第67話 街へ続く道 その1
さて、時系列は少し遡る。
「彼」がティモ臨時偵察隊を撃退し、ヒャルマル兵士とオーサ兵士の2人がアラドンの街に向かって馬を走らせていた頃。
「彼」は取り逃がした敵の偵察隊員への警戒を止め、ミア達の乗る馬車を曳き、再び東に向かって街道を進み始めた。
(このまま街道を進んで良いのかい?)
「彼」の問いに、「彼」に搭載されている補助AI達が応える。
【どのみち、お嬢ちゃん達を馬車に乗せて移動するには、この街道を進むしか無いしなぁ。】
【弐号は壱号の分析を支持。】
【参号から。保護目標の居住集落が普人族の勢力範囲にあった可能性は低いと推測。むしろ普人族の勢力範囲より東側にあったと推測。このまま敵の都市近くまで東進することを提案。】
(都市近くまで進む理由は?)
【戦略街道は1万人級以上の都市間の物流需要を満たすために設置、運営される。そのような1万人級の都市は外壁を備え、門が少数であることから街への出入りが制限されるため、外壁に沿って管理用通路が設けられる。この通路は資材運搬のために馬車の通行を前提として設計されるため、本機が都市に入らず、かつ馬車を曳いたまま更に東方へ進むことが可能と推測。】
(それって都市防壁側から攻撃され放題ってコトだよね?)
【本機の出力ならば、魔導防壁により幌馬車を守りつつ移動することが可能と推測。】
補助AI参号からの回答は、不安要素はあるもののそれなりに納得できるものであった。
(いざとなったら幌馬車は捨てればいいか・・・)
【その場合、保護目標の野営が困難になると推測。極力幌馬車を保持することを提案。】
(へいへい。がんばりますよ。)
そんなことを考えつつ、「彼」は幌馬車を曳いていった。
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がたごと、がたごと。
「巨人」が幌馬車を曳いている。その、馬車を曳く後姿を、アレンカは幌馬車の御者台に座り見ていた。
この馬車には、アレンカを含め7人の女性が乗っている。皆、普人族の奴隷商人に住んでいた集落を襲われ、この見知らぬ土地までさらわれてきた。昨日偶然、「巨人」に助けてもらい、自由の身となった。
身の丈5メートルを超える「巨人」は、なぜか移動手段の無い彼女達を幌馬車に乗せ、馬もいないその馬車を楽々と曳いてここまで連れて来てくれたのである。
今朝の夜明け前、いきなり大声を出し始め、その際、「巨人」の名前が「ごーれむ君」ということが判ったのである。
今、彼女達の乗った幌馬車は広く立派な街道を東に進んでいる。彼女達をさらった奴隷商人の隊商は、昨日の朝早くこの街道の先にある大きな街を出発し、西に向かっていた。その隊商から、彼女達は逃げ出したのだ。
(このまま進んでいいのかしら・・・)
アレンカは不安そうに「巨人」の後姿を見る。「巨人」はつい先ほど、普人族と思われる者達をその右腕から火の玉を撃ち出して丸焼けにしたばかりである。このまま、あの大きな街に進んでも大丈夫なのだろうか?
「ねぇ、このまま進んでも大丈夫なの?」
アレンカの隣に座るカリナが、不安そうに呟いた。カリナの頭頂から生える、白がかった茶色いウサ耳がへにょりとしおれている。カリナもアレンカと同じウサ耳族の少女だった。御者台の上から通りすがりに見た丸焼けになった騎馬の姿を見て、すっかり怯えている。
「判らないわ・・・。でも巨人は私たちの面倒をみてくれるみたいよ。」
アレンカは巨人の後ろ姿を見ながら、自信なさげに答えた。
昨日出発した大きな街には見上げるような城壁があり、いくら巨人が
強いと言っても、城壁に守られた街より強いとは思えなかったのである。
だからと言って、この街道以外に今乗っている幌馬車が通れるような道はなく、この幌馬車を捨てて徒歩で故郷に帰れると思う程、アレンカは子供ではなかった。
(後ろに乗っている5人はどう考えているのだろう・・・)
この幌馬車は元はと云えば奴隷商人の隊商で使われていた、奴隷運搬用の荷馬車である。幌で覆われた荷台には奴隷を入れておくための檻があり、御者台と荷台で直接言葉を交わせるようには作られていない。荷台に乗っている者と話すには、一旦馬車を降りなければならなかった。
アレンカはガタゴトと揺れる馬車に身を揺られながら、動いていく景色を見るだけであった。
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1時間ほど馬車に揺られただろうか。突然、巨人は立ち止まり、馬車も止まった。
御者台に座っていたアレンカとカリナは慌てて周囲を見渡す。2人のウサ耳はピンと起ち、周囲の魔力を探っている。彼女達のウサ耳は、ある種の魔導センサーで、周囲の魔力を広範囲かつ高精度で探ることができた。
特に脅威となりそうな魔力は感じられない。目の前にいる巨人からも、特に魔力の高まりは感じなかった。
巨人が右足を半歩前に出し、アレンカ達に左半身をさらす半身となる。御者台に乗っていてなお見上げる高さにある、半球状の頭部が左を、つまりアレンカ達が座る御者台の方を向く。顔に横一文字に彫られた溝の中央で、ピンク色の一つ目がぐぽーぉん、と輝いた。
思わず身構える2人に、巨人が右手を真直ぐ前方に伸ばし指さす。まるで指さす方向を見ろ、と言わんばかりに。
御者台を降りた2人が巨人の足元で見たものは・・・。
威風堂々としたアラドンの街の城壁が、はるか向こうにうっすらと見えていた。
(つづく)
あとがき 【ネタバレ注意】
ごーれむ君「しばらく出番が無かったんですが・・・・」
作者「アラドンの街側の対応からタミク村までのエピソードがそれなりの量になったからねぇ。」
アレンカ達7人「女性キャラなんか出番なかったし。」
作者「いたよ。女性キャラ。タミク村のご婦人方3名。」
ごーれむ君「そーゆーのはいたって言わないのでは?」
作者「しばらくごーれむ君一行視点でいくつもりなので。」
一同「よろしくです!」




