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第七話 竜の鼓動

吊り橋効果的な何か。

「あー、ウイングフィールドさん。一応言っておくと、勇人の目つきが悪いのは生まれつきなんだ。だから、許してやってくれ」


 渡辺君のフォローを聞いて、私は、


「えっ、なんで分かったの?」

「え、結構分かりやすかったけど。まあ、勇人も愛想ないからなあ」


 心の中を見抜かれていたみたい。申し訳ない気持ちになった。

 会ったばかり、話したこともない相手に怯えてしまった。私はあまり人に苦手意識を持たない方なんだけど、竜崎君を見ると、どうしてか緊張してしまった。

 嫌いというわけではないと思う。ただ、どうしてかあの顔を見ると、頭の中がかき乱される。教室で一目見た時から、そうだった。


「アイツは愛想ないけど、悪い奴じゃないんだ。まあ、愛想ないのは俺もだけど」

「そんなことないよ。渡辺君はこうやって気軽に話してくれるし」

「そ、そう? ま、まあ、勇人よりはマシかな、俺」


 笑う渡辺君に同意して、


「なんとなく、竜崎君とは話しづらくて。って、まだ、話したこともないんだけど……」


 素直に感想を言う。でも、


「うーん、勇人は別に何も感じてないみたいだったけど」


 って、普通みたいに言った。


「そう? 私、変じゃなかったかな?」

「気にしてないと思うぜ。後で聞いておこうか?」

「ううん、大丈夫。ごめんね、気を遣わせちゃって」


 教室で目が合った時にも、こんな感じだった。


「いいっていいって。あ、ウイングフィールドさんは、歩き?」

「私は電車だよ」

「そっか、それじゃ、また明日」

「うん、またね」


 校門前で渡辺と別れて、私は駅までの道を歩いた。

 竜崎勇人君。どうしてもこの顔が頭から離れない。

 目つきが悪いのは生まれつき。特に私のことを気にしているわけではない。そう聞いても、私の心は落ち着かない。


 今まで、どんな相手にもこんな気持ちにされたことはない。人付き合いは得意な方だし。何度か転校したが、どこでも上手く馴染んでこられた。

 今でも連絡を取り合う友達もいる。見た目のせいか、私の周りには、たくさんの人が集まった。男子女子関係なく、仲良くなってきた。


「なんでかなあ……」


 思わず呟く。しかし、どう考えても答えが浮かんでこない。

 竜崎君のことを考えると、思考が乱され、鼓動が早くなる。駅に着いて、電車に乗っても悩みは消えなかった。


 誰かに相談しようかと思ったけど、クラスメイトや両親に聞くのは気が引けた。

 だから、今は遠くに住んでいる友達にメールを打とうと、スマホを出す。

 でも、ここで私はなんて書こうか悩んでしまった。気になる男子がいる、なんて、まるで小学生の恋話みたい……って、


「え?」


 恋という単語を思いだすと、私の顔は一気に熱くなった。

 まさか、もしかして、そんなことはないと思うけど。でも、そう考えると納得がいく。

 私、竜姫=ウイングフィールドは、竜崎勇人君に一目惚れしてしまったのだろうか。


 いやいや、と首を振る。きっと思い違いだって。

 自慢にはならないけど、私は今まで何回も男子から告白を受けた。

 中には学校で一番のイケメンと言われる人から付き合ってくれと頼まれたこともある。


 どれも断ってきた。私はどんな相手にも好きになるけど。それは友達としての付き合い。恋や愛といった感覚とはかけ離れていた。

 恋愛なんて、自分には縁のない話だと思っていた。だから、どんな人を相手にしても、冷静でいられた。


 だけど、今はどうだろう。竜崎君の顔を思いだすだけで、心臓がバクバクと高鳴る。顔は熱くなるし、今までこんなに緊張したこともない。

 これは、確かめる必要があるかもしれない。明日、竜崎君と話してみよう。


 もしもこれが、本当に恋だとしたら、私は生まれて初めて男の子を好きになったことになる。しかも、一目惚れ。まともに話したこともないのに。

 高校生活二年目にして、いきなり。これははっきりさせておかないと。曖昧なままでは、後悔する、間違いなく。


 私は、両親の都合であちこちに連れていかれる。気持ちに整理を付けないまま離れ離れになったら、悔やんでも悔やみきれない。

 家の最寄り駅まで着くと、私は電車を飛び出した。階段を駆け下りて、改札を通って、まっすぐに家に帰った。


「ただいま!」


 玄関に入ると、ちょうど妹も帰ってきたところだった。


「おかえり、お姉ちゃん。……どうしたの?」


 そう聞いてくるのは、妹の竜華りゅうか=ウイングフィールド。今年で中学三年生。

 私の様子がいつもと違うと、すぐに気づいたみたい。怪訝な顔をしていた。


「ちょっと、色々あったの」

「色々……? なに、学校で嫌なことあったの?」

「そうじゃなくて、考えごと!」

「そ、そう……?」


 竜華は、深く追及してこなかった。普段の私にはない何かを感じ取ったらしい。

 

 私は、部屋に入ると着替えもしないで、ベッドに寝転んだ。


「竜崎、勇人、君」


 これから私の学校生活を大きく変えるかもしれない相手の名を呼んで、枕に顔をうずめた。

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