第52話 偵察隊の帰還 その3
アラドンの街に向かっていたヒャルマル兵士とオーサ兵士は、自分たちに向かってくる2頭の馬兵を見ていた。旗指物はないが、近づいてくる馬兵はアラドンの街の守備隊からのお迎えだろう。こちらを警戒しているのか、2頭ともロングソードを抜刀している。
「警戒されているな・・・。」
背中に旗指物を付けたヒャルマル兵士が呟く。彼の背中にはアラドン駐留軍兵団旗がはためいているが、それだけで味方と油断するほど街の守備隊はお人好しではないらしい。
「出発して2時間も経たずに帰ってきたら、オレだって怪しいと思いますよ。」
並走しているオーサ兵士が応える。2人はもともと主街道の異常を確かめるために8名で出発した偵察隊のメンバーだ。日の出と共に出発した偵察隊が、2時間と経たずに2人だけ戻ってくれば、そりゃ怪しいだろう。味方だと言って信じる方がどうかしている。
「よし、このままのスピードで進むぞ。お迎えと合流だ。」
「了解です。」
2人は、馬を駆け足のままお迎えに向かう。程なく、お迎えの馬兵2頭と対峙する。
双方合わせて4頭の馬兵は10メートル程の距離で一旦立ち止まる。お迎え側から、
「こちらは、アラドン守備隊だ! 貴公の所属と要件は何か!?」
とお決まりの誰何が飛ぶ。古めかしい言い方だが、要するに『てめぇら、何モンだ!』である。
「自分達は、アラドンの街駐留軍兵団所属、ティモ臨時偵察隊のヒャルマル兵士以下2名であります! 偵察結果の至急伝であります! アラドンの街への通行願います!」
ヒャルマル兵士が、やはりお決まりの回答で応える。こちらは、『仲間だよ。急ぎなんだ。街まで行かせてもらうぜ、邪魔すんな。』である。
ヒャルマル達に見覚えがあったのだろう、お迎え側の2人が警戒を解いて剣を納める。
「お役目ご苦労様です! 自分たちもお供致します!」
と敬礼しつつヒャルマル達に道を譲る。そうして4人でアラドンの街に向かって走り出した。
「・・・何があったんです?」
お迎えの一人がおそるおそる聞いてくる。
「偵察結果は軍機密なので言えない。・・・すまない。」
苦い顔でヒャルマル兵士が応える。実際偵察結果を下っ端兵士に話してしまうと、そこからデマが飛び交って収集が付かなくなる。偵察結果をどの程度部下に伝えるかは上層部が決めることで、偵察隊のメンバーでしかないヒャルマル達が言えることはなかった。
「そうですよね・・・。こちらこそすみません。無理言いました。」
とお迎えの一人も引き下がる。
アラドンの街に近づいてみると、揚げられた跳ね橋のところに簡易橋が渡されていた。西門の北側の城壁からは昇降機も設置されており、そばに何人かの兵士が詰めている。
当初、偵察隊が帰還したときには西門を開く予定であったが、「戦闘中」を意味する赤一色旗を掲げて帰還したため、門は開けられないのだろう。
ヒャルマル達は、簡易橋を渡り、昇降機の近くで馬を降りる。
昇降機近くの兵士が2人の馬の轡をとり、馬を導いていく。
昇降機のそばの兵士がヒャルマル達に敬礼しつつ近づき、
「お疲れ様です。『ティモ臨時偵察隊隊員は至急、臨時本部に出頭、報告せよ。』とのことです。昇降機に乗ってください。自分が先導します。」
と、昇降機に乗る様にうながす。
兵士に先導され、ヒャルマル兵士とオーサ兵士が昇降機のゴンドラに乗り込む。先導するといった兵士が続いて乗り込み、
「いいぞ! 上げろ!」
と城壁の上に向かって怒鳴りながら手信号を送ると、3人の乗ったゴンドラは鎖を鳴らしながら上昇し始めた。
(やっと帰って来た・・・)
そう思いながら、オーサ兵士は城壁に沿って上昇している昇降機のゴンドラを見ていた。
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昇降機は人力クレーンの一種で、様々なタイプがある。今オーサが乗っている昇降機は組み立て式で、必要に応じてすぐ設営・撤収ができるようになっているタイプだ。
城壁の上で本体を組立て城壁の外側にゴンドラを設け、城壁の内外での人員や物資のやり取りに使用する。
ゴンドラは太い木の柱を辺として、底面に木の板を張った直方体をしており、意外と広く馬2頭を横に並べて乗せるだけの広さがある。昇降機本体とゴンドラは1本の太い鎖で繋がれており、人力で巻き上げ機を動かしてゴンドラを上下に動かすのだ。
門を閉じたからと言って街の外に出られないでは戦では都合が悪い。偵察隊やゲリラ部隊を出したり、街の外から補給を受けたりするのに昇降機はちょくちょく使われるのであった。(ただ、門を閉ざして立て籠る時点で戦略的には大変不利な状況であるのだが)
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身体強化魔法によりパワーの増した兵士たちによって動かされるゴンドラは思ったよりも早く城壁の上端まで揚がって行った。城壁上部に設置された本体と固定索でつなぎ、揺れないように固定したゴンドラに、城壁側から渡し板が掛けられる。
ヒャルマル兵士ら2人を先導する兵士が先にゴンドラから降り、2人が続いて降りる。城壁の上には大勢の兵士がいて、第2戦闘配備のはずが皆ヒャルマル達を見ていた。
「道を開けろ! 伝令だ! 道を開けろ!・・・」
先導の兵士が大声を上げながら城壁の内側階段に向かう。その後をヒャルマル兵士とオーサ兵士が続いていく。
城壁にいる兵士たちは、その後姿を不安そうに目で追うだけだった。
(つづく)
オーサ兵士「そう言えば、なんで至急”伝”なんです? ”電”じゃないんですか?」
ヒャルマル兵士「この世界に無線があるか、ばか。 ”伝”は伝令の伝だ。急ぎの伝令という意味だな。」




