第十五話 人生は基本的には消去法
興味を持っていただきありがとうございます。
今日は日曜。例によって白梅、柳葉と3人で私立体育館で訓練をしていた。
さて、今の俺には訓練と同時並行でやらなければならないことがある。すなわち、
「(なんで白梅は誤解を生むような発言をしたのか)」
先日疑惑が発生はしたものの、今のところ俺は、新人戦に出る気でいる。途中棄権するのも面倒なので。だが、出るのは出るとして白梅の真意を探りたい。俺の思い過ごしないし被害妄想ならばまだいいのだが、不利益被るような状況に知らず知らずのうちに巻き込まれているというのは避けたい。
ちなみにギスギスしてもアレなうえ、確定情報でもないため、疑惑については燕には黙っている。
「(というかこんなに他人のこと気にするの久々だな。まさか、これが恋!?…………アホくさ)」
一人ボケ一人ツッコミ兼批評という自産自消をかましたあたりでアナウンス。12時を知らせる内容だ。
「いい時間だしお昼行こうか」
「ええ、そうしましょう」
今日は近くのレストランで昼食を取ることになっている。
取り敢えず建物内でシャワーを浴び、着替えたあたりで20分程度経過である。
「お待たせ、満月」
「まあ、覚悟していたほどではなかったよ」
そんな会話をしつつ立ち上がり、ファミレスへ向かう。
入ったのは、安価で美味しいイタリアンなファミレスチェーン。
「(並行世界における見知った店が、なんと安心感を与えることか……)」
そんなことを内心思いつつ店の扉を開く。テーブル席に案内され、メニューを開く。注文を終えると柳葉が言った。
「満月は毎回チョリソー頼むわね……。たまには他の食べようと思わないの?」
「味が保証されてるもの食う方が合理的だろうが。冒険して口に合わなかったらテンション下がるだろ?」
「そういえば差し入れしたドーナツ。ポンデとオールドファッションしか食べてなかったね、薄野くんは」
「心配するな。フランス風のクルーラーも食べた」
「心配はしてない」
そんな会話をしている間に料理が来たので、しばし黙ってぱくつく。
「そういえば、なんで白梅は出ようと思ったんだ?」
「え?あ、うん、そうだね」
不意打ち気味に質問を投げると、白梅は面食らったような表情で、返した。
「頼まれたなら断って握り潰すって選択肢もあっただろうに」
「その……」
困った様子で言い淀む。はあ、嘘がつけないタイプだな。好感は持てるが生き難いだろうに。そんなところで助け船を出す。まあ、罠付きではあるが。
「断れない相手から頼まれたのか?例えば先生とかから」
「うん、そう!そうなんだよ」
はいビンゴ。溺れるものは藁をも掴む。ならば助け船の吟味なんかせず飛びつくだろうさ。ああ、ヒトを罠に嵌めるのは楽しい。三平方のスイッチじみた楽しさがある。
表情に笑みが出ないように気をつけつつ、そいつは災難だったなと言っておく。
「決まったことに後からぐちぐち言うものではないわよ、満月。そんなんだから友達出来ないのよ」
「なんでそこまで言われにゃならん。俺の友達の少なさの原因は社交性の低さが問題だ」
「自覚あるんだ!」
「出来なさではなく少なさと言い換えるあたりが涙ぐましいわね」
と言ったところで白梅が席を立つ。
「トイレかな?」
「デリカシー」
離れていく背中を見ながら呟くと、燕に窘められた。
「仕方ないだろう。独り言を拾われると思わなかったんだから」
「独り言だとしても口にするべきではないと思うのだけれど。それにしても、随分と問い詰めていたわね」
「そうか?」
「それはわかっていてとぼけているときの顔ね、満月」
「お前は俺のなんなんだよ?」
「幼馴染」
「そうだったよ」
馬鹿な会話をしたあたりで尿意を催した。他人が行くと意識させられるからだろうか、などと考えながら席を立つ。
「トイレかしら?」
「デリカシー」
「満月だから大丈夫」
「どういうことだよ」
言いつつ店の奥へ。
そして、
「帰ってこねぇなーと思ったら……」
白髪の男に絡まれている白梅の姿がそこにはあった。
『超越配達』(ハイパーデリバリー)
所有者 白梅 鶯
象
白地にバーコード模様の服を着た小さな10人の少女。纒装は不可。それぞれにパーソナリティがある模様。
破壊力 — 速度 A 射程 B 持続力 E
精密操作性 B 成長性 C
オールレンジ能力主体型の群体がアバター。「可視圏内あるいは半径30メートル以内の指定座標へと、指定時間に物体を送りつける能力」を持つ。指定方法は、指定時間を、書いた紙を貼り付けるないし直接書く。一応重量制限はあり、『デリバリー』と称される小人一体ごとに、5キログラムの物を運べ、力を合わせれば合計される。生物は配送不可。貼り付けた瞬間送られるため、途中変更できない。配送中はこの世から物体の存在が消える等の特徴がある。




