表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/114

第55話 冒険者ギルド


 木陰の小鳥亭から出た後、真琴は冒険者ギルドへ向かっていた。そこまでの道のりは通りにかかっている標識を見れば分かる。

 整備された道やそこかしこにある標識など、イゾの町は何となく日本のことを思い出させる。合理性を求めると、どの町も似たようなものになるかもしれない。


 宿から三十分ほど歩いたイゾの町の中央に冒険者ギルドはあった。建物自体は他の建物と同じ青みがかった灰色のレンガ造り。しかしその大きさは周囲の建物より頭一つ抜けていた。

「でけぇな……」

 窓の数からして四階建て。入り口の扉は大型の馬車が楽に入れそうな大きさだ。直方体の建物は意図的なのか威圧感を与え、確かな存在感を町の中に示している。迫力だけで言えば王都の冒険者ギルド以上だ。


「とりあえずクイナスたちはこの中だろうな」

 今頃ビヘイヨと依頼の完了を申請しているはずだ。真琴は人の出入りの多い扉をくぐって中に入っていった。


   *


 冒険者ギルドイゾ支部。外観は威圧的だったが、中は木造の柔らかな雰囲気のつくりだった。出入り口に通じるホールにはたくさんの冒険者がおり、依頼の確認や雑談など各々自由にふるまっている。

「えぇと……クイナス達は」

 ギルドの受付は奥だ。真琴が中へ歩きながらきょろきょろと辺りを見回すが、人が多いせいでなかなか見つからない。そうこうしていると、近くの冒険者からの視線を感じた。


「ん?」

 冒険者ギルドには支部ごとに空気の違いがある。真琴が初めて入った小さな町の冒険者ギルドは新米を馬鹿にするような雰囲気が漂っていたが、次に行ったギルドは小ぢんまりとした、のどかなところだった。

 イゾの町のギルドはにぎやかであっても、刺々しいものはない。冒険者たちの顔も明るいし、前向きな空気だ。


「いつぞやの転移直後テンプレイベントみたいなことがあるわけでもねぇだろうけど」

「おい兄ちゃん。依頼か?」

 首を傾げていると、ガタイのいい冒険者の男が声をかけてきた。熊みたいな体格で背中に大きな戦斧を下げており、いかにも強そうだ。顔も何となく熊っぽくて愛嬌がある。胸元にかけてあるギルドタグの色は銀。銀級冒険者だ。


 冒険者の等級は下から順に木級、鉄級、鋼級、銅級、銀級、金級、聖銀級、真金級の八つに分けられる。

 イゾの町ほどの規模だと、銀級は十人程度いるかいないか。冒険者は銅級以上の昇級は難しい、この熊さんはかなりの実力者と見て間違いないだろう。

「いや、そういうわけじゃないけど」

「そうなのか?」

 熊さんは意外そうな顔をした。


「てっきり依頼を出しに来た村の小僧か何かだと思っていたが、なら新規登録か?受付まで案内しようか?」

「んん?」

 何かがおかしい。熊さんの顔は真剣に真琴のことを考えているようで、馬鹿にしているわけでも煽っているわけではなさそうだ。


「もしかして俺、戦えない人だと思われてる?」

 ピクリと、真琴の頬が引きつった。確かに今のマコトは商人や職人が普段着にするような布の地味な服を着ている。しかし腰に剣を差しているし、筋肉だって鍛えている自信があった。目の前の熊さんのようなゴリマッチョではないにしても、日本にいた時とは違う。真琴は細マッチョだ。

 腹筋だって六つに割れてるし、腕に力を入れれば力こぶだってできる。


「おいどうした?具合が悪いのか?水飲むか?」

 こんなこと今までなかったが故に、真琴は深い穴に落ちた気分になった。クラリと倒れ込みそうになると、熊さんが本気で真琴の身を案じてくれている。その気持ちは嬉しいが、違う。違うのだ。


「マコト?何してるんだ?」

 どう言えばいい。悩んでいると横から声をかけられた。“龍王の咆哮”の三人だ。ビヘイヨは近くにいない。ヘーハイトスが手に報酬の入った袋を持っているから、何事もなく報酬のやり取りは終わったらしい。

 クイナスは真琴と熊さんの双方を見やると状況が読めずに首を傾げた。


「金級……流れの冒険者か?」

「そうだが」

「この坊主の知り合いか?」

 熊さんはクイナスたちのギルドタグを見て、驚きを見せた後、親指でくいっと真琴を指さした。


「いや、この坊主は依頼を出しに来たのか、それとも新規登録者かと思って声をかけたんだが……」

「は?」

 熊さんの言葉にクイナスは目を丸くした。クイナスだけではない。ガッツもキョトンとし、ヘーハイトスに至ってはすでに口を手で押さえて肩を震わせている。


「お前ら……」

「ん?何かおかしいこと言ったか?」

「あははははははははは!」

 熊さんの言葉を皮切りに、ヘーハイトスが爆笑した。


   *


「ふひひっ……冒険者ギルドに行くならギルドタグくらいつけておけよ!」

「く……久しぶりだから忘れてただけだっての!」

 ところ変わってギルドのホールにある対面のソファ。クイナス、ヘーハイトス、ガッツが三人揃って座り、真琴と熊さんが二人で座っている。一見すると気のいい父親がクランに息子を紹介しているかのようだ。

 笑いをこらえながらのクイナスの言葉に、真琴はリュックをガサゴソ漁り、奥底から金色に輝くギルドタグを取り出した。


「すまん」

 ひどい勘違いしていたことに気づいた熊さんが申し訳なさそうに頭を下げる。その様子がおかしくてクイナスとヘーハイトスがまた笑う。ガッツも笑いはしないまでもそっと顔を横に背けていた。


「ベアさんなんかすげぇ勘違いしたんですって?金級の冒険者を村の小僧か何かだと……」

「うるさい。お前らは黙って依頼を受けろ。若者は働け」

 横を通りがかった若い冒険者の言葉に、熊さん――ベアはぶすっとした顔で言った。若い冒険者は「はいはい。言われなくても」と軽く言って依頼書の貼ってあるところへ向かう。そうした冒険者は彼だけではなく、何人もいた。彼らは皆面白そうにし、ベアも不機嫌そうながらも悪い気はしていなさそうだ。


「随分と慕われてるんだな」

 その様子を見て、ようやく笑いを納めたクイナスが言った。

「まぁな。俺はこの町の筆頭冒険者みたいなもんだし、若い衆の相談に乗ることも多い、ですからな」

 齢はベアの方が上のようだが、等級はクイナスたちの方が上だ。木、鉄、鋼の下位冒険者なら等級の違いはあまり感じないが、銀や金だと尊敬の対象になる。金級ともなれば、他の冒険者から敬語を使われることも多い。上位の等級の冒険者と話したことが少ないのだろう。ベアの言葉遣いはぎこちなかった。


「別に変に気を使わなくてもいいぞ。齢はあんたが上で、同じ冒険者だ」

「ん、そうか。なら遠慮なく。……それにしてもこの坊主が金級とは驚きだよ」

 金色のギルドタグを久々に首にかけた真琴に、ベアは感心した様子だった。


「俺もまさか戦えない奴と思われるとは思わなかったよ。剣だって持って来てたのに」

「すまんな」

 苦笑しながらの真琴に、ベアはガリガリと頭を掻いた。真琴の持っている剣には気づいていたが、地味なものだったし、安物か、飾りだと思っていたのだ。


「しょうがないんじゃないか?マコトが気づいているかどうかはわからんが、随分雰囲気変わったぞ」

「そうか?」

 クイナスの言葉だが、真琴はいまいちピンとこない。

「あぁ。前のマコトは何と言うか、鼻につくっていうかな。自分の強さをさらけ出してるって感じだった。もちろん前のお前も俺らは気に入ってたが、今は自然体で、表情も柔らかい。とんがってたものが丸くなった」

「ここに来る時にもヘーハイトスに言われたな。それ」

「俺もクイナスも、ガッツだって思ってたことさ」

 ヘーハイトスがソファの前にあるテーブルに頬杖をついた。その隣で腕組みしたガッツもうんうんと頷いている。


「いいことなんじゃないか?今のマコトの方が逆に強そうだ」

「だったらいいんだけどねぇ」

 イラに負け、怪物に負け、軍服たちに負け、トコイルには勝ったが魔獣人間を殺すこともできなかった。

 強くはなってるはずだが、実感はない。


「ところでクイナス達はこれからどうするんだ?」

 いい加減話を本題に切り替えよう。真琴が聞くと、クイナスは「どうしようか」と言った。

「依頼をこなしたばっかだからな。金には困ってないし、イゾの町を観光するか、いい依頼があったら受けようかとは思ってた」

 長旅には慣れているから、依頼を受けられないほど疲れているわけではない。しかし積極的に依頼を受ける必要性がないのも事実だ。


「なんでだ?」

「いやその」

 真琴は少し言い淀む。


「先生が何日か忙しいみたいでさ。俺もちょっと時間が空いてんだ。だから」

「なら是非頼みたい依頼がある」

「え」

 そこに口を挟んできたのはベアだ。彼は真琴たちの首に下がった金色のギルドタグを見て、決意を固めたようだった。彼の右手は銀色のギルドタグがしっかりと握られている。

 ベアの様子から、クイナス達も姿勢を改め、真剣な顔を見せる。


「ここ最近イゾの町の近くで――」


   *


「ってことで、クイナス達とそのベアって人と一緒に“晶窟”に行くことになった」

「“晶窟”ですか」

 木陰の小鳥亭に帰って来て、真琴はギルドであったことをイラに話していた。


 “晶窟”とは、精霊結晶が取れる洞窟のことだ。精霊結晶は単一の精霊が一か所に集中することでできるが、自然界でそのようなことは滅多に起きない。特に白や黒の精霊結晶などなおのことである。

 しかし単一の精霊が集中する場所が大陸には各所に存在している。そうした場所を“晶域”と呼ぶ。精霊結晶は精霊器を作るために必要不可欠なものだし、戦争などでの需要もある。それゆえに晶域は古くから人々から大切にされてきた。特に白や黒の晶域は希少なため、そこをめぐって戦争に発展したこともある。

 晶域を確保するために近くに町が作られることもあり、大規模な都市の近くには必ずと言ってもいいほど白や黒、あるいは大きな晶域がある。


 イゾの町の近くにも晶域があり、黄と緑の晶窟が町から半日ほどのところにあった。そして二年ほど前に、黄の晶窟にオーガが住みついたらしい。

「晶域には魔獣が寄ってくるからさ」

「聞いたことがありますね」


 晶域は高密度の精霊が充満している。居心地がいいのか別の理由かは分からないが、晶域には度々魔獣が住みつく。大抵の場合は晶域を採掘する人間の雇った冒険者や兵士によって討伐されるが、住みついた魔獣が高位の魔獣だと、討伐しきれずに放置されることもある。

「オーガが住みついたのは二年前。復興に必死で発見に遅れたんだと」


 戦後、帝国から取り返されたイゾの町は崩壊した町並みを取り戻すことに必死だった。そのせいで晶窟から精霊結晶を採掘する余裕もなかったのだ。


「元々オーガは金級の魔獣だしさ。討伐ランク金級ってことでギルドも困ってたらしい。小さい国の王国に、金級の冒険者はあんまりいないし。慣れてない銀級クランだとオーガを殺すのは難しいし」

 ベアたちイゾの町の冒険者ギルドにとってもクイナスたち金級クランの存在はありがたかったらしい。依頼を張り出したボードの端にある依頼書を持っていった時、受付はとても嬉しそうにしていた。

 真琴の話を聞いて、イラは作業の手を止めた。精霊器の明かりで照らされた広めの机の上には削られた赤色結晶と、削られた後の粉になった結晶があった。ずっと作業をしていたらしく、イラの顔には疲労がにじんでいる。


「……いいんじゃないですか?真琴は以前聖銀級の“森の王”を討伐したこともあるんでしょう?丁度いい腕試しになると思いますよ」

「そうだな。だから明日からしばらく留守にする」

 イラは真琴の言葉に黙って頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ