第5話 襲撃、迎撃 その1
アレンカはただ成り行きを見ているしかできなかった。
自分たちと追手の間に「巨人」が立ち、少しのにらみ合いの後、追手が後ろに下がっていった。姿が見えなくなるまで下がったとき、アレンカは思わずホッと息をついたのだった。
恐怖の対象でしかなかった追手が見えなくなったことで安心したのか、アレンカは自分がミアと抱き合いながら地面にへたり込んでいるのに気付いた。余程怖かったのだろう、ミアは涙目でガタガタ震えている。ミアを落ち着かせようとしたアレンカは自分も震えていることに気づいた。
(追手は見えなくなったけど・・・)
アレンカは自分たちに背を向けている「巨人」を見た。追手の前に立ったきり、「巨人」は何もしていない。追手が後ろに下がっていくときも、姿が見えなくなっても身動き一つしなかった。
(「巨人」は何なの・・・私たちをどうしようというのかしら・・・)
状況から、「巨人」はアレンカ達を助けたように見える。しかし、アレンカはあんな「巨人」に知り合いは居ない。
見ず知らずの「巨人」が、自分たちを助ける理由はミアには思いつかなかった。追手から獲物(自分達)を横取りしただけの可能性に気づいたアレンカは「巨人」に声をかけることも躊躇われた。
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突然、左の茂みから厳つい男が二人出てきて、自分たちに魔法を放ってきた。同時に男たちの更に左側からもう一人、若い男が飛び出てきて、アレンカ達に向かってきた。
とっさのことで目をつぶることさえできなかったアレンカの目の前で、魔法は何か透明な壁に弾かれたように飛散した。
「なにぃっ?!うおぉっ?!」
アレンカに向かってきた若い男も、アレンカの手前でまるで自分から壁にぶつかったように後ろ向きに倒れた。
「痛ってぇ・・・、何だぁ?・・・ぐぎゃあぁっ!」
倒れた若い男に「巨人」が近づき、右足で若い男を蹴り飛ばしたのだった。若い男は数メートル吹き飛んで地面を転がったあと、森の木にぶつかってそのまま動かなくなった。
「ザロイッ!チッ、仕方ねぇ、『巨人』」を倒すぞ!応援を呼べ!」
魔法を放った後こちらに向かってきた追手の男が後ろの男に何か叫んだ。それに応え後ろの男が笛を取り出し大きな音を吹き鳴らす。その間に「巨人」から距離を取った追手の男の右手に淡い紫色の光が灯る。後ろの男の右手にも同じように淡い赤色の光が灯った。
「雷撃短槍!」
「くらえっ、火炎飛槍!」
追手の男の手から紫色の雷のヤリが、後ろの男の手から赤い炎のヤリが飛び出て「巨人」に襲い掛かった。アレンカはその魔法を見たことがあった。凶暴な軍隊蟷螂ですら一撃で倒す強力な魔法だ。ザロイを蹴り飛ばしたため男たちに身体の右側を晒していた「巨人」の右腕めがけて二つの魔法は飛んで行った。
カン、コォーン・・・
「巨人」に向かって飛んだ二つの魔法は、確かにその右上腕部に当たった。しかし、魔法は軽い音を立てて、「巨人」の右腕に弾かれてしまった。もちろん「巨人」は小揺るぎもしない。
「なっ・・・、これならどうだ!」
炎のヤリを放った男が片手短槍を構えて「巨人」に突っ込んでいく。穂先に炎を纏い、「巨人」の脚にヤリを突き立てようと突っ込んで行った男は、「巨人」の手前1メートルほどのところで弾き飛ばされてしまう。
まるで透明な壁にぶつかったかのように動きの停まった男を、「巨人」は再びその右足で蹴り飛ばした。「巨人」の蹴りを正面からまともに受けた男は、装備していた鉄の胸アーマーや皮鎧をまき散らしながら吹き飛び、木にぶつかる。
赤い血の跡を引きながら地面に横たわり、原型をとどめていない男の上半身を見れば、死んでいるのは明らかだった。
「う・・・、あぁ・・・」
追手の男が立ちすくむ。「巨人」に仲間を二人あっという間に倒されてしまったのだ。しかも「巨人」は別に特別な攻撃をしたわけではない。単に近づいてきた相手を蹴り飛ばしただけである。魔法は通じず、武器も効きそうにないと気付いた追手の男は逃げようとしたのだろう、後ろを向いて走り出した。その時、
Vahn!
すこし乾いた、バンとも、パァンとも言えない音が響き、追手の男の背中に小さな火の玉があたった。
「ぐあぁっ」
追手の男は一声悲鳴を上げるとそのまま前のめりになって倒れた。倒れた背中からはうっすらと煙が上がっている。アレンカには見えなかったが、「巨人」が追手の男を倒したのは間違いなさそうだった。
(みんなやっつけちゃった・・・)
状況について行けず、ただ見ているだけのアレンカの前で、巨人は向きを変えアレンカ達と相対したのだった。
(つづく)




