中歩行もお手の物。また、能力を活かすべく、肉体が改造され、三半規管、骨、筋肉その他が常人を優に超える強度になる。能力使用時は銀色光を纏い、能力の出力を上げれば上げるほど、その光は強くなる。


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