表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

第二話 ドラゴンプリンセス

さっそく一人目のヒロイン登場です。

 また一時間早く起きた俺は、身なりを整えた。鏡の中には、あの頃とは少しだけ変わった自分がいる。

 成長した、と自分で言うのも恥ずかしいが、少しは大人の顔立ちに近づいてきた。少年、という区分から抜け出せそうだ。

 髪型と目つきの悪さは相変わらずだが、これは仕方がない。髪型を変えるには勇気がいるし、目つきは生まれつきなのでどうしようもない。


 食パンを焼きつつ、猫のシュラにエサをやる。美味そうに食事を取るシュラを眺めつつ、俺は牛乳をグラスに注いだ。

 焼きあがったパンは、長年同じブランドのもの。親父の好みらしく、ずっと変わっていない。

 まるで、あの時の再現のような、と感慨深く思う。思って、そういえば昨日一昨日も同じことをしていたと思いだしたが。


 俺の学校、真川しんかわ高校までは、いつも自転車で通っている。

 愛車は、今日もギコギコとうるさかった。この前、油をさしたというのに調子が悪い。そろそろ買い替え時なんだろうか。

 高校までは、片道二十分。今日は早起きし、さらには天気が良いのでのんびりと走れる。


 今日から高校二年生、ということで、クラスが変わる。真川高校は一年ごとにクラス変更がある。

 どうなるだろうという疑問はあったけど、不安はない。これでも一応、人付きあいには困ったことがない。


 学校に着くと、早速クラス表を見に行く。昇降口に貼られた三枚の大きな紙。その真ん中が、二年生のものだった。

 俺は、F組に自分の名前を見つけた。ついでに、悪友の名前も。

 三階建ての二階が、二年生の教室だった。F組は端の方にある。俺は軽い鞄を肩から下げて、教室に入った。


 もうに、何人かの生徒が座っていた。黒板に座席表がある。俺も自分の席を見つけて、


「よう、勇人!」


 さらにその後ろに悪友がいることに気づいた。


「礼二か。また同じクラスだな」

「おう、これで中学んときから五年連続だな!」

「嬉しくねえ……」

「……そう言うなよ。マジで言われるとへこむから」


 渡辺わたなべ礼二れいじ、先ほどクラス表で見つけた悪友だ。

 中学一年からの付き合いで、もう五年。どんな縁があるのか、ずっと同じクラスで過ごしている。


「俺らのどっちかが女子だったら、運命感じるんだけどなあ」

「夢見すぎだろ、お前。つか、今日は早いな、礼二」

「そりゃあ、そうだろ。クラス替えだぜ? ちょっとはワクワクするもんだろうが。お前だって、今日は早いじゃねえか」

「ん? ……ああ、ちょっと夢見が悪くてな」

「夢だあ? なんだ、お前の方が夢見てるのか」

「お前の妄想とは別だよ」


 ひっでぇ、と言いながら、悪友は笑っている。これくらいのやり取りはいつものことだ。


「ま、この調子だと来年も同じだな。よろしく頼むわ」

「へいへい」


 そう礼二の言葉を聞き流しながら、俺は今朝の夢を思いだした。

 まだあの頃の夢を見るというのは、精神的に成長していないからだろうか。そうだと思うと、中二病じみた夢をさらに恥ずかしく感じる。

 だというのに、


「なあ、勇人の夢ってどんなのだよ? 夢占いしてやろうか?」


 なんて、礼二が思い出させてくる。


「いいよ。ってか、お前、占いなんかできないだろ」

「まあ、そこは気にすんな。……その顔からすると、悪夢だな?」

「ああ、そうだよ。化け物相手にするような夢だ」

「ははっ、ホッケーマスクの怪人にでも襲われたか? それとも、ピエロとか」

「どっちでもねえけど、嫌な夢だったよ」

「お前、あんまりホラー系得意じゃないもんな」


 勝手なことを言う悪友は無視。俺は耳を塞ぐ振りをして、おしゃべりを終わらせた。


 段々と、クラスに生徒が増えてくる。再会を喜ぶ奴もいれば、一人でおどおどしている奴もいる。

 新しいクラスということで、みんな色々と思ってるようだ。俺は礼二と一緒だからか、既に不安感も期待感も失ったが。

 生徒がそこそこ揃ったところで、担任だという若い女教師が入ってきた。


「はいはい、みんな、注目ー」


 手を叩いて、生徒の注意を引く。担任は見た目のわりに、肝が据わっているらしい。新人じゃなさそうだ。


「はい、今日から二年F組の担任をする、新堂しんどうです。これから一年間、よろしくお願いします」


 先生が挨拶をしたけど、沈黙。


「よろしく、お願い、します!」


 新堂先生が言い直した。迫力に圧された生徒の数人が、おねざーす、という気の抜けた返事をした。


「……まあ、いいでしょう。今日は、全校集会の後に、ホームルームです。すぐに終わりますが、皆さん気を抜きすぎないように。いいですね?」


 今度は、うーす、というやる気のない返事が。新堂先生は不満そうだったが、時間が迫っていたからか、早速俺たち生徒を体育館へと連れて行った。


 全校集会といっても、大したことはやらない。校長が当たり障りのない話をして、生徒会長が挨拶をするくらいだ。

 話をまともに聞く生徒は、どれくらいいるのやら。周囲からは、早く終われ、という空気しか感じない。


「では、次は生徒会長の宮崎みやざきリンドウさん、お願いします」


 司会役の教師が呼ぶと、一人の女子生徒が、体育館の壇上へ上がった。

 背が高い。長い黒髪をさっそうとなびかせるさまが似合っており、モデルだと言われても信じられる。顔立ちも良く、自信と活力にあふれていた。


「皆さん、おはようございます。私は生徒会長の宮崎リンドウです」


 大きな声が響いた。校長のだらしない声とは違う。


「新学期、新学年ということで、期待に胸を膨らませている方も多いでしょう。明日には、新入生もやってきます。三年生は最上級生として、二年生は見本になる先輩として、新たな一年を送ってください。以上です!」


 堂に入っていた。心なしか、緩んでいた空気が引き締まった気がする。

 あのように堂々とした生徒会長がいたとは、俺は知らなかった。怪しげな噂をいくつか知ってるくらい。去年の生徒会選挙、演説の時には寝ていたからな。

 短い言葉にも好印象を抱いた。あれならば、信任されるのも分かる。


 どこからか、宮崎先輩、とか、さすが会長、とか、リンドウ様、とか聞こえてくる。最初二つは普通だが、様付けでも呼ばれているのか。俺もまたまだこの学校のことを知らないらしい。


 生徒会長が短くまとめてくれたので、全校集会は早々に解散となった。

 次は、ホームルームだ。

 新学年、新クラスとなると、恒例のイベントがあるのだろう。俺は少しばかり、面倒くささを感じる。


 教室に戻ると、新堂先生が早速とばかりに、


「それじゃ、自己紹介してもらいましょうか」


 と、予想通りに持ってきた。

 クラス中がざわめく。


「あー、めんどくさいよなあ」


 と、礼二もこの調子。俺も言葉にこそしなかったが、礼二に全面的に同意する。

 だが、新堂先生は腕を組み、


「と、行きたいところなんですけど、実はまだ一人、生徒が来ていません。連絡があったので、そろそろ来るとは思うんですが」


 そう首を傾げる。


 新学期早々に遅刻とは、大胆な奴がいたもんだ。

 俺はあくびを噛み殺しながら、礼二は文句を言いながら、新堂先生は生徒の名簿を見ながら遅刻している生徒を待った。

 とはいっても、待ったのは五分程度だ。廊下から、せわしない足音が聞こえてくる。がらりと引き戸が強く開かれ、そこに、


「す、すみません、遅れました……」


 肩で息をする女子生徒がいた。

 よほど慌てて来たのか、長い髪はぼさぼさ、制服もぐちゃぐちゃ、女子としては第一印象が残念過ぎた。

 ただ、日本人離れした赤い髪に俺は気を惹かれた。顔立ちも外国人っぽい色が濃い。瞳に至っては、緑がかっている。


「えーっと、ウイングフィールドさんね?」

「はい、そう、です」


 女子生徒は、息を切らせつつ、なんとか答えた。

 名前からして、純日本人ではなさそうだ。

 

「せっかくだし、自己紹介はウイングフィールドさんから始めましょうか」

「えっ、わ、分かりました」


 女子生徒は、ささっと髪と制服を整え、黒板の前へ。

 そして、


「タツキ=ウイングフィールドです。皆さん、よろしくお願いします!」


 勢いの良い、はきはきとした挨拶をして見せた。

なぜプリンセスなのかは、次回に判明します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ