第76話 イラと真琴③
イラと真琴の師弟対決、本話で終結です。
つまるところ、甘かったのだろう。イラは混濁した意識の中で思考する。イラは真琴のことをずっと子どもだと思っていた。真琴はずっと庇護するべき生徒で、守るべき存在だと思っていた。
真琴は強い。それはわかっていた。イゾの町で、真琴が敵として現れた時、真琴がイラが知るもの以上に強くなっていることも知っていた。真琴が未知の力を行使してオーガの変異種を殺したことも聞いていた。それが危険な力であることも、真琴から聞いていた。
なのにイラは全てを理解した上で真琴をなめていた。真琴の危険度を、強さを、真琴が自分に手が届く可能性を持っていることを見逃していた。
それがこの様。真琴はイラを見下ろし、今真琴に殺されそうになっている。
真琴はイラをずっと殺そうとしていたのに、イラは真琴を制圧しようとしかしていなかったから。その結果が今だ。
血だまりの中で、イラはゆっくりと目を開けた。血を流し過ぎたせいだろう。毒はだいぶ抜けてくれたらしい。しかし瘴気の影響は強く、体の感覚機能は狂ったままだ。
真琴は黙ってイラを見下ろしていた。とどめを刺そうというそぶりはない。ただ黙って、動かずにイラを見つめている。
まるで救いを待つように、真琴は沈黙している。
『おいおっさん。ここどこだよ』
頭の中を懐かしい言葉が木霊した。リリアーナに拘束されて連れてこられた真琴は、開口一発イラを「おっさん」呼ばわりして、家を出て行こうとした。
『自分と戦って勝ったら、ここから出て行ってもいいでしょう。責任は全て自分が取ります』
だからイラはそう言って、真琴を引き留めたのだ。その後イラと真琴は初めて戦って、結果はイラの圧勝。真琴は一時的にイラの生徒になった。
生徒になった真琴をイラは毎日叩きのめした。強くなるためには、まず自分自身の弱さを知らないといけない。限界の一歩手前まで、果ては真琴に恨まれるであろう領域まで追い込み、徹底的に真琴のちんけなプライドを打ち砕いた。
どうせ一時の関係と思い、イラは一切の手抜きをしなかった。真琴は思いのほかイラの指導についてきた。負けん気を発揮して食いついてくる真琴のことを、内心イラは感心していた。でもそれだけ。それ以上にイラが思うところはなかった。
関係が変わったのは真琴がイラの家に来てから二週間。新ロエ村に不死の怪物が現れてからだった。
*
ドクン、ドクンとイラの心臓は鼓動している。流れた血を補うように、何度も何度も少ない血液を全身に巡らせる。
この心臓はイラ本来のものではない。復讐を果たすために、強くなるために取り込んだ精霊器の一つだ。
誰かを殺すための「武器」が、今イラを生かしている。皮肉だ。しかしその皮肉を笑うつもりはない。
帝国の不死の怪物と出会った。真琴は奮戦し、負けた。怪物は強く、真琴は怪物に勝てるほど強くはなかった。三つ目の龍剣の異能を解き放ち、健闘したが、力及ばず、片腕を失うことになった。
そうだ。あの時も真琴は……
『誰か、助けて!』
と救いを乞うたのだった。
そして今も、ついさっきも、
真琴は、イラに救いを求めていた。
*
怪物をイラが殺して、イラと真琴は先生と生徒になった。それからしばらく平穏が続き、村人を一人見送り、真琴はまた成長した。
真琴は力だけでなく、心も成長しているのだ。少しずつ、少しずつ。でもイラからしてみれば全力疾走で、真琴は上へ上へと昇っている。
森に潜む帝国との戦いでもそうだ。複数の軍服に囲まれ、危機に陥った真琴は一人で戦った。その奮戦はシイナがイラやエクスを呼ぶ時間を作り出した。
イラの本性を知っても真琴はイラから離れていかなかった。それがイラには不思議で、嬉しかった。
戦いが終わって、王都に向かって、真琴が死にかけて、今。イラは震える口元に笑みを作った。
「ふふ……こうして、みれば。じ、ぶんと……まこ、とはまだみじ、かい付き合いじゃ……ないですか」
ピクリと、眼前に立つ真琴がイラの言葉に反応した。
イラと真琴のともに過ごした時間は少ない。当たり前だ。まだイラと真琴が出会って三か月ほどしかたっていない。積み重ねた記憶も短いに決まっている。
けれど、
「ここで、終わるわけにはいきませんよね」
まだだ。まだイラは真琴との思い出を積み重ねていない。
イラは誰かの師匠になれるような人間ではない。復讐のために、親友を見捨てたような男だ。誰かを導けるような人間ではない。
ルーメンドのことを、イラは思い出した。だらけ切った顔をした希代の大馬鹿野郎。一方的にイラの親友を名乗り、死んでいった馬鹿野郎。
『お前は大した奴だと思うぜ?』
いつだったか、イラはルーメンドに言われたことがある。何を言うかとイラは思ったものだが、ルーメンドはこうも言っていた。
『そこまで復讐に身を傾けられるってことは、それだけ情が深いってことだ。そんだけ情が深いなんて、大した奴だ』
いい師匠になれんじゃねぇか? ……なれるはずがないだろう大馬鹿野郎。情が深かろうがなんだろうが、やってしまったことはやってしまったこと。イラが味方に、ルーメンドにした仕打ちは消えない。
ルーメンドは笑って死んでいった。誇らしげに、後悔なんてまるでない顔でイラに殺された。イラは許せない。自分自身を許せない。自分の情のために、ルーメンドを殺した自分を許せない。
でも、でもな。
「お前の言うような人間に、俺だってなりたいんだよ」
誰かを導けるような、立派な師匠に。
ルーメンドのような、情深い大した奴に。
操糸。全身の傷口から銀色の糸が飛び出てくる。それはイラの傷口を勝手自在に縫合し、つなぎ合わせる。
傷が深い? なら傷を塞げばいいだけだ。
体が動かない? なら使える部分をかき集めて動かせばいいだけだ。
「聞きなさい。真琴」
イラは血だまりの中からゆっくりと身を持ち上げる。かけていた眼鏡が落ちた。イラは両目から藍と緑の淡い光が発せられる。淡く光る眼で、イラは告げた。
「自分は今まで君のことを子ども扱いしていました。ですがそれはもうやめます。認めましょう。真琴。君は強い」
イラは立ち上がった。立ち上がって、真琴と向き合う。“龍骸”に覆われた真琴の表情はわからない。イラの言葉が真琴に届いているかもわからない。
それでも、イラは真琴のために、そして自分自身のために言うのだ。
「だから自分は――俺は真琴を殺します。殺す気で、戦います。今の真琴にはそれぐらいがちょうどいい」
信じてますよ。その言葉に真琴が笑った。そんな気がした。
イラは満身創痍の体を引きずるようにして六色細剣を構える。イラをずっと支えてきてくれた相棒は、今もイラを助けてくれる。聖銀でできた刃に刃こぼれはなく、複雑な機構は一切の故障がない。
「行くぞ真琴!!」
血みどろの手で六色細剣を握りしめ、イラが叫んだ。
*
瘴気に身を侵され、全身を切り刻まれたせいで、イラは万全からほど遠い状態だった。しかしイラは顔に笑みを浮かべていた。
イラは強烈な殺気を真琴に――龍に向ける。龍はイラの殺気を受けて、臆するように後ずさりする。
龍はさっきよりも小さくなっているように感じた。気のせいか、それともイラを仕留めるために力の大部分を使ったのか。少なくともあの厄介な八本腕は出ていない。
まぁいい。強いままか、弱くなったかはこれからわかる。イラは六色細剣を龍に叩きつけた。龍は龍剣で六色細剣を受ける。イラは操糸に無色の精霊を流し込む。傷を塞ぐために体外に出ていた操糸がドクンと脈打つ。膂力を増して龍を押し切る。
「死ね死ね死ね死ね」
「かりめろとろ」
囁くように憎悪を込める。龍の持つ龍剣が弾き飛ばされた。力比べでイラが勝ったのだ。体勢を崩し、首を晒す龍にイラはニタリと笑い、龍の首を左手でつかみかかる。
「ひはっ!」
イラは左手で龍をつかんだまま、強引に大きく薙ぎ払った。乱暴で力任せな一手。予測できなかったのか、龍はろくに抵抗できずに投げ飛ばされる。
だが龍もやられっぱなしではない。飛ばされながら白炎の爆弾を生成し、イラを焼き殺そうとする。
「ふん!」
イラは精霊術……ではなく、足もとに散らばる瓦礫を蹴りつけた。瓦礫に触れた白炎の爆弾が誤爆し、イラへは届かない。
瞬歩。白炎の余波をすり抜け、イラは投げ飛ばされる龍との距離を詰め、六色細剣を振りあげる。振り下ろされた六色細剣は龍の右肩を抉った。
ぐちゃりと、くぐもった音が聞こえる。その音にイラはまた嗤う。
帝国に復讐をする時のように嗤う。
「がっ」
「しぃぃぃぃぃあっ!!!」
連撃だ。イラはべっこりへこんだ肩にニンマリと笑い、精霊を集めて陣を編む。
「ネク エザク」
突き立てられるのは風の剣。高速で打ち込まれた無形の剣に、“龍骸”が揺らぐ。
「いあ」
「黙れ」
不協和音で精霊術を破壊しようとする龍に、イラは龍の顔面と思わしきところをつかむ。そしてシリンダーを黄に回して六色細剣の引き金を引いた。
ガキンと、龍の顔面を岩石が覆った。この不協和音が真琴の口から生じるものなら、真琴の口を頭ごと覆ってしまえばもう使えないはず。
息ができない問題など、かなたへ放り捨ててしまえ。むしろ敵の息ができなくなるなら好都合だ。
「ネク エザク」
ガツンと、もう一度風の剣を“龍骸”に叩きこむ。“龍骸”は壊れない。
「ネク エザク」
もう一度。“龍骸”は壊れない。
「ネク エザク」
もう一度。壊れない。
「ネク エザク」
壊れない。
「ネク エザク」
やはり壊れない。ならば、
「ネク エザク ネク エザク ネク エザク ネク エザク ネク エザク ネク エザク ネク エザク ネク エザク ネク エザク ネク エザク ネク エザク ネク エザク ネク エザク ネク エザク」
“龍骸”が砕けるまで続けるだけだ。何度も何度も詠唱し、イラは“龍骸”の破壊を試みる。
繰り返して二十回。“龍骸”がビシリと嫌な音を立てた。抗うように、“龍骸”の鱗がキチキチと音を鳴らし始める。
音が響き、頭部を覆っていた岩石がゆっくりと崩壊を始める。なるほど、声ほどではないにしろ、鱗をすり合わせる音も精霊術を破壊する力があるらしい。
「こいつは模倣できないな」
瘴気のせいで体は依然としてろくに動いてくれない。だが血と一緒に毒と酒が抜けたおかげで義眼をはじめとした精霊器たち絶好調だ。なにせ神経が瘴気にやられて動かない体を、全身に張り巡らせた操糸で無理やり動かしているような状態だ。
「この音は音に瘴気を織り交ぜているのか」
あくまで現象である音に、六色の精霊の含まれる瘴気を加えることで、精霊術に対して概念的に攻撃をすることがこの不協和音の正体。
理解できても再現できない異能。しかし種が分かれば底も見えてくる。対抗策も見つけられる。
「ひひっ」
イラは操糸を強引に操作。無理な駆動で、神経と筋肉を引き裂かれる激痛に襲われる。けれどその激痛すら今は愛おしい。
「ひぃぃ……あ!!」
引き金を引き、六色細剣に岩石を纏わせる。イラは渾身の力を込めて砕けかけた右肩に六色細剣を叩きつけた。
「ぐらあああああああああああああ!!!」
イラの猛打を受けて、ついに漆黒の“龍骸”が砕ける。砕けたところから瘴気が噴き出て、真琴の素肌が露わになる。
龍は右手に龍剣を持っていた。しかし右肩は今破壊した。龍は龍剣を持つこともままならず、取り落としそうになる。
「その程度じゃねぇだろ?」
隙まみれの龍に、イラが攻撃の手を緩めることはない。隙を見せる方が悪いのだ。“龍骸”は絶対無敵の外装ではない。イラは龍の右膝を左足で蹴りぬいた。
「じ……がぁぁぁぁ」
「ウレアノト アリ ウテツオト イウク」
続けて創造するのは剣よりも突破力の高い杭。しかも貫通力のない風ではなく、圧倒的強度を誇る透徹の結晶。杭は龍の右膝を一撃で撃ち抜いた。
「死んでくれるなよ?」
龍はイラに離れろと言うように龍尾を薙ぐ。イラは後方に飛びのき、陣を形成。同時に六色細剣を地面に突き立て、引き金を引く。
「あげがろまもみめも……お?」
「はっ」
六色細剣で作ったのは通りを作り替えた土壁。速度を最優先に、強度は二の次だ。その後ろでイラは陣を形成する。
だが陣は龍の不協和音で崩壊するはず。だというのにイラは陣を形成し、あとは詠唱だけというところまで来ていた。
「ウレアノト アリ ネグネク ウテツオト エソボロウ イタグ ……そのレジスト能力はしょせん音だろう」
土壁ごと突き破って放たれるのは百近い透徹の礫。イラの代名詞“穿つ透徹の礫”だ。龍の眼前に致死の礫が迫る。
「あいうえ……ごぐがっ!!」
龍は透徹の礫を破壊しようとする。だが礫は速い。崩壊を始めるより先に礫が龍を穿つ。
「が……い?」
“穿つ透徹の礫”は本来対帝国の奥義だ。龍は帝国のものではない以上、威力は半減、追尾機能もない。
それでもなお、イラの固有術式は“龍骸”を撃ち抜くに十分だった。龍のあちこちに貫通痕が空く。
「不思議か?」
これでおあいこだ。イラも龍も傷だらけ。イラは銀色の操糸を全身の皮膚と肉の間で蠢かせながら言う。
「簡単な話だよ。お前の能力は音を媒介に行う。そして精霊術以外には効果がない」
なら精霊術で手っ取り早く音を遮る壁を作って、その裏で出の速い精霊術を使えばいい。精霊術にしか効果がない以上、精霊術で作り終わって精霊の働きの消えた土壁は壊せない。音である以上、完全に防ぐことは無理でも、効果を薄めることはできる。
「そら。また隙ができたぞ」
体を穴まみれにして、真っ黒な血を流す龍。穴は“龍骸”が瘴気で覆って隠す。だがそうするたびに“龍骸”の力が弱まっていることが分かった。
“龍骸”の放つ瘴気は無限ではない。上限があることはわかっている。イラは龍に飛び掛かり、顔面をガシリとつかむ。
「今度は削ってやる」
瞬歩。イラは町を駆け、まだ崩壊していない区画の建物のところまで来る。イラは龍の後頭部をつかんだまま、顔面をレンガ造りの壁に押し付けた。
「ひぃぃぃっはあぁぁぁぁ!!!」
「がららららららららららららっ!!!!!」
そして走る。イラは龍の顔面を壁に押し付けたまま、イゾの町を疾走した。ジャリジャリジャリと“龍骸”の表面が削れていく。龍はイラから逃れようと暴れるが、イラは嬉々として走り続ける。
「ぎ……あ、せ。んせ」
「だらぁぁぁぁっ!!」
町の端から端へ。イラの眼前にイゾの町の壁が迫る。イラは一層龍の頭を強く掴みしめ、グルンと一回転してから龍を壁に投げつけた。
投げられた龍は壁にぶち当たり、のめりこむ。陥没した穴にすっぽりはまった龍にイラは接近。乱暴に龍を掴み上げ、軽く放り投げる。そして操糸に、ありったけの無色の精霊を叩きこみ、龍を空高く蹴り上げた。
腹を蹴られた龍は町を高く見下ろすところまで浮上する。イラは両足に力を込め跳躍。龍よりも高い位置に飛び上がった。
「せん、せい……」
「久しぶりですね。真琴」
顔面の“龍骸”にやすりをかけたおかげで、真琴の顔と対面できた。真琴の目には正気の色がある。イラは疲れ切った表情の真琴を見て、小さく笑った。
「ようしゃ、な」
「それはもう、容赦する余裕なんてありませんでしたから」
「あんだけ一方的に殴っておいて……」
「それはこちらのセリフです」
二人は親しげに言葉を重ねる。だがこれが一時的なものであることはイラにも真琴にもわかっていた。
また真琴は漆黒の“龍骸”に覆われて、自我を失ってしまうだろうし、イラもそうなれば本気で真琴を殺しに行く。
落ち着いて言葉を交わすのは、全てが終わった後のことだ。イラは黒い血涙で汚れた真琴の目をまっすぐ見て告げる。
「今からまた本気で真琴を殺しに行きます。いいですね?」
「あぁ」
「信じています。だから死なないでください」
「無茶苦茶……でも先生。俺を信じろ」
「えぇ」
その言葉にイラはまた笑う。そして真琴の顔がまた“龍骸”に包まれる。だが“龍骸”の黒はだいぶ薄らぎ、真琴のほっとした顔が透けて見えた。
「ひはっ!」
イラに凶相が浮かぶ。二度目の空中戦。アドバンテージはイラにある。
これから龍には一切の行動を許さない。上空五十メートル。イラはシリンダーを回転。流水の刃を生み出す。
「しぃぃぃぃあ!!」
イラは龍の上を取ったまま、流水の剣で一息の間に二十の斬撃を叩きこんだ。龍は全ての斬撃を“龍骸”に受ける。
「エタナウ」
流水の刃が膨れ上がる。龍を囲むように、十六の水槍が顕現する。龍が不協和音を奏でる前に、水槍を龍に打ち付ける。
「そら!」
「がぎがぁ」
鋭い水槍を受けて、“龍骸”が歪む。イラは水槍が撃たれている間にも六色細剣で休む間もなく斬りつけている。
「エタナウ」
水槍が終わる。四十メートル。シリンダーを回転。赤に変えて詠唱。圧縮した火炎の獄に龍を閉じ込める。
「ぎぎぎぎぎぎぎ」
龍が悲鳴を上げる。余裕はない。上げた悲鳴は不協和音に。獄の存在が崩壊を始める。
「なら……エタナウ」
三十五メートル。緑に切り替える。巻き起こすのは嵐。暴風で再び龍を打ち上げる。
「ああああああっ!」
「ウレアノト アリ ウテツオト エタナウ」
四十メートル。飛んだ龍に下から透徹を放つ。体を撃ち抜かれた龍は力を失って落ちていく。
「せぁっ!」
龍がイラの前まで落ちてきた時、イラは龍を六色細剣で殴りつけた。一気に落ちる。二十メートル。シリンダーを回転。黒。闇の渦巻く六色細剣から、黒の波動で追撃する。
「あっ? あ、ああああああああああ」
波動は龍を突き抜け、消える。込めたものは恐怖と混乱。龍は精神がかき乱されて身動きが取れなくなる。
「ようこそ。エタナウ」
黄のシリンダー。十五メートル。詠唱と引き金が引かれるのと同時に、大地が隆起した。これで零メートル。隆起した大地は杭の形をしていた。巨大な杭に貫かれ、龍は動きを止める。
「ウウフオボ オレライクウ」
杭ごと巻き込む暴風。杭が砕け、また龍が宙を舞う。イラは跳ね飛ぶ瓦礫を足場に接近。シリンダーを回転。最後に白。六色細剣で“龍骸”を貫くと同時に解き放った。
「エタナウ」
「あ……くぁ」
“龍骸”の黒が一気に薄れた。浄化の精霊術。色は薄れて、ほとんど半透明になる。“龍骸”の力の底が見えてきた。とどめを決めよう。六色細剣を引き抜き、無色の精霊で強化した足で龍を蹴りつける。
「ひぎぁ」
通りを破壊しながら、景気よくバウンドする龍を見ながら陣を形成。詠唱。
「ウレアノト アリ エタグ イキヒムイ ウテツオト ニジス」
形成したのは四つの透徹。それは太い矢のような形状をしており、前方に一つ。後方に正三角形を描くように三つ顕現していた。
「エタナウ」
まずは一つ。引き絞られた弓から放たれたような勢いで、先頭の透徹が撃たれる。透徹は龍の右手の甲に当たり、貫いて地面に括り付ける。
「エタナウ」
これでもう龍は動けない。イラは残り三つも発射する。
「ぎ……あぁ」
三つの透徹はそれぞれ龍の手足を固定する。両手足を全て撃ち抜かれた龍は、イラから逃げようと弱々しく抵抗している。
地面を這う龍の前に、イラは立った。
「これで“詰み”だ。眠れ」
イラは龍に、真琴に向かって六色細剣を振りあげる。とどめの一撃を刺して終わり。
イラを見上げる真琴の顔は、心なしか安堵しているように見えた。
「しっ!」
イラが真琴の心臓めがけて六色細剣を振り下ろす。その瞬間。
イラの背後から、風切り音が聞こえた。
「はっ?」
六色細剣は振り下ろされなかった、代わりに舞うのは赤い血しぶきと腕。背後から迫る斬撃に、イラの右腕はあっけなく斬り飛ばされた。
ごめんなさい。実は三章のラストバトルってこれからなんですわ。




