第3話 夕暮れ
今回は短めです。
「はぁ、はぁ、はぁ……、なんとかここまで来れたか。」
俺は集落の入り口付近にまでやってきた。試練のために訓練を積んできた。そのおかげか、大分早くここまで来れた。あの女を撒くことが出来ただろう。
少し休憩しよう。手に持った弓を横に起き、近くにあった巨木にもたれかかった。
「どうしよう、オリヴィアのためのものが何もない。どう説明したらいいものか…。」
そう呟きながら、俺は息を整えた。そろそろ戻らなければ。日も傾いてきた。疲労感を覚えながら、ゆっくりと腰をあげる。
ビュッと風が吹く。何の気なしに、俺は上を見上げた。するとそこには…。
「坊や、おまたせ。足速いのね。あたし疲れちゃったわ。」
俺を捕まえようとしてきた女がいた。すぐさま立ち上がり、弓を拾…。
「あれ?俺の弓は?矢もない!」
焦る俺に、ゆったりとした口調で喋りかけてくる。
「ふふ、本当に疲れてたのね。ここにあるわよ。ちょっと借りちゃったわ。」
女の背には、ノアの弓矢があった。俺はなぜ気づかなかったのだろう。いくらなんでもおかしい。
「早く返しやがれ!どんな汚い手を使ったんだ!」
俺は強く叫んだ。
すると女はやはり、ゆっくりと口を開いた。
「あら?気がつかなかったのかしら?あたしはちゃんと自分で拾ったわよ。この程度も分からないなんて、坊やではなく、赤ん坊だったかしら?」
おちょくってきた。腹が立った俺は、木を駆け上がる。ぶっ飛ばしてやる。
「まぁ、木を走って登ってくるなんて、そんなことができるのね。あたしともっと話しましょうよ。余裕を持つべきよ。」
女は俺のことを嘲笑いながら、そう言った。もうダメだ、一発顔面に決めてやる。そう固く決意した俺は、拳に力を込める。
「くらえ、ブス!さっさと俺のを返しやがれ!」
女の眉がヒクついた。
俺は渾身の力を込め、殴りかかった。よし、入った。そう確信した俺は、何故か中に浮いていた。と思ったら、苦しくなる。息ができない。
「坊や、あたしに向かってブスとは良い度胸してるわね。」
そう言いながら、女は俺を地面に投げつけた。
「ガハッ!……げほっ、げほっ、こほっ、なんて力と速さだ。お前何もんだ!」
無様にも顔面を強打した俺は、すぐさま振り返った。しかし、女はいない。代わりに、俺の首元にはオレンジ色に光る刃が見えた。そんな余裕は無いのに、夕暮れの空に見とれてしまった。
「まぁ、いいわ、坊やの住処もこの辺でしょ。道案内ご苦労様。死んだら良いわ。サヨナラ。」
ザシュッ、ドサッ。
草木がより赤く染まった。
俺の手も真っ赤になっていた。まるで太陽が手の上にあるかのように。