第十九話 インファイトこそバトルの華
興味を持っていただきありがとうございます。
銀に煌く胴への蹴りを一歩引いて躱し、回転そのまま放たれた二段目の蹴りをどうにか掴む。
掴んだ足を背負いそのまま一本背負い。顔に布が絡み付いたが、無視だ無視!
叩きつける前に暴れ、空を蹴りつつ離脱した蓬田がぶすっとした表情で言う。
「変態……」
「不可抗力だ。文句なら制服姿で出場にした運営側に言え」
そう言いつつ棒で刺突。躱されるを見越して横なぎにし、躱されるのを見越して両手持ち。突っ込んでくるかと思ったが、一歩引かれた。
「……なかなかクレバーだな」
「なんかヤバイ気がしたからね」
俺の使っている棒は、中にバネの入った折りたためるタイプのものなので、接続を外し、拘束。タコ殴りしようかと思っていたのだが、これで警戒されてしまった。
「(ふむ、どうしたものか)」
このままだと、勝てはしないが負けもしないだろう。しかし、こうしている間にも、燕と白梅が削られ続けている。
「ねぇ、なんで本気出さないの?」
出し抜けに、そんな声がかけられた。
「ん?」
「ん?じゃない」
何処か殺気混じりの声で、兎月は言う。
「僕には君の能力を使うまでも無いってこと?真っ向から戦うだけの資格も無いってこと?」
「……………………」
言われてみて気づく。まあ、あまりに失礼な話ではあったと。本来、彼女の言葉を聞く理由は無いのだが、まあ、そう言う気分にさせられた。
「蓬田……兎月だったね」
「出しなよ、君の幽象を」
うん、セリフだけだと俺負けない?。そんな風に軽く気を抜き、ため息。
「(できれば温存したかったのだがな)」
まあ、実際のところ、このままでは千日手だ。こうやっている間に味方二人も倒されかねなかったわけだからいいタイミングだったかもしれないと考える。道化から飛んできたナイフを弾く。
スイッチが切り替わる音がした。悪意が覗くのが自分でわかる。さあ、物は試しだ、やってみよう!
「『透明拒絶』」
口にすると同時、SF調の全身鎧の人型が現れる。そいつが透明な壁を展開すると同時、俺はポケットの中身を投擲した。
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手遊 鼯は、戦況を一歩引いて見ていたからこそそれを認識できた。
空を蹴り、飛び退いた蓬田の背後に透明な壁が出現したのを。
この3人でヒュドラを倒したという話は出回っていたものの、能力がわかっているのは柳葉だけであった。故に、彼女への対策は徹底的に行ったつもりだったが、白梅が彼女をサポートしているため、やや優勢止まりになってしまっている。初手で攻めきれなかったことが何より痛かった。
「蓬田!!」
注意を促すべく叫ぶが、その間に、透明な壁は、彼女を囲んでしまった。その中に小さなボールが投げ入れられた状態で。
ボールは、透明な壁に当たると跳ね返り、跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて、加速し続け、跳ね回る様が、ラインのように見えるまでになった。
「スーパーボールってすげえな……」
やった本人が驚いたように呆けている。その様と、仲間がボロボロになっていくのを見て、頭の中で何かが切れる音がした。
「『投具詐芸』!!」
宙にナイフをばら撒き、自身の幽象に殴らせる。十数本のナイフが、満月へと放たれた。
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「『投具詐芸』!!」
その叫びに目をやると、赤髪の人が、薄野くんへ全力攻撃を放ったのが見えた。
恐らくこれが、目の前の重機男を倒す最初で最後のチャンスだと判断した。
どうにかするべく策を巡らせる。手持ちの道具は、拳銃二丁、手榴弾二つ、スタンバトン一本、ナイフが数十本。負傷は引き継がれないが、手持ちの道具の消費は引き継がれる。故に、出来る限り最小限でかたをつけねばならない。
銃は重機の装甲で防がれる。手榴弾も同様だ。ナイフも同じで、電流は、流そうとすると自切される。
「『迅雷』!!」
柳葉が雷を放つ。幽象を纏わない状態では、隻眼龍神に彼の装甲を撃ち抜く火力は出せない。纏うにしても、確実に息切れを起こす。それこそ、最後に1発ぶちかますくらいの使い方しかできない。
よって、今のところは『迅雷』による電流が、唯一の攻撃手段だが、黒雲に電気を溜めて発射するという特性上、連発が出来ないため、自切で防がれる。
そう、今みたいに。ショベルを突き出し避雷針代わりにして、アームを自切し防御。そして切り離したものを再接続して攻撃される。
……再接続?
「……そうだ」
懐から付箋を出す。チラリと時計を確認し、ペンを走らせる。指定時間は書き終わりの1秒後。場所は、奴が自切した腕の、再接続部。
転送するのはスタンバトン。
「『超越配達』!!」
「「アイ!!」」
小人二人がバトンを抱えて消えた。
二人は、奴がこちらを殴るべく金属塊を再接続しようとすると同時戻ってきた。
「ぐうっ!?」
「何事!?」
柳葉が叫ぶ。別に接続に不備があったわけではない。ちゃんと接続はなされた。ただし、余計なものを巻き込んで。
白梅の能力で転移されたスタンバトンは、再接続に巻き込まれ、ペシャンコになった。原型を止めないほどに破損したスタンバトンは、当然漏電。電流は装甲によって全身に分散されたが、それでも相手を硬直させるには十分だった。そして、その一瞬が有れば事足りる。
「柳葉ちゃん!」
「『迅雷』!」
黒雲から放たれるは闇を裂く紫電。それは金属を纏った男に直撃した。自然界に置いても上位の破壊力は、重機の鎧を纏った男を吹き飛ばし、その電力は、全身に分散したといえども、中の男を痺れさせ、火傷を負わせ、気絶させるには十分だった。
そして、ポリゴンが砕けるかのようなリタイア演出がなされる。ご配慮いただきありがとうだ。
「一人撃破」
小さく白梅は呟いた。
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放たれた大量のナイフを俺は壁を張って弾く。
跳ね返るも、空中て不自然に軌道を変えて俺を狙うナイフを、壁に囲まれ、スーパーボールの乱反射で打ちのめされている兎月の方へ弾き飛ばす。
俺のクリアリジェクトは、透明な壁を出現させる能力。発生させた壁はそこから動かせないが、表面の反発係数を0~1.5の間で弄れる。
比較的用途の多い能力ではあるが、当然制限がある。まずは生み出した場所から動かせない。強度と展開面積に上限がある。そして何より今回悪用するのが、壁自体に表と裏があると言う点だ。
この壁、強度はある程度自由であるものの、やたらと攻撃に弱い面が存在するのだ。表面からの攻撃であれば、至近距離からの八十八口型での戦車砲でもないと砕けないのに対し、裏面から攻撃すると五歳児の肩叩きで砕けるほどに脆い。
これを利用して、この透明のキューブを加速装置として用いる。
キューブを砕くと同時、スーパーボールが射出される。それを、自力で展開した壁で、方向調整。
「沈め!」
黒いボールは過つことなく、赤髪の道化の額と水月を撃ち抜いた。
「倒れて、たまるかぁーー!!」
赤髪はのけぞりはしたものの、踏みとどまる。同時、胴体が急速に萎み始める。どうやら太った体型はダミーであり、致命傷を防ぎ、大量にナイフを仕込むためのスペースだったのだろう。それが、鳩尾への攻撃で割れた。
「投具詐芸!!」
叫ぶと同時、鼯は上着を脱ぎ、上へ放り投げる。
「出し惜しみ無しだ!!」
こぼれ落ちる大量のナイフを、彼の背後立つ道化師が、手当たり次第に殴りつけ、能力の支配下に置く。
「クシャトリアかよ……」
彼の周囲に、数えるのも面倒なほどの量のナイフが浮かぶのを見て、緑色のファンネル特化機体を連想し、満月はぼやく。
「つれないね!他の相手に目移りなんて」
高速飛び蹴りを首を捻って回避。兎月が銀の光を纏い、立っていた。正直死ぬかと思った。
「(ふむ)」
少し考える。燕はどちらかというと瞬間火力型。一撃必殺スタイルのダメージディーラーだ。対する白梅はトラッパー。先を読み、物品を送りつけることで相手を嵌めるタイプ。
となると現状、兎月のようなスピードスターの相手は難しい。ならば……
「OK出し惜しみ無しだ。『透明拒絶』!」
「上等!なら乗って行こうか!『月届跳躍』!!」
ここで彼女を引きつけるのが恐らく正解だ。
戦いは最終局面を迎える。最後は全力のインファイトで。
単機工事
所有者 土木 鋼地
象
重機モチーフの鋼の鎧
破壊力 A 速度 D 射程 D 持続力 C
精密操作性 D 成長性 C
近距離パワータイプの装着型アバター。最初は、油圧ハサミ付きのショベルカーをモチーフとした鎧の形状をしている。辺りの無機物を破壊することで、自身の武装として吸収できる能力を持つため、市街地での戦闘を得意としている。また、破壊力は高いが、動きは鈍重。だが、自己の鎧の変形や、パーツのパージなどは高速で行える。




