第九話 音使いと糸使いは基本的に強キャラ
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「……お邪魔だった?」
「わかってて言ってる?」
「冗談だ。取り敢えず無事で良かったよ」
ギロリと睨まれたので内心気後れしつつ、表面上は普段通りを装う。
「まあ、来てくれなかったらこのまま犯されてただろうし」
何処か、声が震えているのに気づき、茶化すのは止める。俺にはわからない感覚ではあるが、かなり怖かったのだろうから。
「んじゃあ、取り敢えず……」
制服のポケットからダクトテープを取り出す。
床に刺さった男の足を拘束。腕も拘束。ピラミッドのミイラみたいな体勢にした上で、動けないようにしておく(床に刺さったままで)。
「すまん、柳葉少し———」
背後から抱きつかれたことで、言葉が止まる。
ベッドに座ったまま、背中に顔を埋めるようにして、彼女は言う。
「どうして、燕って呼んでくれなくなったの?」
「うん?あーーー……」
ミスに気づく。そりゃあ、名前呼びもしてた可能性もあるよな、幼馴染なんだから。
内心舌打ちしつつ俺は言い訳を口にする。
「あのだな……」
「やっぱり、あの日、私が満月を振ったから?」
「ん?」
雲行きが怪しくなって来たぞ?
「それで車に飛び込んで自殺「待て待て待て待て、一旦落ち着け」
腕を外し、正面から彼女の顔を見る。その目は涙に濡れていて、俺は状況が悪すぎると苦笑いする。
この『薄野満月』の死亡理由が失恋だとは……女々しい奴だったんだろうか?それが正しいかどうかは正直問題じゃない。
今の問題は彼女がそう認識していることだ。
少し躊躇。でも、これが一番手取り早いと考え、真正面から抱きしめる。
「……満月?」
「いいか?これだけは認識しておいてくれ、燕。お前は悪くない」
左耳に、囁きかけるような声で、脳を溶かすように、洗脳するくらいの気持ちで、お前は悪くないと繰り返す。
しばらくすると、涙声が元に戻り、落ち着いた様子。それを見計らって口にする。
「燕、頼みがある」
「何?」
「俺と共に、戦ってくれないか?」
手を差し出す。返答はなかった。でも彼女は迷いなくこちらの手を取った。
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「で?どこへカチ込むのかしら?」
移動中、そんな風に問われる。
「すまん、説明が遅れた」
「謝罪は受け入れるから疾く吐きなさい」
そんな会話をしつつ。説明を行う。
「ここで一つ問題だ。なんであいつら、銃なんて持ってるんだと思う?」
「幽象が使えないからでしょう?」
「正解。つまり、エリア内での能力発動を無差別に無効化するタイプだ」
さて、ここで問題です。
「能力無効化が始まる直前。何か変わった事はなかったか?」
「……あの音ね?」
「ああ、正解」
ニヤリと笑い、続ける。
「おそらく音を媒体としてのフィールドだ。それを展開するのに都合のいい場所が学校にはあるじゃないか」
そう言いつつ立ち止まる。目線を追って、柳葉は納得したように呟く。
「放送室」
「そういう事だ」
さて、と呟きつつ、俺はしゃがみ込む。
「何をするの?」
「ちょっと見ててね?」
保健室から持ってきた包帯をガラス製のカップにつめ、消毒用アルコールをドボドボ注ぎ、消毒用の脱脂綿に着火。
「白梅から聞いた話なんだが、この学校は基本的にスプリンクラーが配備されているのだが、いくつか例外があってな」
あいつは、新しい場所に来ると、まず地図を見て、設備等を確認すべく歩き回る癖があるらしい。
「その一つが放送室。ここでは炭酸ガスを噴霧する事で消火を行うらしい」
包帯から煙が出てくるのを眺めてニヤリと微笑む。
「失礼しまーす」
言いながら放送室の扉を開ける。
中でキーボードの特定の鍵盤を押しっぱなしにしている男と目が合う。
燃える包帯の入ったガラス容器を置き。
「失礼しましたーー」
と言って戸を閉める。ついでにダクトテープで扉を目張りして、距離を取る。
数秒後、火災報知機が鳴る。そのまた数秒後。高い音と共に扉が切り裂かれた。
「………なかなかやってくれるではないか」
ガラス容器を蹴っ飛ばしながら出てきたのは口髭を生やした男。片手にはキーボードをもち、ベルトを肩にかけて吊るしている。
「どうも、平穏のために死んでください」
「そんな子だったかしら、満月君。私少し悲しいわ?」
満月は銃を、燕はそこらで拾った角材を構えた。
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