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第2話

 月曜日の朝を向かえ、高校生活のスタートを感じる。

「さ!気合い入れていきますか!」

 大きな独り言を言いながら、朝ご飯を食べ、制服に着替える。


 自分の高校は今ではちょっと少なくなってきた学ランというやつだ。

 女子もセーラー服で、本当に伝統を感じる。


 自分的にはないものねだりだが、ネクタイをするブレザーに憧れる。

 中学も学ランだったからちょっと飽きた。


「ちょっと遅れるわよ!!」

「は〜い!」


 毎朝同じ文句で僕の気持ちを忙しくさせる。まだそんな時間ではないのにだ。ただ、そういわれると急がずにはいられない。いつも早くに家を出る。自転車に乗り、10分くらいして駅に到着。電車で20分の所の「桜ヶ丘高校前」で降り、そこからは本当に徒歩2分くらいのところに学校はある。田舎なので、朝もそんなに電車は混んでいない。電車網が発達してないので、車のほうが便利という。


 電車を降りてすぐに声をかけられた。


「大谷くんだよね?」

「あ、うん。」

「よかった。まだ覚えてないと思うけど、君の斜め前の席の三井です。三井陸。」

「あ〜、三井くん。」

 まったく覚えていなかった。自分の癖でもあり、防衛策でもある知ったかぶりが咄嗟に出てしまった。


「あ、覚えててくれたんだ。まあ、顔は君の前だから覚えてないのは無理ないか」

 彼は笑っている。自分も笑う。本当にそういってくれてほっとした。


「大谷くん早いんだね。俺なんかたぶん今日だけだよ。初日はなんとなくね。」

「あ、でもよくわかる。なんか気合い入るんだよね。」

「そうなんだよ、大谷もそんな感じ?」

 自然に大谷と呼び捨てにされるのは、ちょっと親近感がわき、うれしかった。


「それもあるけど、なんか親がやたらうるさいから早くでてきちゃうんだよね。」

「じゃ〜これからも早いのか。俺もできるだけ早くこれるようにしようかな。実は朝から500円拾ったんだよね。早起きは三文の徳ってのを初めて実感したよ。」

「すげーじゃん!それでは、それで朝の一杯でもおごっていただきましょうか?」

 自分でびっくりするほど、この言葉がすっと出てきた。普段仲の良かった友達にしか言わないようなことなのに。


「しゃ〜ね〜な。ただしカップの80円ジュースな。」

「ラッキー、いただきや〜す。」


 僕等は本当にこの5分くらいで距離を縮めた。その日は三井とほとんど行動を共にした。

 

 放課後になり、三井がこっちに振り向き言った。

「帰ろうぜ」

「ごめん、今日ちょっと用があるんだ。」

「そっか、じゃ〜また明日。」

「うん、バイバイ!」


 本当は一緒に帰って、より色々話したいが、それを上回ってやはりテニスコートへ向かいたいというのがあった。今日は三井と友達になれて色々話をしていたが、頭の片隅には放課後のテニス部見学があった。知っている人もいないので、誰にどういう風に頼めばいいのか。初心者でも大丈夫なのだろうか。こんなことを考えていた。


 テニスコートが近づいてきて、もう部活が始まっているのがわかった。とても活気があって声を出していない人がいないくらいだ。だから余計に入りにくい。ちょっとコートの周りを1周してみたり、ちょっと離れたところに座ってみたりと、10分くらいうろちょろしていた。


 すると、一人の男の人が後ろから話しかけてきた。


「君、新入生?」


 自分は勢いよく後ろを振り返って、相手の顔を驚いた顔でガン見した。


「あ、ごめんごめん、急に話しかけて。驚かせちゃったね。」


 自分はそんなことで驚いているのではない。


 あなただから驚いているのだ。


「テニスコート見てるの?」

「はい。」

「興味あるんだね。よかったら、見学していかないかい?」

「いいんですか?」

「大歓迎だよ。さ、こっちだよ。」


 こんなにトントンと見学にいけるなんてラッキーだ。

 それになんといっても、誘ってくれたのが、あの人。

 そう、サーブ練習の人だ。あの背筋がぞくっとするサーブを打った人。まさかこの人に誘われるなんて、とても感動している。しかもやさしい。あの真剣な表情の裏にこんなやさしい顔が隠れているなんて、一瞬でこの人は完璧人間という偶像ができてしまった。


 コートに入るとみんながこっちを見た。当たり前だ。知らない人間が入ってきたらそうなるだろう。そう思っていると、練習を止めて、全員が集まってきた。

「部長、今日の練習はどうしましょうか。」

「今日は昨日やった前後のトレーニングをしてから3年とレギュラーは試合形式、他はサーブ&リターンからのラリー対決で、それぞれ負けたものはすぐにコートの外1周でいこう。」

 

 はい、今日のベストビックリ賞受賞です。まさかの部長さんです。もう練習内容のよくわからないカタカナにはもう触れません。完璧人間の偶像が実像へと変わった瞬間でした。


「高明、その子は?」

「新入生だ。見学したいそうなので連れてきた。」

「水野部長のお知り合いですか?」

「いや、そこで捕まえたんだ。真剣にコートをみてたからね。」


 今のやり取りの中で、即座に彼の名前、水野高明をインプットした。


「あ、名前聞いてなかったな。名前は?」

「1年5組の大谷和也といいます。」

「じゃ〜今日は大谷くんも来てるので、より気合いを入れて練習するように。」

「はい!!」

「そしたら、大谷くんはそこのベンチに座って見てて、暇だったらこのラケット貸すから柵に向かってボール打ってみな。」

「ありがとうございます。」


「高明、ラケットガット切れてたんじゃね〜の?」

「昨日、夜によっちゃんとこいって張ってもらったんだよ。」

「あの〜大事なラケットなんですよね?」

「あ〜遠慮はいらないよ。折らなければいいから」

「折ってもいいよ、高明のだから」

「おいおい、やめてくれよ。俺金ね〜よ」


 彼らは笑いながら、僕にボールを渡して奥のコートに行った。

 まさかあの人のラケットを貸してもらえるなんて思わなかった。大事にしないと。

 それから練習が始まり、いろんな人の振り方を見て、真似をしながら、何球か打ってみた。

 思うように飛ばない。というか当たらない。そこで、よりあの人のすごさがわかった。


 暗くなってきて、最後はランニングと筋トレをして終わるというので、自分は先に帰ることになった。

「今日はありがとうございました。」

 水野部長にラケットを返す。

「どうだった?楽しかった。」

「はい。めっちゃ楽しかったです。難しいですね、テニス。」

「そうだな、でも楽しかったならよかった。また入部するかどうか考えてみてね。」

「はい。それでは失礼します。」



 帰りながら、自分はテニス部に入部しようと完全に心の中で決めていた。


「水野部長やべ〜」


 僕の心のなかの叫びが、小さな独り言として出てしまった。

 


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