十.5
ガォンッ!ガォンッ!ガォンッ!ガォオオオンッ!
白銀の光り輝き放つ大口径のピースメーカーが焱の礫を吐き出し次々と襲い来る不死者どもを頭と体躯を吹き飛ばし二度と起き上がることが無いように鎮魂歌を奏でる。
シスターが華麗なる体捌きで修道服の裾を翻してステップし踊るように喰人鬼の鋭い爪を躱し、華奢な白い手に持つリボルバーを回転させ熱を帯び白煙を醸す空薬莢を排出し、新たなる弾を袖口から滑るように流れ落とし装填し、リロードすると醜悪な牙を剥いた襲撃者たちの顔面ごと撃ち貫き現世とオサラバさせた。
「はははっ!この肉をブチ抜く感触っ!堪らねーなぁっ!!バケモノ相手なら遠慮無く暴れられるぜっ!!どうだっ!?儀礼包装流銀弾の味は!?穢れた魂までイッちまうだろうっ!?はっはっーっ!!汝安らかなれっ、amenッ!!!」
「……素が出てますよ、シスターミハエル。あんまり特殊弾を無駄撃ちするとまた上層部に審問食らいますからね。ほどほどにしなさい」
群がる喰人鬼に容赦無く無双するシスターにやれやれとかぶりを振る背が異様に高い神父。
その高身長神父の周りにも喰人鬼の群れが唸りを上げ取り囲み、今にも襲い掛かろうと爪と牙を剥く。
「おやおや、私は荒事は得意じゃないのですが――――」
複数の喰人鬼が地を蹴り、目の前の神父を食い殺さんと猛然と飛び掛かり――――
その胴体と頭を真っ二つに分断され、細かな肉片のサイコロステーキに様変わりした。
……ジャリリ……ジャリ……ジャリン……
神父の両袖口から銀色の鎖が伸び、先端部には十字架を模した十字状の刃の武器が装着されており、鈍色の輝きを放っていた。
「主は言われた。汝、降り掛かる災いを試練と為し、己が罪を悔い改めよ」
ギャリリリッ!ギャリンッ!
左右から鉤爪を振りかざし襲い来る喰人鬼の身体に銀の鎖が巻き付き強烈に締め付け全身の骨をバキバキと砕くと、鎖が巻き付いた身体から煙りが上がりボロボロと崩れ落ち、灰となって散っていく。
「主は言われた。汝、傲り高ぶらず謙虚なれ。日々の清貧を糧とし厳かなれ」
神父を囲む喰人鬼たちが次々と銀の鎖で貫かれ、十字架刃で切り裂かれる。
ジャララッ!!ジャララララララララッ!!!
「おお、主よ。迷えるものたちを救いたまえ。彷徨えよるものたちを導きたまえ。我に力を貸し与えたまえ。amen」
不死者の群れは燃える灰と化し、風に運ばれる塵芥となり散って逝った。
「なんだかんだ言って神父のおっさんもなかなかやるじゃねーか。っと、こっちは全部片付いたぜ」
シスターが最後の喰人鬼の頭を銃撃し吹き飛ばして塵に変える。
「ほとんど貴方が斃しましたがね。 ……さて、そろそろ高みの見物を辞めて出てきてはどうですか?」
神父が眼鏡をかけ直し廃屋の陰に潜む何者かに視線を向ける。
パチパチパチパチ
人気無い潰れた廃屋が並ぶスラムに木霊する渇いた拍手。
「実に素晴らしい腕前ですな。流石は狩人。我々の憎むべき天敵であり、永きに渡り競い合う好敵手、と言ったところですかな」
暗く澱んだ影の中からスウッと音も無く滑るように姿を現した。
血のように赤いタキシードを纏った壮年の男。
鋭い眼光に光るモノクルのカイゼル髭を携えた紳士然とした佇まいの銀糸のオールバックの初老の男性。
「……古代吸血種ですか……それも真祖に使える従騎士クラス」
赤いタキシードを纏う初老の紳士が僅かに口元を歪ませ嗤う。
「いかにも。私は麗しきかのお方、メルイヤー・フォンベルト・ブラッドレイ様にお仕えさせて頂いている執事で御座います」
老齢の紳士は片手を払い恭しく一礼する。