第一話 それはきっと前世だった
性懲りもなく書いてみました。
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俺、竜崎勇人がその夢を見たのは、中学二年生の時だった。
まるでアニメのような、まさにゲームのような、そして小説のようなファンタジー感のあふれる森の中で、俺は戦っていた。
手には聖剣、体には聖鎧。そいつらの名前は忘れた。ただ、俺は必死になって戦っていた。
相手は、霞んでいてよく見えなかった。とにかく大きかったことだけは覚えている。
炎が放たれた。烈風が身を刻んだ。腕なのか脚なのか分からない何かが、俺を押しつぶそうとしていた。
たぶん、何かの化け物だったんだろう。俺の貧弱な想像力じゃ想像しきれない何か、だったのかもしれない。
夢の中の俺は、姿の見えない化け物相手にも一歩も退かなかった。それどころか、果敢に斬り込み、化け物と互角以上に戦っていた。
仲間はいなかった。少なくとも、見える範囲には。俺は化け物と一人だけで戦っていた。
一太刀浴びせるごとに、化け物の血が飛沫となって上がる。だが、代わりに、化け物の一撃を食らうたびに聖鎧も砕けていった。
普通ならば、ただの人間ならば、すぐにまっ平らにされていただろう。それだけ、相手の攻撃は激しい。
戦いは、長く続いた。まるで、何日も過ぎていくかのように。夢見ている時間よりも長く戦っていた気がする。
一進一退の攻防。精神がすり減っていくのを感じる。人智を超える化け物相手に、よく戦えているものだと思った。
アニメならば格好いい一撃で。ゲームならば派手な奥義で。小説ならば仰々しい技で、一発で倒せそうなものだ。
だけど、俺の相手はそんな創作物とはかけ離れたしぶとさで向かってくる。
やがて聖鎧が砕け、聖剣が折れそうになって、やっと化け物は倒れた。首だろう部位を、ついに斬り落としてやった。
返り血をザバザバ浴びながら、俺は地面に倒れ込んだ。達成感と、充実感に満ちていた。体が動けば、ガッツポーズでもとっていたはずだ。
ただ、俺の夢は、そこで終わってしまった。
化け物を倒した後、夢の中の俺がどうなったのかまでは続いてくれなかった。
あんだけの化け物だ。俺は、きっと英雄として迎えられていただろう。
名声を得て、金を得て、ついでにお姫様と結婚するくらいできたかもしれない。
だが、夢はそこで終わり。目を開ければ、LEDライトと天井が見えた。
俺は、頭をかきながら、
「……やっべ」
と呟いた。
起きてみると、恥ずかしさがとんでもなかった。英雄願望とでもいうのだろうか。まさか、俺にそんなものがあるとは思っていなかった。
確かに、俺はアニメを見る。ゲームもする。小説は、あまり読まないが、ライトノベルというものの存在くらいは知っている。
そのどれに影響されたのだろう。まるで、幼稚園児の妄想を具現化したような夢だった。
しかも、妙にリアルだった。聖剣を振るう感覚、聖鎧が砕ける感触、そして、最後に得た満足感。
どれもが、ただの夢と言うには生々しく体と心に残っていた。
「やべぇやべぇ」
呟きながら、掛け時計を見る。
いつも起きる時間よりも、一時間早かった。また寝直したいが、こんな夢を見た後に二度寝するのは嫌だった。
仕方ないので、身支度をする。洗面所で顔を洗い、歯を磨き、寝癖を直して、鏡を見る。
そこには、いつもの自分がいた。短くまとめた黒髪、細くも太くもない顔、特徴的なのは、目つきが悪いところくらいか。
どこにも、昨日と変わった場所はない。強いてあげれば、少し目が赤いくらいだ。
慣れない早起きなんかしたからだろう。妙に意識が冴えていた。やがて起きてきた母親に驚かれ、飼い猫のシュラにエサをねだられた。
朝食のパンをかじりながら、夢を思いだす。ああ、恥ずかしい。絶対、人には話せない。
中学二年生は多感な時期というが、
「俺、夢の中で化け物倒したんだぜ!」
なんて話そうものなら、クラス全員に笑われるだろう。
今の俺に倒せるのは、ゲームのラスボスと、手の中にあるパンくらいなもんだ。悪のドラゴンは昨日の夜に撃破したし、パンは今、牛乳で流し込んだ。
それで、忘れることにする。
ゲームは借り物、今日返す予定。パンはいつもの安物、毎日食べている。
夢をいちいち覚えていたら、きりがない。あの夢も、日常の一コマでしかないと思う。
その日、俺はいつも通りに一日を過ごした。あの夢を見ることもなかった。
なら、なんで今になって、高校二年生になる日になって思いだしたのかって?
それは、全く同じ夢を、また見たからだよ。