第4話 孤独と興味
真っ赤な手を見つめながら、俺は思った。あれ?首、繋がってるぞ?背中がどんと押された。足下には、あの女の首が転がっていた。
そう、殺されたのは女の方だった。そう認識できると、俺は我に帰り、振り返りながら叫んだ。
「誰だ?!俺を救ってくれたのは!」
そこにはよく知っている男がいた。俺の親父であるアレンだ。アレンは、俺が知る中で最強の男で、目標にもしている。ただし、中々家に帰らない。狩人としての腕は超一流と言えるが、親父としては最低の部類だろう。こいつは狩人としては尊敬できるが、人としてはまるで尊敬できない。そんな奴だ。
「お前なんでここに?!」
まるで分からない。こいつは、俺を放っておいて常に森の中にいた筈だ。ちなみに、俺の母親はいない。俺がまだ小さい頃に病気で亡くなった。だから、俺に母親の記憶は無いと言っても良い。なんなら、オリヴィアの母親が俺の母親だと思っていた時期もあった。親父が家にいる時間はとても少なかった。ただし、狩りの腕が集落一だとは周りの人から聞いていた。
「お前って言い方ないだろ。仮にも父親だぞ。それに大ピンチを救ってやっただろ。感謝しろよ。」
親父は笑いながらそう言った。それがなんだか無性に腹が立った。
「もっと早く助けに来いよ!だいたいこの女なんなんだよ!俺らと顔が違ぇじゃんかよ!」
八つ当たりなのは分かっている。俺の実力不足がこんな状況を招いたのだ。だけれど言わずにいられなかった。だいたい、コイツが俺に色々教えてくれりゃ、すぐに一流になれるんだ!周りの大人たちも、俺にはセンスがあるって言ってくれてるし…。
それに、ずっと気になっていた。女の顔が変だ。肌の色も違う。集落にいる人以外、見たことはないが、みんなこうなのだろうか。
「あ?うるせぇなぁ。あんま調子に乗ってんじゃねぇぞクソ餓鬼!女の顔がどうとか言うのは100年はえぇんだよ!」
鬼のような形相で、唾を飛ばしながら言ってきた。泣きそうになった。怖すぎだろ。
「す、すみませんでした……。」
上手く声が出せなかった。震えたようなかすれ声しか出なかった。
「まぁ、その辺にしとけ、アレン。大体、お前がちゃんと家に居たらこんな事にはなってなかったかも知らねーだろ?」
止めに入ってくれたのは、オリヴィアの父親である、ローランさんだ。昔からすげぇ優しいし、親父とも仲が良い。こんな父親が良かったなぁ。
「だけどよ、俺が居ないのは理由があるだろ?お前も知ってるだろ。」
機嫌が直ったような口調で親父が続ける。
「コイツはまだ餓鬼だ。知らんくて良いことだって沢山ある。そうだろ?お前だってオリヴィアちゃんに教えたくないことだってあるんだろうし。」
「それはそうだが…。」
やばい、ローランさんが押されてる。頑張れ!言いくるめろ!
「ノアくんももうそろそろ大人だろう?それに狩りの腕もそこそこになってきている。アレン、お前ほどではないにしても、そこら辺の大人よりも腕がたつぞ?」
さすがだローランさん!良く分かってるぅ〜。
「チッ、るせぇな。テメェもぶっ飛ばすぞ?」
「あ?やる気か?腕っ節だけなら俺だって負けねぇぞ?」
一触即発な雰囲気になってきた。この人達のガチ喧嘩はマズイ。どうしよう。俺があたふたしてると、心強い人がやってきた。オリヴィアの母親であり、ローランさんの奥さんのエマさんだ。2人もこの人には敵わない。
「あんたら子供の前で何してんのさ!!」
「「はい…すんません。」」
一気に2人ともシュンとした。そして、親父はローランさんとエマさんの2人に言いくるめられ、俺に話をしてくれる事になった。
親父が何をしているのか、あの女が何なのか、この集落は一体何なのかを。
親父、めっちゃ知っとるやん!!俺、知らなすぎやん!!