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あれから3日が立ったが、中々冒険者として依頼を受ける気にはなれず、俺は以前から続けていた魔道具屋でのアルバイトをしていた。
冒険者であった両親から、初めのうちは依頼だけで生計を立てていくのはまず無理だと聞いていたから、依頼の役に立ちそうな魔道具屋で働いていたのだ。
魔道具について軽く説明しておこう。
魔道具は大きく分けて2種類ある。1つは使用者の魔力を高めるもの。もう1つは予め注いでおいた魔力を使い発動するもの。
魔法使いの持つ武器には大抵魔力を高める魔道具が使われている。
だが俺にとっては、もう1つの方が重要だ。予め注いでおく魔力は、自分のものでなくてもいい。つまり、あまり魔力の高くない人でも、簡単な魔法が使えると云う事だ。
そんな訳で、働きながらいい物が無いか探しているのだが……
「うーん」
高いのだ。とても。
魔道具は細かな術式を本体に刻み、それに十分な魔力を注がねばならない。一流の技師と二流の魔法使いが必要なのだ。
魔力を注ぐだけならまだしも、一流の技師はかなりの金を取る。
使えそうなものは色々とあるのだが、とても新米冒険者に手の出せるような金額では無い。
と、そんな事を考えていると、入り口の扉がゆっくりと開いた。
バイトに店を任せて買い出しに出て行った店主が帰ったのかな、と思ったが違った。
恐る恐るといった風に顔を覗かせたのはいつかぶつかってしまった少女ではないか。
「あのー。ここ、魔道具屋ですよね? 買いたいものがあるんですけど」
「いらっしゃいませ。えっと、俺のこと、覚えてますか……? 先日はぶつかってしまったのに、謝りもしないで。本当にすまなかった」
少女は初めキョトンとしていたが、思い出したようだ。
「あ、いえいえ。私も悪かったですし気にしないでください」
「いや、気にするなって言われてもな……。そういえばその格好、君は魔法学校の生徒?」
今気づいたが、彼女は国立魔法学院の制服を着ている。魔法学院は優秀な魔導師を多く輩出した名門校であり、ゴドールこそ国が負担してくれるが、かなりの学力と魔力が必要なはずだ。
「あ、はい。そうなんです。昨日入学して必要なものを買うように言われたんですけど、大通りのお店は売り切れになっちゃったみたいで……。これってありますか?」
なるほど、それなら納得だ。この店は裏通りにあり、いわゆる知る人ぞ知る名店の様になっている。
だからこそこんな店に少女がやってきて驚いたのだが……。
手渡された紙を見てみると、女の子らしい丸まった文字で、必要な道具が書かれていた。
「これならうちの店にもおいてある。少々お待ちください」
流石は魔法学院。俺なんかじゃ到底手が出せない品をこんなに買わせるとは。
これじゃあ授業料が無料でも一般人には入れないんじゃないか?
「これでいいかな? それじゃあ代金が合計37万8千ゴドールになるけど……ある? 現金で」
この店はいまどき現金払いのみという珍しい店だ。
こんな大金を現金で出せるやつなんてそういないだろう。
「あ、道具代は学院が出してくれるそうなので、学院あてに請求書を出してもらってもいいですか?」
「ああ。わかった」
金額が金額だし本来後払いなど完全にアウトなのだが、相手が国立魔法学院ならば仕方がない。
あそこはイラ国でもトップクラスの権力を誇っているのだ。
それにしてもこの金額の魔道具を全額負担とは、やはり流石魔法学院だ。
「そういえば名前を聞いてなかった。名前は?」
「私、シアっていいます。ありがとうございました」
そういうと彼女、シアは扉を開けて帰って行った。