第三話 ウイングフィールド
名前が大切な要素になっております。
タツキ=ウイングフィールド、そう名乗った女子生徒は、クラスの壇上で微笑んでいた。
先ほどまでの、慌てふためいた様子はどこへやら。挨拶した途端に、別人になったみたいだ。
「ウイングフィールドさんは、二年からの転入生です。えーっと、前は……」
新堂先生が、生徒名簿をめくっている。
名前からして、外国じゃないかと俺は予想する。あれだけ見た目が日本人離れしているのだ。アメリカ、イギリスなんかと国を考えて、
「あ、大阪から来ました」
「あら、ホントね」
正直な告白と同時に、クラス全体の空気が一気にずっこけた気がする。
大阪か、外国じゃないのか、なんて声が聞こえる。それはきちんと本人にも聞こえたようで、
「私、日本で生まれて日本で育ちました。父の祖父が、イギリス人だったそうですけど」
家系の事情があるらしい。見た目で勝手に外国人だと思い込んじまった。
「見た目で誤解されることが多いんですけど、日本人です。名前も、こんな字で……」
と、女子生徒は綺麗に漢字で、竜姫、と黒板に書いた。
「皆さん、今年一年よろしくお願いします」
「はい、皆さん拍手ー」
まばらな拍手を受けて、ウイングフィールドは自分の席に着いた。
「それじゃ、無難に五十音順で行きましょうか。阿藤君からね。お願いします」
新堂先生の一言で、ついに自己紹介が始まった。
名前、趣味、所属部、一年の抱負などなど。クラスメイトが照れながら、一人一人発言していく。
しっかりとした奴もいれば、途切れ途切れに言う奴もいる。運動部系、特に男子はアピールが強い。気持ちは分かる。女子ウケしたいんだろう。
ラ行の俺は、後ろから四番目だった。残念ながら、特にこれといったアピールポイントも無いので、
「竜崎勇人です。趣味……っていうのは特にないんですけど、逆に苦手なものがありません。部活には入ってないんで、帰宅部です。よろしくお願いします」
我ながら、無難オブ無難。普通の中に普通だった。続く礼二も、、
「渡辺礼二っす。趣味は音楽聞いたり映画見たり。俺も帰宅部なんで、面白そうな部活があったら誘ってください」
こっちもこっちでつまらない挨拶だった。
「……普通すぎるな」
「……うるせえ。勇人だってなんにも面白い事言ってないだろうが」
悪友同士、お互いの情けなさを痛感する。とはいっても、このクラスでは、俺と礼二くらいのテンションがほとんどだ。格好つけるような奴は少なかった。
残りの二人が自己紹介を終えると、新堂先生が黒板に名前を書き始めた。
「私は、新堂竜子。今年一年、皆さんの担任をやります。私は結構厳しめなので、遅刻なんかは許しません。どうしても遅れそうなら、事前に連絡をくださいね」
また沈黙。
「いい、です、ね!?」
はい、とも、うい、ともつかない返事が上がる。新堂先生は納得しかねる顔をしていたが、うるさく言うのはやめたらしい。
「今日は、これで終わりになります。ですが、明日は絶対に遅刻しないように。入学式です。先輩として、情けない姿は見せないでください。遅刻者は容赦なく廊下に立たせます」
今どき古風な罰だな。それが逆に恥ずかしそうで、絶対に嫌だが。
ホームルームが解散すると、それぞれ親しい相手、気になる相手に声をかけ始めた。注目を集めているのは、自己紹介第一号、竜姫=ウイングフィールドだった。
女子だけではなく、男子も混ざっている。賑やかで、楽しそうだ。転入生ということで、部活の勧誘なんかも受けていた。
あの見た目だ。いるだけで気を惹くってのかな。気持ちは分かる。
俺もなんとなく、そんな集団を見ていた。
次回はまた別のヒロインが。