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第49話 再会のあいさつ


「おまえら……っ!何でここに」

「それはこっちの台詞だよ!王都にある騎士学校に入ったんじゃねぇのかよ!」


 真琴と“龍王の咆哮”の面々は歩み寄り、肩をバンバンと叩きながらも手荒い挨拶をしている。

「いやそれは……」

「あの、す、少しいいですか?」


 そこに割り込む声。馬車の奥から一人の男が出てきた。仕立てのいい服を着た、おどおどした印象の男だ。ビヘイヨ・カールランス。“龍王の咆哮”が護衛している商会の若旦那だ。

 彼は手に杖のようなものを持って、せわしなく半ば埋められた魔獣の死体を見回していた。


「ま、魔獣の群れは」

「とっくに倒したよ」

「そ、そうですか。よか……」


 ビヘイヨはほっと息をついて、視線を周りに巡らせ、イラのところでピタリと動きを止めた。

「え……うそなんでここに」

「ん?どこかでお会いしましたか?」


 口をパクパクさせるビヘイヨに、イラは首を傾げる。見覚えはない。だがどこかで見たような顔だ。思い出せず、視線を荷馬車に描いてある紋章に向ける。そして「あぁ」と呟く。

「大鐘に二本槍の紋章。カールランス商会。とすれば、あなたはあのド変人の」

「初めまして。私はカールランス商会若旦那を務めさせてもらっておりますビヘイヨ・カールランスと申します。イラ・クリストルク様でお間違えないでしょうか?」


 ビヘイヨはイラの姿を認めると、バッと馬車から飛び降り、服の乱れを手早く直して優雅な動きでイラに頭を下げた。彼からはさっきまで魔獣に怯えて隠れていた様子はない。切り替えの速さに“龍王の咆哮”の面々は目を丸くしている。


「……若旦那。納得ですね。初めまして。確かに自分はイラ・クリストルクです。証拠をお見せしましょうか?」

 イラは周囲に構わず、わずかに微笑みを見せて手の平を上にする。その明らかな愛想笑いに真琴が頬を引きつらせて「え゛っ」と声を上げる。


「いえいえ、『六色細剣』に銀髪、さらに藍と緑の虹彩異色にして先ほどのような高い戦闘力。間違いはないでしょう。しかし後学のために是非、お力を見せていただけると嬉しく思います」

 ビヘイヨは今までのつっかえつっかえのしゃべりが何だったのかというほど、滑らかにしゃべる。口から先に生まれてきたと言われてもおかしくはない。


「分かりました。あなたの父上には何かと助けられてきましたからね」

「恐縮です」

 ニコニコ。ニコニコ。イラとビヘイヨの愛想笑いが真琴には気持ち悪い。特にイラのそれは中々だ。

 汚い大人の世界がそこに広がっていた。


「見せて減るものでもないので……ウレアノト アリ ウテツオト」

 イラは固有術式『透徹』を詠唱。手の平の上に拳大の水晶を生成する。『透徹』の水晶は日の光を浴びて、キラキラと七色に輝いている。


「おぉ……これが話に聞く『透徹』」

「精霊術?」

 ビヘイヨはわざとらしい戦きと共に輝く水晶を見ている。“龍王の咆哮”たちも初めて見る水晶の精霊術に目を丸くしていた。

「ありがとうございました」

 ビヘイヨが頭を下げると、イラはかざしていた手を払う。同時に『透徹』の水晶も砕け散って消える。


「あんた、ほんとに何者だよ」

 高い戦闘力。真琴が先生と呼び、自分たちの護衛対象とも関わりがあるらしい。こらえきれずにクイナスが声を上げる。


「あなたたちが以前真琴とパーティを組んでいたという方々でしょうか?」


 イラは視線をビヘイヨから、クイナスの方へ向ける。イラは抑圧しているのか、如何なる感情も感じ取ることができない。ただどことなく緊迫したものが感じられた。

「あ、あぁマコトはクランの……。俺たちは金級クラン“龍王の咆哮”だ」

「先生?どした?」


 何となくイラの様子がおかしい。真琴がふと声をかけると、イラから緊迫したものが消えた。ゆるゆると首を振る。

 クイナスたちはそこでようやく自分たちが脂汗をかき、息もろくにできなくなっていたことに気づいた。ドク、ドクと心臓が大きく跳ねている。殺気はおろか敵意すら向けられていないのに、まるで初めてオーガと会った時のような感覚だった。


「いえ、単なる確認です。そうですか。あなたたちが」

 イラはクイナスたちから顔を背け、かちゃりと眼鏡の位置を直した。


「護衛の皆さん。今は私がイラ様と話をしているのです。割り込まないでいただきたい」

 お前にはこの男の異常さが分からないのか。かっとなりそうになる心を抑える。ビヘイヨはむすっとした顔でクイナスたちを見ている。そんな顔、ここに来るまで見せたこともないのに。


「いいです。自分も彼らとは話をしたいと思っていたので。ビヘイヨさんも自分に話があるようですが、後でいいでしょうか?」

「もちろん。私としても魔獣の死体が転がる危険な平原ではなく、安全で落ち着ける場所で話をしたいですからな」

 ビヘイヨはニコリと笑って答える。


「父からもイラ様とは良好な関係を築くようにと言われておりますので」

「それでその外面ですか?ますますあの変人とそっくりですね?」

「お客様に対してはいつもこのような態度を取らせていただいておりますよ。まぁ、父が変人であることは認めますが」

 そう言うとビヘイヨは馬車の御者台に乗り、持っていた杖を横に立てかけた。イラはその杖をしばらく眺めていたが、またクイナス達の方に目線を向ける。


「お互い言いたいこともありそうですね」

「……だな」

 イラの言葉にクイナスが重々しく頷いた。


   *


「とりあえず自己紹介から始めましょう。ええと……」

 イラは近くに魔獣がいないことを確認すると、その場に腰を下ろした。イラに倣って真琴、クイナスたちも腰を下ろした。


「あなたがリーダーですか?」

 腰に下げた長刀に目を向けながらイラが聞いてきた。クイナスはぐっと頷く。

「そうだ。俺が“龍王の咆哮”のリーダークイナスだ。個人等級は金級、武器はこいつだ」

 クイナスは長刀を軽く撫でると、ガッツを目で促した。


「金級冒険者ガッツ。武器は盾。前衛をしている」

「俺はヘーハイトス。こいつらと同じ金級で、弓矢で後衛を担当している」

 ガッツは言葉少なに、ヘーハイトスはイラを見定めるような目で言った。その場にいる全員が知っている真琴は自己紹介をしない。彼はイラと昔の仲間の間で、きょろきょろと視線を彷徨わせていた。


「自分は……」

 言いかけて、イラは何と説明すればよいか悩む。立ち位置で言えば真琴の先生。国の役職で言えば“黄の玉石”。二つ名なら“透徹の暴霊”。本職で言えば“精霊術士”か“精霊器職人”。戦闘スタイルなら“騎士”だ。

 相手を恐れさせたいなら“黄の玉石”か“透徹の暴霊”を名乗ればいい。だが相手は真琴の昔の仲間。恐れさせるつもりはない。


 そこでふと、イラは自分が緊張していることに気がついた。理由は分からない。相手は冒険者。戦ってもイラが負けることはほとんどないだろう。

 イラの胸に帝国への憎悪とは異なる、ほの暗い感情が渦巻いていた。


「おーい。どした先生」

「すみません。ぼーっとしていました」

 真琴の声。……どうせ隠しても真琴が言ってしまうだろう。恐れられるかもしれないが言ってしまえ。


「……自分はオウルファクト王国より“黄の玉石”の地位を与えられました。イラ・クリストルクも言います。どうぞよろしくお願いします」

 “黄の玉石”。その言葉を聞いて、クイナスたちはポカンとした顔でイラを見ていた。どうにも思っていた反応と違う。数秒して、ヘーハイトスがポンと手を打った。


「聞いたことがある。オウルファクト王国の所有する最強の精霊術士集団。たしかそれが“玉石”だ」

「とすると、あんたはやっぱり王国軍所属なのか?」

 “龍王の咆哮”たちは“玉石”の存在を知らなかった。イラは何度か瞬きをすると、こらえきれなかったようにふふっと笑い出した。


「そうか。そうですよね。自分のことを誰もが知っていて、恐れているなんて考えるのはあまりに行き過ぎた考えですね」

 どうにも気恥ずかしい。頭を掻きながら苦笑いするイラに、ようやくクイナス達は気を緩めることができた。


   *


「“玉石”が王国の所有する最強の精霊術士軍団かどうかは少し疑問ですがね。メンバーの中には王と王妃もいるわけですし、まず精霊術士と騎士の分類から始めないといけません。もっとも、誰もが千の軍勢と対等に戦える実力があることは事実ですかね」

 本当に千以上の軍勢と一人で戦って、皆殺しにしたことがあることは言わない。ひとまず、と言った様子でイラはヘーハイトスに答える。

「小難しいな」

「はい。だからまぁ“玉石”は王国の中で特に高い実力を持っている連中程度に考えてもらえればいいですよ」


 額にしわを作るヘーハイトス。代わりにガッツが口を開いた。

「軍属のあんたがマコトと一緒にいるのは」

「えぇ。おおよそお察しの通りだと思います。騎士学校の方から真琴の指導を頼まれましてね。彼の先生を今やっています」

「王国最強の一人が先生か」

「おかしな話に聞こえるかもしれませんが、事実です」

 イラはわざとらしく肩をすくめた。


「なるほど。納得できるところも多いよ。軍属ならさっきの実力も理解できる。俺たち冒険者は全部自分らで鍛えなきゃいかんが、軍なら専門の指導を受けられるからな。ところで俺たちの目的はあの商人の護衛で東部の村まで行くことだが、あんたの目的は何なんだ?」

 軍属の兵士は訓練を行い、巡回や町の近くに出た魔獣を倒すことで生計を立てている。当然訓練では専門の教官がおり、誰でも戦えるようになるような教育のカリキュラムがある。つまり凡才でも死なずに一人前になることができる。

 クイナスはイラが軍の特殊な訓練を受けた兵士だと考えた。それは大きな間違いではあるが、イラとしては特に問題はない。相手が自分の実力を理解しているのであれば十分だ。


「我々は王都に向かう最中です。戦後、自分は辺境の村にいたのですが、先日招集を受けましてね。やむなく王都に向かうことになりました」

「マコトと一緒にか」

「ええ。これでも騎士学校……というか王命での要請ですし、真琴からも指導を止めてほしいとは言われていませんので」

「む……」

 ガッツが少しだけ目を開いてうなる。真琴を見ると、イラと“龍王の咆哮”のメンバーの会話を物珍しそうに眺めていた。


「どしたガッツ」

 ガッツの視線に気づいたのか、真琴が聞いてきた。

「いや、何でもない」

「そ、そうか」

 つい冷たい口調になってしまった。真琴は視線を泳がせてまた黙り込む。


「……そうか。なら道は反対方向か。マコトには言いたいこともあったし、また冒険したかったのだが、残念だ」

「えっ」

 また冒険したかった。その言葉に真琴は驚いた顔をする。


「俺……」

「いえ、別にここでお別れにしなくてもいいですよ?」

 真琴がしゃべろうする前に、先に御者台にいたビヘイヨから声がかかった。


「どういうことだ?」

「簡単なことです。どうやら情報が古いか、食い違っているらしいですね。我々の目的地は新ロエ村にいるイラ・クリストルク様に荷物を渡すこと。そしてイラ様はここにいる。クイナスさん。一度イゾの町まで引き返しましょう。あの町ならイラ様も一緒に行くでしょう?」

「いいのか?」

「構いません。今から新ロエ村に行っても何もないでしょうから」

 ビヘイヨの言葉に、クイナスの顔がパッと明るくなる。ガッツとヘーハイトスも同じだ。


「てことはつまり」

「しばらくは彼らと同行することになりそうですね」

 まだ状況を飲みこめていない真琴の肩に、イラはポンと手を乗せた。

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