第13話 街道にて その1
ジェフ達は馬車を動かそうと悪戦苦闘していた。本隊である奴隷商人の隊商に合流するためである。マーカス達からは最初の『強敵、応援頼む。』を意味する合図以後音沙汰はなく、「続報が来ない」ことが意味することをジェフ達はほぼ正確に理解していた。マーカス達はこの「魔の森」の中で、「何か」に遭遇し、戦闘になり、全滅してしまったということである。チームのなかでもベテランであるマーカス達が全滅するほどの相手である。若手のジェフ達で歯が立つ相手とも思えなかった。逃げた奴隷たちは粗方捕まえたことも、ジェフ達が本隊への合流を優先する理由となった。完璧ではないが、損失の穴埋めはできたのである。逃げた奴隷たちを連れて帰るのは大義名分としては十分である。
「うまく動きませんね・・・」
「馬が足りねぇからな・・・。おい、ハーマー、そっち側の車輪はどうだ?車軸も見てくれ。」
「こっち側の車輪は少し傾いているようです。横倒しになった時に車軸が歪んだみたいですね。」
襲撃の際に倒れた馬車を起こしてまた使おうというのである。普通は動かない、動けば御の字というものであるが、交易用に作られた、よく言えば質実剛健、平たく言えば頑丈一点張りな馬車は何とか動きそうであった。もっとも、本来二頭立ての馬車に一頭しか馬は繋いでおらず、車軸も少し歪んでいる馬車の歩みは、石畳の街道をまるで泥濘の中を進むようにゆっくりとしたものだった。ジェフ達は馬をなだめつつ、自分達も馬車を後ろから押しながら、本隊に合流するべく街道を西に、あえぐように進んで行った。
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ズシン、ズシィンと「巨人」は森の中を歩いていた。左腕にイヌ耳族のミアを乗せて、前を歩くウサ耳族のアレンカの後ろを大人しくついて来る。
(いえ、ついて来てくれた、と言うべきね・・・)
アレンカはそう胸の中でつぶやいた。正体不明の、身の丈5メートルを超える「巨人」は、なぜかアレンカ達を助け、動けないミアを抱えて一緒に来てくれている。
今、アレンカ達は「魔の森」を北北東に進んでいる。奴隷商人の隊商から逃げ出した時間から考えて、それほど魔の森に分け入っていないハズである。もうすぐ街道に出るだろう。街道を東に進む、これがアレンカの出した当面の方針だった。街道で普人族と出会ったらどうするか等、基本的に穴だらけの計画であったが、魔物蠢く「魔の森」を進むよりは余程安全である。
「巨人」はミアを左腕に抱えたまま森の中を歩く。腕の高さである地上約3メートルの位置には森の木々の枝が茂り、行く手を阻むが、「巨人」は右腕で器用に枝を捌き、ミアに枝が当たらないようにしている。意外に気が利くようだ。
「巨人」と歩き始めて一時間半ほど経っただろうか。森が拓け、視界が開けてきた。街道に出たのである。アレンカは素早く左右を見て、街道に人影がないことを確かめた。
(ようやく街道に出れた。ここから東に向かえばいいはず・・・)
街道に出たことで気が抜けたのか、アレンカはそのまま倒れてしまった。
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森が拓け、街道に出たところで保護目標Bが倒れてしまった。左腕に乗せている保護目標Aが何か下に向けて叫んでいる。あまりに身を乗り出して危険なため、「彼」は屈んで保護目標Aを保護目標Bのそばに下ろしたのだった。
【正面に東西方向に延びる街道有。外見上の道路構造物として、幅員約6メートルの街道本体、両側に5メートルの緩衝帯。進行方向への勾配はほぼ水平。道路本体の舗装は石畳と思われる。緩衝帯の植生から、一か月以内にメンテナンスが行われたと推測。外見上の道路構造は、ガリーナ王国の国営戦略街道に類似。現在も稼働している、国家級の戦略街道と推定。】
戦術AIが律義に街道を分析する。手入れのされている立派な街道は、それを維持することが可能な「実力(国力)」を持つ集団(国家)と、立派な街道を必要とするほどの交通量があることを意味していた。
(戦略街道を維持することができる勢力がある、ということか・・・。普人族の国家がある、ということだろうな・・・)
保護目標の追手は普人族だった。「彼」の知識には、このような戦略街道を作り運用するような種族は普人族くらいのものである。この街道がエルフやゴブリンの国家により運営しているというよりも、普人族の国がある、という方がよほど説得力がある。
【保護目標Bの意識はないみたいだけど、生体反応は安定しているわ。「安心して、気を失っている。」というのかしら。栄養失調であることは間違いないから、早めの栄養補給を推奨するわ。】
生活AIが保護目標Bの状態を分析、報告してくる。保護目標Aが声をかけているが目を覚ます様子はなさそうだ。街道わきの目立つ場所にいて普人族に見つかったら面倒である。「彼」は保護目標Bを抱え、一旦街道脇の森に入り、街道から見えない場所に保護目標Bを横たえたのだった。抱えたとき、保護目標Aが何やら叫んでいたが、とりあえず無視した。追手であれ、別の集団であれ、普人族に自分たちの存在を露見することは「彼」としても避けたかったからである。
地面に保護目標Bを横たえると保護目標Aが右足を引きずりながらやってきた。一瞬、何やら恨めし気に「彼」を見上げると保護目標Bの傍に座り、心配そうに顔を覗き込んでいる。気を失っているだけであることを理解しているのか、森の中で喚いていないのが救いだった。「彼」は保護目標Bのことは保護目標Aに任せ、茂みから街道を除き、街道を通るものがいないか警戒するのだった。
(つづく)




