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翌日、ギルド前ではもうラースが待っていた。
「待たせたみたいで悪いな」
「いや、興奮して早く起きちゃっただけだから気にしないで」
何となく初デートみたいな会話をした後、ギルドに入り早速カウンターへと向かう。
「お2人とも、お待ちしていました。昨日の件で、お話がありまして……」
ギルドの職員の人が、今回の依頼でリーダー登録をしていた俺に話しかけてくる。
「あー、その前に、依頼を終わらせてもいいですか? 先に済ませておきたいので」
「かしこまりました。では、毒消し草をお出しください」
言われた通りに毒消し草をカウンターに出すと、ラースも自分が持って帰っていた分をカバンから取り出した。
「……全部で60本ですね。依頼されていた数が30本でしたので、その差の30本は今の市場での相場を確認してのお支払いになります」
そう言ってカウンター裏の端末に何かを入力していった。かと思えば今度は引き出しから硬貨を取り出し、数えながらカウンターに並べていく。
「ただ今、毒消し草の相場を調べましたところ、30本で約2000ゴドールでしたので、依頼の達成報酬の2500ゴドールを加えた4500ゴドールになります」
渡された報酬の半分の2250ゴドールずつを受け取る。実際に採集した量に関わらず、報酬は山分けにしようとパーティーを組んだ時点で決めていた。
「さて。これで依頼については完了だ。話っていうのは、あの悲鳴のことでしょう?」
単刀直入に聞くと、隣から生唾を飲むような音がした。
「ええ。その通りです。あの後、ギルド職員の中でも元シルバーランク以上の者たちを派遣して、様子を確認させたのですが……。確かに何者かが戦闘を行なっていた痕跡は残っていました。ですが魔物の死骸は見つからず、男性が使っていたと思われる手斧が落ちていました。恐らく、その男性はもう……」
「そんな⁉︎もっとしっかり探してみて下さい! きっと……きっと、何か見つかるはずですから」
「まだ捜索隊は捜索を続けています。そのような魔物が現れたとなればこの地域の危険度も上げなければならないかもしれませんからね。……また何か分かったらお伝えします」
俺たちは礼を言って、その場を離れた。
ギルドを出た後、特に目的もなくしばらく歩いていると、ふと、ラースが顔を上げて言った。
「もしもあの時、僕が戻っていたら……あるいは男性は死なずに済んだかも知れない……」
「そんな事はない。あの時言ったように、あの状況で戻ったところでろくに戦えたわけじゃないんだ。手斧を持っていた冒険者が負けたんだろ?俺たちが行っても変わらない」
「確かに僕が戦っても勝てたとは思えない。でも。僕と君と、もう1人の3人がかりなら勝てたかもしれないじゃないか‼︎ そうだとしたら、僕は彼を見捨てた……人殺しも同然じゃないか!」
ラースは顔を赤くして怒っていた。
本当は彼にも分かっているはずだ。新米冒険者が2人増えようと、それが大した戦力にならないことくらい。
「トーヤ。君は多分間違っていない。けど。それでもやっぱり、僕は助けに行きたかった。例えそれで僕が死ぬことになったとしても」
やはり彼は、自分が戻ったところで助けられなかった事は分かっている。それでも怒っているのは、俺に言われるがままに街に戻った、自分に腹が立っているのだろう。
せめて自分で決断したかったのだろう。
「トーヤ。僕は、正義の味方に憧れて冒険者になったんだ。冒険者になって、街や人々を魔物から守るんだって。でも、今回のことで分かったよ。人を守るには、僕は非力すぎる。だから……」
「俺たちは、この依頼限定のパーティーだ。だから、依頼を達成し、報酬を貰った今、一緒にいる必要はない。……短い付き合いだったが楽しかった」
彼は自分の無力さに怒っている。人1人守れなかった事に。
きっと彼は、この後ひたすらに強くなるのだろう。どんな時でも、どんな人でも助けられるように。
彼のその正義感はどこからくるものなのかは分からないが、それならば俺は、本気で強くなろうとする彼にとって必要なく……いや、邪魔になるだろう。
それならば、ここで別れ、それぞれの道を行くのが1番だろう。
「……すまない」
謝る彼に背を向け、俺は歩き出した。