第十話 毎回「しめた今だ!」ってやるのはどうかと思うけど、チャンスをちゃんと活かせるってすごいよね
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毎回「しめた今だ!」ってやるのはどうかと思うけど、チャンスをちゃんと活かせるってすごいよね
白梅鶯は待っていた。その瞬間を。能力無効化フィールドが一瞬でも途切れる瞬間を。
彼女の能力は、座標、時間を示す紙を貼り付ける事で、対象を転移させるというもの。
机の中でもその用意は可能だ。
机の中で、最近持ち歩くようにした付箋に座標を示す文字を書き、消しゴムにそれを貼り付け、能力を発動させる文言を脳内で連呼する。
気の遠くなるような時間ではあったが、それは遂にやってきた。
手の中から消しゴムが消える。
「来た!」
小さく歓喜の声を上げると同時、机をもちあげ、テロリスト目掛けてぶん投げた。
「ぬおっ!?」
男は慌てて回避行動を取る。その間に全力で距離を詰める。
「死ねっ!!」
復帰したテロリストがこちらに銃を向ける。
周囲から悲鳴が上がる。
しかし、弾丸は発射されなかった。
それもそのはず。白梅が消しゴムを転移させた先は、銃の初弾と撃鉄の間だったのだから。
「なっ!?」
驚いた様子のテロリストに飛び蹴りを放ち吹き飛ばす。銃を取り落とした相手を踏みつけ、叫ぶ。
「拘束するから誰か手伝って!!」
その声に弾かれたように何人かが動く。
火災報知器の音が鳴り響く中、テロリストがガムテープでぐるぐる巻きにされるまで、然程の時間はかからなかった。
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「チッ!面倒な……」
「フハハ、顔に出る辺りまだまだ青いのう」
「そうだぞ燕、あと舌打ちなんてお下品ざますよ?」
「あれ?なんで私フレンドリーファイアされてるの?あとその語尾やめて」
相手の幽象は首から下げるベルトの付いた、キーボードの象をとっている。
鍵盤が叩かれるたび、不可視の斬撃が飛んできたり、大音量でスタンさせられたりする。
挙句デフォルトが幽象の使用禁止なわけで、正直なところ決定打がない。
隙をついて放つ弾丸は音の防壁で防がれ、燕に至っては近づけないまま防御に手一杯だ。
挙句、攻撃のタイミング以外は能力使用不可に追い込まれる始末。
このままでは、弾切れをおこして押し切られるだろう。
ならば、賭けに出るならば早い方がいい。
「燕、幽象を使え」
銃をフルオートに切り替えつつ、そう声をかける。
「できれば一撃ですっ飛ばせるのを頼む」
「任せなさい」
それでは
「全力掃射」
「隻眼龍神!!」
黒雲を背負う黒龍が展開されるのを視界の端に捉えつつ、銃のトリガーを引きっぱなしにし、弾丸を延々と吐き出す。弾が切れれば即刻ファストリロード。出来る限り隙間なく射撃を続ける。
「グオオオオオオオ!!」
髭のテロリストは叫びながら、音の防壁を張り続ける。
「(やはり鍵盤の同時押しは出来ないらしい)」
混ざって別物になるのか、不協和を起こして阻害し合うのかは不明だが、俺が撃っている間は能力封印は無い。それだけ分かれば上々である。
用意が出来るのを見計らって声をかける。
「あと5秒保つかどうかだ」
「早すぎるわ。少し情けないわよ?」
「うん、字面だけだとなんか凄く悲しい……」
「『迅雷』!!」
レーザービームのような紫電が放たれる。
床が砕け、砂煙が上がり、相手の姿を覆い隠す。
「やった?」
「それやってない奴!?」
煙が揺らいだのを見て、二人揃って跳んで回避。
焦ったため、体制を崩す。
「ぐえっ!?」
そして、のしかかられた。
「来るな!!」
馬乗りになり、俺の額に拳銃を突きつけた男が、燕に叫ぶ。
「少しでも怪しい真似したらコイツを殺すぞ!!」
「くっ」
「殺せ」
「やめろシリアスだ!!」
茶化すと怒られた。
「いや、茶化したくもなるだろ?そのカードは切らないからこそ意味があるんだから。それくらいわかるよね?」
「黙れ!!」
叫ばれたので、一旦黙る。そして苦笑と共に続ける。
「にしても、油断したな……」
「ああ、中々いいところまで来たぞ?」
「ああ、こっちじゃねぇよ」
銃声。撃ち抜かれたのは、奴の背中だ。
体の力が抜け、男が振り返る。そこには誰もいない。
続いて、腕が撃ち抜かれた段でようやく気づく。
「お前……!?」
「弾切れとは言ったが、サブアームズがないとは言ってない」
種は簡単。ポケットから取り出した拳銃で撃ち抜いた。
最悪死んでもいいと思っての行為だったが、まあ、重畳。
相手を押し除け、ダクトテープで拘束と止血を行い、そこらに転がす。
「おー。終わったみたいだね」
背後の声に振り向くと、白髪の美少女がいた。
「おう、そっちもお疲れさん。テロリストの残りはいなさそう?」
「うん。名取君が全員闇討ちしてくれた」
「さすがは相棒枠」
「?」
「こちらの話だ」
キャラの能力とざっくりした扱いしか認識していないがな……
「さて、取り敢えずはこれで……」
カランカラン
人骨が転がるような音が響いた。
振り向くと、先ほどの髭のテロリストの懐から、シャコガイのような形をした掌サイズの貝殻が転がり落ちていた。
俺はアレを知っている。
「マズい、逃げろ燕!!」
「っ!!」
燕は比較的冷静に、校庭に向かって貝殻を蹴り出す。
そして、パンドラの箱が開いた。
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