第十六話 兄妹なぞ所詮は血が繋がっているだけの他人
興味を持っていただきありがとうございます。
「あの、その娘は私の連れなわけですが、何をしていらっしゃるどちら様ですか?」
こんな事態に出会すのは初めてなため、変な口調になった。
「ん?鶯のお友達かい?」
その白髪のイケメンはこちらを見た。一瞬で人当たりのいい表情を作ったのがわかる。
うっわ、関わりたくねぇ……
「僕は白梅 路便という。鶯がいつもご迷惑をおかけしています」
「はあ、どうも。僕は薄野と言います」
「いや、どうして、なかなかの好青年じゃないか。お前にはもったいないね、鶯」
「………………………」
政治家の選挙ポスターみたいな面にやや気圧されつつ、会話を続ける。なんかイラッとする話し方だな……
「ときに薄野くん、鶯と新人戦に出るって言うのは本当かい?」
「兄さん、それは……」
「それがどうかしましたか?」
やや焦るように止めようとする白梅に重ねるように言うと、想定外の言葉が帰ってきた。
「やめておいた方がいいよ?多分こいつ君達の足を引っ張るだろうから」
「……………」
「人の手柄で自分の評価を上げようなんて狡っからいよね、全く」
不安そうな白梅、薄っぺらい笑顔のその兄。
ああ、違和感が不快感として実体化した。こいつ、白梅 鶯に付随する全てを見下しているかのような気配がある。たぶん、ずっとこうして来たのだろう。
「最近無駄に色々やってたらしいけど、どうにもならないのにね」
「っ……」
びくりと震える白梅。はい、一旦思考を完全停止。外界に対する感度を鈍らせ、呼吸に全集中。ちなみに鬼は斬れない。
「ふぅーーーー」
ため息長く息を吐いて怒りをごまかす。流石に人目のある所で殴りかかるのはマズい。
まあ、それでも、イラッとしたので、一般論という名の決め付けで殴ろうと思う。
「っ、なんだね?」
しばらく目を覗き込むと、やや後退りしつつ露便とやらは問いかけて来た。待ち構えていた言葉ではあるが、それを悟らせず、何でもないように、こう口にする。
「いや、何を怖がっているのかなーーって」
「は?」
「いやぁ、過剰に他人を扱き下ろす人間って奴は往々にして、自分の内面に潜む恐れなどを誤魔化すためにそういう対応をするっていうのが通説じゃないですか」
まあ、そんな通説があるかは知らないが言うだけならタダである。何より、他人にそう認識されたというだけでコイツにとっては屈辱だ。
「虫などの警戒色とかみたいなものですよ。狼の皮被った羊みたいな」
「お前っ!」
「どうしました?営業妨害になる前に済ませたいのですが」
一応店内であることを再提示すると、言いたいことはありそうだが、一旦心を落ち着けたようだ。
丁寧な口調で、直接的な表現を用いず、不快感を与え、追求も世間体を盾にとって切る。比較的得意技だが、我ながら何処で役立つのやら。
「で?結局何が言いたいのだね?」
「うーん。今一番言いたいことは、そこを退いてくれ、ですかね?トイレ行きたかったんですよ」
そう言ってとぼけると、相手は笑みを浮かべながらこう言った。
「臆病者」
「生憎と未来視能力は持ち合わせがなく。貴方と同様にね?」
そう思われるのも想定内だがやっぱりイラつくなぁ。してやったりと思えば満足する人間だろうからあえて強気な発言はやめたわけだが。
「面白いね、君」
「どうも」
不快ではあるがまあいい。
「まあ、楽しみにしてるよ」
それだけいい残して彼は去っていった。
「……………」
「……………」
会計の音を聞きながら二人黙り込む。
「何を、考えてるの?」
「何も考えてない」
「茶化さないで!」
「うんごめん」
素直に謝ると、少し面食らったようで、その後落ち着く白梅。
「というか、なんで兄さんに喧嘩売るような真似したの?性格はともかくかなり優秀な空間系能力者だよ?」
「まあ、暗殺とかさせたらすごいだろうなとは思う。だけど」
呆れさせるくらいで上等。出来る限り堂々と、少し馬鹿見えるくらいに見栄を切る。
「ムシャクシャしてやった。反省も後悔もしていない!」
「あんたバカァ?」
「そのネタこっちにもあるのな」
「え?」
「え?」
「……………………………」
これがジェネレーションギャップというやつだろうか。違うな。ワールドラインギャップ?語呂が微妙だけど。
まあ、それはともかく。
「まあ、お前が頑張ってたのは知ってるからな。戦いの舞台にまで上がることを否定されるいわれはないだろう。騙すような真似して勝負の舞台に上げられた分はチャラにしとく」
「っ!バレてたの?」
「ごめん、今のはほぼ確信って状態での鎌かけだ」
「酷い!とは言えないね、私は」
「おお、引っかかるかと思って切り返す準備してたんだが……」
「性格悪いね」
「何を今更」
戯けた風にそう言って、数秒の沈黙の後、笑みを浮かべ、無責任に口にする。
「大丈夫。俺が見るに勝ちの目は十分だ」
能力は然程知られておらず、そして道具持ち込み可能なルール。まるでこいつのためにあるかのようだ。
「露払いくらいはしてやる」
とまあ、適当ぶっこいたものの、白梅が俯いて黙ったままなのが少し気になる。少し不安になって彼女に悟られないよう顔を覗き込む。
「…………」
顔を赤らめてらっしゃった。
途端に今までの言動が思い出され、気まずくなる。
「んじゃあ、俺トイレ行くから……」
「う、うん」
さっさとトイレに逃げ込み、個室の便座に座り、頭を抱える。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
自分の言動に思わず小さく叫ぶ。
馬鹿じゃねぇの!?馬鹿じゃねぇの!?こういうのは主人公の仕事だろ?本来登場しないやつのやることじゃない。というかなんだよあのテンション。痛い通り越して気持ち悪いわ。
「頼むから早く代わってくれ」
思わずそう呟く。お前がいないから俺がやる羽目になる。このままだと羞恥で死ぬ。
まあ、先に立たないからこその後悔。覆水は盆に返らず、要は後の祭りである。うん、我ながらくどい。
この個室に骨を埋めたいというくらいの気分になったが、まあ、いつまでもトイレを占拠するのは迷惑なのでトイレを出て席に戻る。
白梅はややぎこちないが、比較的普段通り。柳葉が俺の顔を見て言う。
「ずいぶん長かった上に暗い顔ね。切れた?」
「切れてないよ!」
まあ、こっちの世界にボ○ギノールがあるのかは少し気になるが……
「で?目的は果たせた?」
「まあ、な」
見透かしたように言ってくれる。中身は違うってのに。この肉体に特攻でも持ってんのか?
まあ、やらかした以上責任は持つ。幸い彼女達はメインキャラ。一人モブが混じってようがいいところまで行くだろう。
やり直したくてもやり直せないので、満月は考えるのをやめた。




