第十八話 布石も伏せ札も使えなきゃ意味がない
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第一試合の対戦カードは事前に明かされている。
「えーっと相手は……手遊 鼯、土木 鋼地、蓬田 兎月だってさ」
「えーっと、どんな能力かわかるっけ?」
「別のクラスだからわかりませんね」
「そっか……」
対してこちらは能力が知られていてもおかしくない状況。情報アドバンテージはあっちにあるようだ。一定の対策は考えられていると考えるべきだろう。
軽く作戦会議。
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「てなわけで第一試合。ルールは簡単。持ち歩ける程度のものなら何持ち込んでもOK。仮想世界みたいなもんだから銃刀法に引っかかるようなものも持ち込めるし、死んでもリアルの肉体に影響はないぜ!」
「誰に言ってるの?緊張でとち狂った?」
「数十分前までトイレ篭ってたくせに」
「だから空いてなかったんだって。さっき行ったけど」
にしても……
「ステージは白い石造りの台で正方形。場外ありって天下一武道会かな?」
「なにそれ」
「気にするな」
うん、我ながら迂闊が過ぎる。
「というか、相手が入場してきてるんだから緊張感持ちなよ……」
白梅に言われて見ると、がっしりした体格の男が一人、真っ赤な髪の胴体の膨らんだ男が一人。灰色の髪の細身の少女が一人。
赤髪の男が後衛、残りは前衛と言った体制。
こちらは燕と俺が前衛、白梅が後衛という体制。
そして、開始のゴングが鳴る
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「隻眼龍神!!」
燕が叫び、黒龍と暗雲を展開し始めると同時、敵方からナイフが飛んでくる。
彼女の能力は、天候関係全般に通ずるため、応用性が高い。しかし、黒雲を事前に展開する必要があるため、初動が遅い。そこを狙われた形だ。
まあ、それは燕も想定内。持ち込んだ刀で、それを弾こうとする。
しかし、
「っ!?」
そのナイフは刀に弾かれる寸前に軌道を変えた。
「あっぶねぇ!」
満月は持ち込んだ金属製の棒を突き込んでこれをなんとか叩き落とすも、無防備な脇腹を晒してしまう。
相手とて、そこを見逃すようなヘマはしない。
「月届跳躍!!」
兎月の足に銀の光が宿り、そのまま彼女は地面を蹴る。弾丸のような飛び蹴りを、薄野は引き戻した棒でなんとか受ける。
「ふっ!!」
靴底をすり減らしつつもなんとか防ぎ、カチ上げる。そのまま着地際を狙うつもりだったが、兎月は空を蹴り方向転換。体を捻りそのまま空中に着地すると、顎狙いの蹴りを放つ。
「ぐっ!」
不意を突かれたのもあって、軽く吹き飛ばされた薄野は、背中から倒れ込む。そこに空中走行の後、ドロップキックを仕掛けようとする兎月。
薄野は受け身の体制から腕で肩からしたの体全体を跳ね上げ、迎撃。生まれた隙をついて体を転がし、距離を取る。
「はぁ、はぁ……」
「やるね、薄野くんだっけ?」
兎月がニカリと笑うのを見て、冗談じゃねぇと内心毒づく。
「(彼女の能力は、恐らく脚力強化と空中歩行。場外狙いは不可能か……)」
奴は場外に足を付かず、空中を歩いて戻ってくるであろうから。
「(速度では勝てず、機動力にも劣る。能力では防御はできるが反撃できない。というかなるべく温存したい)」
唯一の救いは、このフィールドが三次元的な移動を要求されない場であることくらいだろうか。
「(勝てるかな、コレ)」
やや不安になりつつ、薄野は棒を握り直す。
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「ふむ、ここで仕留めきれなかったのはやや痛いな……」
土木が呟くのを聞いて、私は苦笑いする。
「正直死ぬかと思いました」
「ああ、こちらとしても取ったと思った」
そんな会話をしながら、霧を放つ。
「ここまで彼が動けるとは思わなかったよ」
そう言って土木は格闘戦を繰り広げる満月と蓬田さんの方へ目をやる。
視線がつられかけるのを押し殺し、土木の頭すれすれを通って飛んできたナイフを弾く。
「ふむ、これでもダメですか……」
クルクル回って飛んで行くナイフを見て、後ろの赤髪の男が胡散臭い雰囲気で笑う。その背後には、たまに乗った道化師の幽象が、彼の手には新たな計8本のナイフが……
「やりなさい、『投具詐芸』」
放たれるナイフはそれぞれ異なる軌道を描きながら、私に迫る。
「『単機工事』!!」
絶叫と共に、目の前の男が金属塊を纏う。それはどこかショベルカーに似たフォルムだった。
彼の右手のショベルが振り抜かれる。受けるのは悪手と判断し、後ろに飛んで回避。
「『迅雷』!」
牽制がてら黒雲から雷を放つが、奴はシャベルを前に突き出し、切り離すことで、避雷針とアースの役割を担わせ、防いでのけた。
同時、どこからともなく飛来したナイフに右肩を刺される。
「くっ!?」
見ると赤髪のが投げた8本のナイフはまだこちらに飛んでいる。
じゃあこのナイフは?
考える間にもナイフが迫る。
弾こうにも体勢が崩れて、右腕が使い物にならなくなっている。
「『超越配達!!』」
白い小人たちが現れ、ナイフと共に転移しなければ、私はハリネズミになってリタイアしていただろう。
「ごめんなさい、助かったわ」
「大丈夫。でもこちらの手札もバレたよ?」
小人たちに地面に置かせたナイフを回収しながら。白梅さんは言う。
「ちなみにこのナイフ、どう飛んできたかわかる?」
右肩を示しながら言うと、白梅さんは
「柳葉ちゃんが弾いたのが急に戻ってきてた。ごめん、間に合わなくて」
と返した。
「いいえ、ありがとう」
とだけ言って相手に向き直る。
赤髪に視線をやると、彼は攻撃体勢を取った。
「ふむ、ならばコイツはどうでしょう」
今度は本人もナイフを握っている。合計16本。普段でも捌くのに苦労する。挙句今回は右手が潰れている。
彼の能力は恐らく投げたものの軌道の操作。地面につくか、掴まれるかすれば、効果は切れるといったところでしょう。でなければ、私の右肩に刺さったままのナイフを操作して、さっさと私を倒すだろうから。
さっさと倒したいところだけれど、冷静かつ、一撃の重いタンクが前衛に。いつのまにか切り離したシャベルを再接続し、クルマをスクラップにするようなアームへと変形させて襲いかかってきた。
「『風雹』!!」
取り敢えず氷の礫で弾幕を張り、ナイフの迎撃と土木への牽制を行う。
とはいえこれではジリ貧だ。なぜなら前衛は弾幕を意に返さず突っ込んでくるから。
「(打開策は……あるといいのだけれど…)」
我ながら弱気で情けなくなってきた。さあ、どう崩す。どうやったら崩れる。
そんなことを考えつつ、取り敢えず回避に徹した。
投具詐芸
所有者 手遊 鼯
象
赤髪の道化
破壊力 D 速度 B 射程 C 持続力 C
精密操作性 B 成長性 D
触れた物体を一定時間、自在に操る能力。操れるものは片手で投げられる物品に限られ、重さに反比例して射程が落ちる。また、扱っているものが地面に落ちたり、捕らえられたりすると能力が解除される。




