表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダブルビジョン  作者: 深瀬優賀
Double World(ダブる世界)
12/32

第十一話 ピンチにならなきゃ目覚めない能力は、目覚めるのと目覚めないの、どちらが幸せなのか……

興味を持っていただきありがとうございます

あの貝殻はテロリスト集団。『星の切開』の幹部の一人の能力。弱らせた生物を中に閉じ込め、持ち運べる。という能力。ざっくり言えば、モンスターボールだ。


そして、アレは恐らく最終手段として持たされたもの。


つまり、丸ごと薙ぎ払って証拠隠滅を行うという用途だろう。


中から這い出てきたのは多頭の蛇。


「厄災級魔獣。TYPE-ヒュドラ」


厄災級とは都市破壊レベルの魔獣を示す。

TYPE-ヒュドラは多頭竜(蛇含む)全般を示す種別。


「cohooooooooooooooo」


奴の吐息で、金網が石化、そのまま砂になる。


「よりにもよってカースヒュドラかよ!?」


ヒュドラの中でも石化のブレスを使用するものをそう呼ぶ。三頭でも十分やばい類いである。


「刺激せずに逃げたいところだけど……私たちは捕捉されてるね」

「ピット器官のバカ野郎」


取り敢えず白梅が放送室に入り、避難を呼びかける。


階段を見ると、避難すべくクラスメイトが降りて来るのがわかった。職員室に倒れている教師は……運べそうにないかもしれない。


「どうする?校舎燃やしてフレア代わりにするか?」

「そんな余裕ないでしょ!?」


そう言いつつ燕は校庭に出ようとする。


「何よ?」


反射的に手が出ていた。彼女の左手首を、俺は掴んでいた。


「……勇気と蛮勇は違うぞ?」

「わかってる。でも、足止めできそうなの私くらいじゃない」


頭が多いとは言え、変温動物。彼女の能力であれば、多少の足止めは出来るかもしれない。だが、ほぼ確実に、彼女は死ぬ。


「一を切って十を救えれば上々。何かを得るには何かを捨てる。基本でしょう?」

「………………」


黙って手を離す。返す言葉がなかったからだ。


「じゃあ、行ってくる」


そう言いつつ彼女の姿が変わる。黒いその髪は後頭部で一つにまとめられ、服装は黒と赤を基調とした甲冑に。腰には一本の刀履いて、片目が紅く変色していた。


「『纒装』か……」


一部の幽象(アバター)のみが行える、外装化。肉体と魂のズレをなくし、思ったように、願ったように能力を使う技術。


欠点は燃費が悪いことだろうか。


腰の刀に手をやり、腰を少し落とし、抜刀術の構えをとる。


一刀の元に切り伏せるつもりだ。


「抜かば玉散る三尺の氷刃」


鯉口が切られ、霜が降りる。蛇の目が彼女を捕らえた。


「邪を退け、妖を治め」


奴らが頭を束ね、口を開く。死の光が見える。数瞬、間に合わない。



「(また失うのか?)」



そんな声が聞こえた。世界から色が消える。やたらと時間がゆっくり流れる中、俺は何を考えるまでもなく手を伸ばした。


荒れ狂うのは衝動。人の縄張りを侵す奴に、それ相応の報いをくれてやれ!!




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「邪を退け、妖を治め」


自分でも気づいていた。間に合わないことくらい。だが、自分に意識が向いている間は、避難しているクラスメイトに攻撃は向かない。ならば私としては上々だ。


「(満月は逃げてくれたかな?)」


もしそうなら、誇らしいけど少し寂しい


光が迫る。死が近いのがわかる。それでも私は不完全な技のまま刀を抜こうとして、



透明な壁にそれを阻まれた。


透明拒絶(クリアリジェクト)


小さくそんな声が聞こえた。


目の前まで石化の煙はやってきた。でも、それは私に触れることはない。


近くで何発か爆発が起こる。これは、白梅さんの能力だろうか。煙が攪拌され、晴れていく。


煙が消えると同時こんな声が響いた。


「やれ!!燕!!」


その言葉に背を押されつつ、私は続く言葉を紡ぐ。


「炎を切り裂き道を開け」


奴が口を開けるが、もう遅い。


万感の思いを込めて叫ぶ。


「走れ、『村雨』!!」


抜刀



滝沢馬琴によって生み出された架空の妖刀。それに準えた一刀は、豪雨を重力と直角に叩きつけるが如き水の奔流と、一瞬遅れての石をも斬り裂きそうな凍気を放った。


頭、体の前面、尾までをを氷に覆われたカースヒュドラは、変温動物らしく、機能を停止した。


サイレンの音が響く。


「遅いよ……」


疲れから来る苛立ちも相まって、燕はそう呟いた。

お読みいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ