第一話 暗闇を抜けるとそこは並行世界であった。
興味を持っていただき、ありがとうございます。
ゆっくりと意識が浮上する感覚。
要は目覚めだ。
「……知らない天井だ」
取り敢えず人生で一度は言ってみたかったセリフランキング第50位くらいを口にする。
周囲の様子から察するに病室らしい。
取り敢えずベッドからおりる。
「おっと……」
バランスを崩しかけた。何というか、スケート靴を履いた時のような感覚。
つまり想定外に視点が高い。
病室に備え付けの洗面台まで捕まり立ち気味に移動する。
「一応、俺の範疇か……」
鏡を覗いた感想がそれだ。記憶の中の自分より背が伸び、やや筋肉質になっている。
顔立ちも、パーツの配置などに面影はあるが、なんというか、無駄なポリゴンを削ってスマートな顔立ちにした感じ。
取り敢えず壁にかかっている制服のブレザーと思しきものからスマホを取り出す。
「(えっと……3月15日)」
自分の記憶では、10月半ばであったはず。
続いてパスワードを入力。外れ。思いつきで生年月日を入れてみる。成功。
変えた覚えは無かったのだが……
さて、喉が渇いたが金がない。足元がおぼつかないのに歩き回るのも気が引ける。
どうしたものかと考えている最中、カーテンがシャーッと開けられる。
看護師だ。
「意識が回復したのですね、薄野 満月さん。保護者に連絡しておきます」
「ありがとうございます」
軽く会釈。
「続いて、軽い検査を行います。速記診察」
「なっ!?」
その光景にはこちらを絶句させる破壊力があった。
彼女の背中から白衣の人型が生えた。それは手に持ったペンで空中に輪を描きそれを輪投げよろしく俺にかける。上から下までストーンと落ち、そして手元のカルテに何かを書き上げている。
「意識問題なし、負傷は完治。肉体的に問題はなさそうですね」
よくみると、その人型の持つカルテには、CTスキャンのような画像まで表示されていた。
「それでは、ゆっくり休んでください」
そう言って看護師は退室した。
「……………」
ボフッと黙ってベッドに倒れ込む。
「え、何?幽波紋?」
苦笑いが漏れる。というか笑うしか無かった。
結論、どうやら俺は、異世界に迷い込んだらしい。
お読みいただきありがとうございました。