第81話 アラドンの街西門での戦い 追いかける者たち
2020年5月23日、脱字を修正しました。
ヒヒーン! ヒヒーン!
暴れる馬。揺れる昇降機。落下する2頭の馬兵を、エイダン守備隊長は城壁の上から見ていた。
「おのれっ! 」
守備隊から新たに2人目の戦死者を出した「魔物」に、エイダン守備隊長は思わず呪詛を口に出す。
未だ火が消えず黒煙を上げている城門砲を他所に、「魔物」が馬車を曳きながらゆっくりと南に向かって行く。その後を追うように、兵士たちが城壁の上を移動していく。
「追えっ! 逃がすなっ! 城門を開けて追撃隊を出せっ! 地の果ての果てまで追いかけて“ヤツ”を倒すんだっ! 」
そう叫ぶのはナフタリ軍兵団長である。興奮のためか、目は血走り顔を赤くして喚くナフタリ軍兵団長を諌めたのは、エイダン守備隊長の副官のゴーガン少尉であった。
「お静まりください、軍兵団長殿。今追撃隊を出すべきではありません。」
静かに、しかししっかりとした声でナフタリ軍兵団長に声を掛ける。
「・・・っ!?」
「なっ・・・っ!? たかが少尉の分際で、無礼であろう、控えよ!」
意外にもそう叱りつけたのは、タルヤ大隊長であった。言われた本人であるナフタリ軍兵団長はゴーガン少尉を睨みながらも、黙ったままだ。
「だいたい、武器は何を装備させるのですか。相手は300メートル以上離れた距離から城壁の魔導防壁を打ち破る『魔物』ですよ? 普通の装備では、近づいていく間に皆殺しに会うだけです。」
ゴーガン少尉は静かにナフタリ軍兵団長を諌め続ける。
「こいつ、言わせておけば・・・。」
組織の序列を無視したもの言いに、タルヤ大隊長が腰の剣に手をかける。あわや鯉口を切ろうとした大隊長を止めたのは、ナフタリ軍兵団長本人であった。
「よせ、タルヤ大隊長、やめるんだ。・・・少尉の言い分が正しい・・・。」
「なんと・・・!」
タルヤ大隊長が驚きの表情でナフタリ軍兵団長を見る。生き馬の目を抜く王都の貴族社会に生まれ育った者が、素直に誤りを認めることなどありえない。だが、ナフタリ軍兵団長は目をつむり軽く天を仰ぎ大きく息を吸うと、先ほど喚いていたとは思えない位静かな瞳でゴーガン少尉を見た。
「少尉、よくぞ申してくれた。諫言耳に染みる。で、少尉には何か策があるのか?」
ナフタリ軍兵団長の頭が冷え、有能な軍人の目になったのを感じたのか、ゴーガン少尉は居ずまいを正しながら進言する。
「では、小官から意見具申を。今は、追撃ではなく、追跡部隊を編成すべきです。第14中隊は全員軽装で、1班(1班は5人編成で1小隊20人の4分の1。4班で1小隊。)程度の少人数で距離を置いて「魔物」を追撃します。」
その進言に、エイダン守備隊長が横から口を挟む。
「なぜ、追撃隊ではなく、追跡隊なのだ? 今のうちに“ヤツ”を倒さねばならんのだぞ!」
「どのみち中隊規模で“ヤツ”を倒せるとは小官には思えません。“ヤツ”の後をつけ、どこに向かうか動向を把握するに留めるべきです。」
ゴーガン少尉の説明は続く
「“ヤツ”を倒そうとするなら、2個大隊ほどをぶつける必要があると愚考します。第3、第4大隊を街に呼び戻し、大兵力を持って“ヤツ”を倒すのです。」
「2個大隊?! 少し大げさではないかね?」
と、こちらも落ち着き軍人の顔となったタルヤ大隊長が口を出す。
「たった今ご覧になったでしょう? “ヤツ”は城門砲の極大爆裂火炎に耐えた後、城壁の魔導防壁を打ち破るのですよ。5メートル級という、“ヤツ”の大きさに惑わされてはいけません。皇帝極大邪竜や黄金三ツ首竜を相手にするくらいの戦力が必要です。」
「少尉の言葉にも一理あるな。だが、それだけではあるまい?」
ナフタリ軍兵団長からの再度の問いに、
「“ヤツ”が『人型』である点を無視できません。もし、群れをなす“魔物”なら営巣地なりなんなりがあるはずです。単身なのか、群れなのか確かめることも必要です。そもそも『魔物』なのかどうかもわかりませんが。」
ゴーガン少尉はそう説明を締めくくった。
「うぅーむ・・・。確かに中隊程度で勝てる相手と侮っては返り討ちにあうだけか・・・。」
「軽装備の班多数で包囲し、“ヤツ”の射程外から動向を探るだけでいいのです。あんな“デカブツ”、500メートル先でも見つけられますって。」
「あんまり足は速くなさそうだしなぁ・・・。」
図らずも、西門城壁の上で「魔物対策会議」の様相を呈してきた。「魔物」を直接目にした高級士官が一堂に居るのである。代官に説明する前に情報と見解を交換し、ベストな対策に知恵を出し合う。
東方開拓という国家事業に携わる人材なのだ。マッテイ子爵やその派閥の貴族たちが、自分たちの権益を増やすために送り込んだ、生半可な才能や実力を持った連中ではない。役職以上の視野の広さを持つ者たちが、組織の対面などを気にもかけずに協力し合う、開拓の最前線の街ならではの光景がそこにはあった。(逆に言えば、体面などにこだわっていては生き残れないほど過酷な環境である、ということでもあるのだが。)
「よし、タルヤ大隊長、第14中隊の出撃用意を始めておいてくれ。私は代官様に事の次第を報告し、“ヤツ”を倒すことを具申してくる。」
「ナフタリ軍兵団長、小官もお供します。どのみち、城門砲や杭射出機を破壊されたことを報告しなければ・・・。」
情報の交換と対応策の検討が済んだら、各自でできることをやるだけである。アラドンの街は「魔物追跡」に向けて動こうとしていた。
(つづく)
【ごーれむ君一コマ劇場】
ソフィ「なんかヒロイン達も書きたいみたいに言ってたような・・・。」
作者「もちろんウソじゃないさ。でもね、タグの“おっさんばっかり”もウソではないのだよ。」
ロッタ「重々しいメカと可愛い女の子たちがキャッキャウフフする話を書きたいんじゃなかったのかよ・・・。」




