第十一話 ピンチにならなきゃ目覚めない能力は、目覚めるのと目覚めないの、どちらが幸せなのか……
興味を持っていただきありがとうございます
あの貝殻はテロリスト集団。『星の切開』の幹部の一人の能力。弱らせた生物を中に閉じ込め、持ち運べる。という能力。ざっくり言えば、モンスターボールだ。
そして、アレは恐らく最終手段として持たされたもの。
つまり、丸ごと薙ぎ払って証拠隠滅を行うという用途だろう。
中から這い出てきたのは多頭の蛇。
「厄災級魔獣。TYPE-ヒュドラ」
厄災級とは都市破壊レベルの魔獣を示す。
TYPE-ヒュドラは多頭竜(蛇含む)全般を示す種別。
「cohooooooooooooooo」
奴の吐息で、金網が石化、そのまま砂になる。
「よりにもよってカースヒュドラかよ!?」
ヒュドラの中でも石化のブレスを使用するものをそう呼ぶ。三頭でも十分やばい類いである。
「刺激せずに逃げたいところだけど……私たちは捕捉されてるね」
「ピット器官のバカ野郎」
取り敢えず白梅が放送室に入り、避難を呼びかける。
階段を見ると、避難すべくクラスメイトが降りて来るのがわかった。職員室に倒れている教師は……運べそうにないかもしれない。
「どうする?校舎燃やしてフレア代わりにするか?」
「そんな余裕ないでしょ!?」
そう言いつつ燕は校庭に出ようとする。
「何よ?」
反射的に手が出ていた。彼女の左手首を、俺は掴んでいた。
「……勇気と蛮勇は違うぞ?」
「わかってる。でも、足止めできそうなの私くらいじゃない」
頭が多いとは言え、変温動物。彼女の能力であれば、多少の足止めは出来るかもしれない。だが、ほぼ確実に、彼女は死ぬ。
「一を切って十を救えれば上々。何かを得るには何かを捨てる。基本でしょう?」
「………………」
黙って手を離す。返す言葉がなかったからだ。
「じゃあ、行ってくる」
そう言いつつ彼女の姿が変わる。黒いその髪は後頭部で一つにまとめられ、服装は黒と赤を基調とした甲冑に。腰には一本の刀履いて、片目が紅く変色していた。
「『纒装』か……」
一部の幽象のみが行える、外装化。肉体と魂のズレをなくし、思ったように、願ったように能力を使う技術。
欠点は燃費が悪いことだろうか。
腰の刀に手をやり、腰を少し落とし、抜刀術の構えをとる。
一刀の元に切り伏せるつもりだ。
「抜かば玉散る三尺の氷刃」
鯉口が切られ、霜が降りる。蛇の目が彼女を捕らえた。
「邪を退け、妖を治め」
奴らが頭を束ね、口を開く。死の光が見える。数瞬、間に合わない。
「(また失うのか?)」
そんな声が聞こえた。世界から色が消える。やたらと時間がゆっくり流れる中、俺は何を考えるまでもなく手を伸ばした。
荒れ狂うのは衝動。人の縄張りを侵す奴に、それ相応の報いをくれてやれ!!
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「邪を退け、妖を治め」
自分でも気づいていた。間に合わないことくらい。だが、自分に意識が向いている間は、避難しているクラスメイトに攻撃は向かない。ならば私としては上々だ。
「(満月は逃げてくれたかな?)」
もしそうなら、誇らしいけど少し寂しい
光が迫る。死が近いのがわかる。それでも私は不完全な技のまま刀を抜こうとして、
透明な壁にそれを阻まれた。
「透明拒絶」
小さくそんな声が聞こえた。
目の前まで石化の煙はやってきた。でも、それは私に触れることはない。
近くで何発か爆発が起こる。これは、白梅さんの能力だろうか。煙が攪拌され、晴れていく。
煙が消えると同時こんな声が響いた。
「やれ!!燕!!」
その言葉に背を押されつつ、私は続く言葉を紡ぐ。
「炎を切り裂き道を開け」
奴が口を開けるが、もう遅い。
万感の思いを込めて叫ぶ。
「走れ、『村雨』!!」
抜刀
滝沢馬琴によって生み出された架空の妖刀。それに準えた一刀は、豪雨を重力と直角に叩きつけるが如き水の奔流と、一瞬遅れての石をも斬り裂きそうな凍気を放った。
頭、体の前面、尾までをを氷に覆われたカースヒュドラは、変温動物らしく、機能を停止した。
サイレンの音が響く。
「遅いよ……」
疲れから来る苛立ちも相まって、燕はそう呟いた。
お読みいただきありがとうございました




